白い蝶の君(前)
それは虫の知らせ
「初めて会ったよね?最近引っ越してきたの?」
少し大きめの麦わら帽子に白いワンピース姿のその子は、俺達の姿を見てそう聞いてきた。
今日は買い物の為にと、喫茶化け猫を通り過ぎた先にある里にやって来た。
紫月は買い物中で、今は店の店員さんと談笑している。俺達はというと、買ってもらったアイスを食べながら店の外で通り過ぎる人をぼんやりと眺めていた。
するとふいに俺達の目の前を一匹の白い蝶が横切ったと思うと、それは白いワンピースに描かれた模様だった。
その子は俺達に気付くと、くるりと方向転換して俺達の前で止まった。
そして冒頭に戻る。
「うん!蛍達はお兄さんのお家で暮らしてるんだ!」
「いやそれ何も伝わってないと思うよ」
「お兄さんというと…もしかして山の麓の家の子?」
「伝わってるし…」
「お姉ちゃんすごい!」
「結構有名だからね。雪さんもみんなに話してるし」
「何やってるんだ雪さんは……」
そういえば前に喫茶店に行った時に、他のお客さんがなんか妙に納得したような顔をしていた気がする。なんなら今日だってお店の人が紫月さんと蛍の顔を交互に見ていた。
本当に何やってるんだ雪さんは。
「今日はお買い物かな?」
「そうなの!でも今はお兄さんがお話中だから、アイス食べてた!」
「そうなんだ。そうだ!私はこれから妹達と公園で待ち合わせしているんだけど、よかったら一緒に遊ばない?」
「遊びたい!あ、でも勝手に行ったらお兄さん困っちゃう…どうしようお兄ちゃん」
「あー…ちゃんと許可取れば少しくらい大丈夫じゃない?聞いてくるよ」
食べ終わったアイスの棒をゴミ箱に捨てながら、俺は店の中へと入る。
もう話し終えたのか、紫月さんはより新鮮なものを選ぶ為に野菜と睨めっこをしていた。
「紫月さんちょっといい?」
「暁くん、待たせてしまってすみません。何かありましたか?」
俺は先程のことを話すと、蛍が珍しく乗り気だということも伝える。
一通り話を聞いた紫月さんはニコニコと笑って頷いた。
「えぇえぇ、遊んでらっしゃい。公園と言えば場所は分かりますから、買い物が終わり次第迎えに行きますので」
「分かった。じゃあ行ってきます」
「怪我しないよう気を付けてくださいね」
応えるように手を振りながら蛍達の方へ戻る。
白いワンピースの子と楽しそうに話していた蛍は、俺に気付くとパッと笑ってこちらを見た。
「買い物終わり次第迎えに来てくれるらしいから、それまでなら遊んでいいってさ」
「やった!じゃあお兄さんが来るまで沢山遊ぶ!」
「私も一応一声掛けておこうかな」
その子はお店に入って行くと、紫月さんを見つけて何かを話した後に頭を下げた。
そしてこちらに戻ってくると、蛍と手を繋いで歩き出した。
「公園ってどこにあるの?」
「ここからそんなに遠くないよ。遊具はあんまりないけど、広いからのびのび遊べるよ」
「そうなんだー」
「蛍ちゃんは私の妹と同じくらいかな?」
「仲良くなれるかな?」
「蛍なら大丈夫だろ。ちゃんと挨拶するんだぞ」
そんな話をしていると、あっという間に公園に着いた。数人の子供が遊んでいるその公演は彼女の言う通り店からそんなに離れていないし、遊具は少ないが広々としている。
蛍と同じくらいの子供達は、俺達がやって来ると手を止めてこちらに走ってきた。
「お姉ちゃんその子誰?」
「見たことない子だー!」
口々に話しかけてくる子供達に人見知りを発動した蛍は口籠るが、ワンピースの子はそんな蛍を引き寄せるとにこりと笑う。
「この子は蛍ちゃん。今日は私の代わりに鬼ごっこに参加してくれるから、みんな仲良くしてあげてね」
その言葉に元気に返事を返した子供達は、あっという間に蛍の手を取って走っていってしまう。
「嵐みたいだ」
「ふふ、みんな元気だなぁ」
俺達はそれから何を話すわけでもなく、ぼんやりと蛍達が遊ぶ様子を見守った。
何か話したといえば、時折こちらに手を振る蛍達に手を振り返しながら彼女が羨ましそうに呟いた一言。
「私もあんな風に走れたらな…」
なんて返したらいいか分からなかった俺は、聞かなかったふりをしてそのまま黙り込んだ。
そんな感じで三十分以上は経っただろうか。
紫月さんが手を振りながらこちらに向かってくるのが見えた俺は、走り回っている蛍に声をかける。弾かれたように振り返った蛍は、紫月さんに気付いたのか手を振ると、こちらにパタパタと戻ってきた。
「お迎えが来たんだね」
「ちゃんとみんなに挨拶したか?」
「うん!お姉ちゃんもありがとうございました!」
「私こそありがとう。蛍ちゃんが良ければ、また妹と遊んであげてね」
大きく頷いた蛍を微笑ましげに見ていた彼女に手を振ると、迎えにきた紫月さんの元へと走り出す。
「沢山遊べましたか?」
「うん!蛍最後まで逃げれたよ!」
「鬼ごっこは蛍の勝ちだったね」
「それは凄いですね!じゃあ今日はデザートにプリンをつけちゃいましょうか」
「やったぁ!」
喜ぶ蛍を横目に、俺はふと後ろを振り返る。
ベンチに座った彼女は、クルクルと楽しそうに遊ぶ子供をただ静かに眺めていた。
そんな彼女の周りを白い蝶がひらひらと優雅に飛んでいるのが見えた気がして目を擦る。
もう一度見てみたが、見間違いだったのか、蝶はどこにもいなかった。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
面白いと感じたらいいねしてくれると嬉しいです!
感想等も受け付けております。




