おぶられたいものの話
「やぁーだぁ!!おんぶがいーいー!!」
「お兄ちゃん…おんぶしてあげようよ」
ボロボロと涙を流しながら駄々をこねる小さな子供。そして泣いている子供を慰めながらこちらを見上げるのは、先程までご機嫌に辺りを散策していた蛍だ。
俺は深い溜め息を吐くと、その子供の前に座り込む。
「分かったよ……おんぶすればいいんだろ」
「ほんと!?やったぁ!!」
数分前の大号泣は何処へやら。
声を弾ませて背中に飛びついて来た子供に、俺はまた溜め息を吐きそうになるのを必死に抑える。あまり溜め息を吐くと、蛍が頰を膨らませるからだ。
予想よりも重いその子供に首を傾げつつ、そういえばと口を開く。
「で?いつまでおぶってればいいの?俺達もう帰る時間だから、そんなに長くは無理だぞ」
お昼前には帰るようにしている朝の散歩。明確な時間は決まっていないものの、大体の感覚で帰っている。
紫月さんは俺達だけで家の外に出ることを一度は渋ったものの、許可した後はわりとルーズだった。ただそれは午前中の話で、午後——夕方ぐらいの時間は未だに許可は出ていない。
また、時間を問わず山の奥には入らないことというのが約束だ。
そんなこんなで毎朝散歩という名の散策をしていたところ、木の下で泣いている子供を見つけて声をかけたらこうなった。
「おーい聞いてる?」
鼻歌混じりでご機嫌なその子は、「聞いてるよー」と声を弾ませながら言う。
本当かと聞けば、また元気に頷く。絶対に聞いてないだろ。
「とりあえず、俺達の家の方に行けばいいか…」
「蛍達ね、お家あっちなんだよー」
紫月さんの家は山の麓。そしてそれより下に民家や学校がある為、俺達の家の方に行けば自然とこの子の帰路になる。なにより山の中に家は無いだろうし、選択肢はあって無いようなものだった。
「えへへ…おんぶだーいすき!」
「蛍も好きー!」
「はいはい、そりゃよかったね」
ずしりと重みを感じる体を抱え直しつつ、俺は機嫌を損ねない程度に相槌をうつ。
既に見えている家にホッとしながら、今日の昼ご飯はなんだろうかとぼんやり考える。
だいぶ暑くなってきたし素麺だろうか?
紫月さんの性格なら、胃を冷やさないようにと温かいうどんとかもあり得る。
そんなことを考えていると、背中の方から「そういえば」と声がする。
「二人は怖くないのー?」
「何が?」
「ここら辺、変なものが出るでしょ?ずーっとここに住んでたら、二人ともお化けに食べられちゃうかもよ?」
クスクスとどこか楽しげな声に、蛍と俺は顔を見合わせて首を傾げる。
「蛍達別に怖くないよ?」
「え、そうなの?」
「まあ百パーセント怖くないかって言われたら嘘になるけど、別にそこまででもないかな」
「へぇー二人って変わってるんだねー」
聞いて満足したのか、抱えた足はご機嫌に揺れる。
「でもなんで二人は怖くないの?」
少しして再び降ってきた質問。それに俺は一瞬空を見上げる。
こっちに来てから、座敷童子も不思議な犬にも河童にも出会った。なんならドアを凄い勢いで叩かれたこともあった。
最初は不気味だと思ったが、その度に紫月さんは俺達に色んな話をしてくれた。
たぶんだけど、前に紫月さんが言っていた通り、正体が分かったから不気味以外の考え方が出来たんだと思う。
それをそのまま伝えると、蛍も同意するように何度も頷く。
「そうなんだ、二人は私達のことを知ろうと頑張ってくれているんだねー」
「え?私達?」
嬉しそうな声と共に首に回された手が離れる。ふわりと背中からも重みがなくなって、俺はビックリして振り返る。それと同時に、隣からは蛍の驚きの声が上がった。
「どうしよう!あの子いなくなっちゃった!」
「嘘だろ?!なんで…ちゃんと俺の背中にいたよね…?」
急いで辺りを見回すが、おんぶを喜んでいたあの子供はどこにもいない。
二人で周りを探したが、見つけることは出来なかった。
そんな俺達の声が聞こえたのか、玄関の扉がガラリと開くと紫月さんが顔を覗かせる。
「お二人ともどうかしたのですか?」
「お兄さん聞いて!あのね大変なの!」
こちらにパタパタと駆けてきた紫月さんに、混乱しながらも二人で今あったことを説明する。そしてそれを聞き終わると、「ふむ…」と声を漏らして俺達を一旦家に入るように促す。
蛍がなんでと問うが、俺はとりあえず紫月さんに着いて行こうと妹の手を引く。
そうして玄関の方へ行くと、扉の前に何やらキラキラと輝く物があることに気付く。
「おや、やっぱりそうでしたか…」
「いやいやいやいや何これ!?」
「すごいキラキラしてるよー!」
玄関にあったのは黄金に輝く小判だった。
それも一枚や二枚じゃない。大量の小判がそこにはあった。
玄関なのもあって、俺達はそれを三人で拾って纏めることにする。一枚一枚がそれなりの重さがあって全て集め終わる頃には、隣から小さくお腹が鳴る音が聞こえてくる。
蛍は少し顔を赤くすると、誤魔化すように小判を一枚持ち上げる。
「何でこんなにキラキラが置いてあったの?」
「そうだよ。紫月さんが出てきた時にはなかったよね?」
そうすると、紫月さんは「おんぶのお礼ですよ」と微笑んだ。
それにあの子供が言っていた、『私達』という言葉を思い出す。
「じゃあまさか」
「はい。二人が会ったのは、おばりよんという存在だと思われます」
「あ!蛍知ってる!『おばりよん』って言うの!」
「あーそれなら俺も知ってる」
おばりよんという妖怪。背中にいきなり飛びついてきて頭を齧るとか、夜道で飛びついてきたのをそのままおぶって家まで帰ったら黄金に変わったとか、そういう妖怪だ。
「そういえば、おぶっている時やけに重く感じたような…」
「背負うと段々重くなるなんて言われていたりもしますからね」
「じゃあこのキラキラはあの子の…」
「おんぶのお礼でしょうね。きっとおぶってもらえたのが嬉しかったんでしょうね」
確かに背負っている時、あの子は凄く嬉しそうにしていた。鼻歌を歌っていたり、足をパタパタと揺らしていたり、それこそ他の子供と変わりなく喜んでいた。
「だとしてもこれってどうすればいいの?」
小判は現代では使えない通貨だ。それが山ほどあっては少し反応に困ってしまう。
だが紫月さんはそうではないようで、呑気に「お二人の為に取っておきましょうねー」と笑っている。
それに小さく溜め息を吐きながらも、これだけの量の小判は恐らくおんぶだけが理由じゃないだろうなと考える。
まあ、それをわざわざ言う理由もないから、これは俺の中に仕舞っておこうと思う。
ただ、おんぶだけでもあれだけ喜んでくれるならまたしてあげてもいいかもしれないと、俺は嬉しそうな鼻歌を思い出しながら思った。
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