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探索者の生徒

次話更新

21年12月29日22時ぐらい

 カッコつけて肩に掛けたカバンの角度が癪に障るぐらいでこれと言って大した特徴のない優男風の男、彼の名前は御原泰斗(みはらたいと)

 クラスは玖倫や千弦原と同じで一年四組に属する、何故か俺にあたりの強い男子生徒。

 見た目に反してプライドは高く、いつ見ても取り巻きに囲まれている。

 そして悔しいことにこいつは探索者だ。

 俺が探索者を目指していたことを知られた後は、事あるごとにマウントを取ってくる嫌な奴。

 一か月以上同じ内容の喧嘩を売りやがって、需給曲線を便所の壁にでも貼っといてほしいものだ。

 それに昨日ダンジョンに潜入している俺は探索者と言っても過言ではないのだ。

 探索者としてのキャリアはほぼ互角、こいつの低俗な煽りで心を乱されることはもうない。


 それに俺はついさっき夢が一つ破れたので反応する余裕がないのだ。


 御原が俺と探索者のキャリアが互角と言うのは、別にこいつが最近適性試験を受けたからというわけではない。

 探索者適性試験自体は十三歳の誕生日の時点から受けられるものの、倫理的な観点から見てダンジョンに入れるようになるのは満十五歳から。

 保護者の許可なくダンジョンに入れるようになるのは成人年齢である二十歳を過ぎてからだ。

 適性ありとの通知を受けた十五歳未満の人は、現役探索者からの講習と魔道具によって作られた疑似ダンジョンを用いた実践的訓練を行うことが決まっている。

 適性試験に受かってから半年で必要なカリキュラム自体は終えられるので、最短で探索者デビューするなら理論上中学三年生の十月に受験すれば問題ない。

 しかしそれでは高校受験の時期と被るので中学二年生の間に資格を取るのが一番メジャーなやり方だ、御原も中学二年生の時適性試験に合格したらしい。聞いてもいないのにベラベラと喋っていた。

 因みに、勿論成人してから適性試験を通った場合でも半年のカリキュラムは最低限必要だ。


「……もう休み時間終わるけど、ホントに偶然?」


 彼の詳細情報を思い出すので忙しい俺の代わりに応対するのは玖倫。

 表情を険しくして質問を投げかける。

 元から気の強そうな顔をしているからその迫力は半端じゃない、あんなの真正面に受けたらちびっちまう。


「そ、そんなことはないですよ!

 そ、そうだここに忘れものがあったんだ!

 なあ高園!」


「あ、ああ!俺がスマホを忘れたんだ

 いやあ、見つかってよかったなぁ」


 御原は後ろに控える男子数人の取り巻きの一人に振る。

 余りにも見分けがつかないので前に取り巻きA、取り巻きBと番号を振ったはずのなのだがもう覚えていない。

 誰だこいつ、居たっけこんな奴。


「だうと、私ずっとここにいたけど高園は一回も見てない

 つかスマホ取りに来るだけでこんな大所帯になることなくない?」


 訝しむように鋭い目を向ける千弦原。

 ……さっきからこの二人は何が言いたいんだ?

 偶然って言ってんだから偶然なんじゃないのか?

 そう思った俺は口を挟む


「偶然見てなかったとかじゃないのか?

 偶々って言ってるし」


「そ、その通り!

 だっさい絆創膏の不良生徒にしては中々分かってるじゃないか!」


 同調して勢いを取り戻す御原、一々癪に障るやつだ。

 それにこのさえっちイチオシの絆創膏のセンスが分からないなんて、これだからこいつとは合わねえ。

 ……なんだか味方であるはずの女性陣から睨まれているような気がするが、恐らく気のせいであろう。


「……てかさっきから失礼じゃない?

 人のこと貶さないと口開けないわけ?あんまり聞き心地のいいもんじゃないんだけど」


「そ、そうだそうだ!流石は玖倫、俺の言いたかったことを言ってくれた!

 それに素行も成績も酷いのはこいつらだって同じだぞ!」


 俺は校則ガン無視コーデの二人を指して言う。

 ……睨まれてるような気がするのは気のせいじゃないかもしれない。


「龍宮……お前一体何がしたいんだ?

 これだから馬鹿は……」


 挙句の果てに御原の方には可哀そうなモノでも見るかのような目をされた、取り巻き共も同様にそれぞれ失笑苦笑のオンパレードだ。

 なんだいなんだい!俺が何したって言うんだ!皆して俺のことをいじめて楽しいのかよ!?


「おっと、そんなことはどうでもいいんだ

 龍宮、いいものを見せてやるよ!これだ!」


 得意げな顔になった御原がブレザーの胸ポケットから取り出して見せつけてきたのは、手のひらサイズで白縁のカード、そこにはくすんだ灰色の毛並みを持つ獰猛な野獣らしき生き物が描かれている。

 あれは恐らくモンスターカードだ、召喚士がモンスターを召喚していない時には常にあのようなカードの形に収まっていて、ダンジョンからドロップする時もあの形で落とすらしい。

 材質はとてつもない頑丈さと軽さを誇りながら、耐火耐酸性能も兼ね備えている、ダンジョン産出物特有の反則謎合金、正式名称はトリルカード。

 ダンジョン協会の運営するダンジョンショップではモンスターカードを収納する為のカードホルダーも販売されおり、俺は適性試験の結果が出る前に買った。

 今は自宅アパートの押し入れで埃被っている。


 苦い記憶を思い返しながら奴の方を見ると、俺の視線など意に介さずにチラチラと女性陣の方へ視線を向けているではないか。

 もう二人は俺たちの会話など興味ないと言わんばかりにトランプを取り出して神経衰弱を始めているぞ。

 話す人の目を見て喋りなさいと習わなかったのか、いやしかし好きな人とはちゃんと目を合わせられないと立ち読みした今週号のちやおに書いてあった。

 まさか、こいつ……


「……お前また突拍子もないことを考えてないか?

 バカの目をしているな」


「バカの目ってなんだよお前!」


「バカの目はバカの目だ!

 ええいお前と話してると全く話が進まないな!いいからこれを見ろ!」


 怒鳴った御原は手に持つカードを更に強調する。


「これはD-ランクモンスターの狼男だ。

 昨日潜った隣町のダンジョンでドロップしたんだ!この段階でDランクモンスターを入手出来るのはかなりのレアらしい!

 主力モンスターのレベルも相当に上がってきていて稼ぎも中々なんだぜ?」


 そう語る目は相変わらず俺を捉えていない。

 誰に話してるんだこいつは、お前の視線が向かう先には一組もカードを取れず涙目になっている玖倫しかいないぞ……ってどうやったら神経衰弱でそんな差が付くんだよ。


 因みにモンスターのランクについてだが、大まかなランク分けでは昨日俺が遭遇したゴブリンとスライムを最下層のGとして、G+、F-、F、F+、といった具合に上がっていきA+までの計二十段階で表される。

 D-ランクとなると下から数えた方が早いが、こいつが探索者を初めて一か月ということを考慮すると中々のものなのだろう。

 ……あの尋常ではないタフネスのゴブリンがGランク、そう考えると彼の手に握られている狼男のカードや、肩に引っ掛け続けているカバンの中に入っているであろうカードホルダーの見方も変わってくる。

 やはり昨日はダンジョンハイにでもなっていたのだろう、今見ると正直怖いから近づけないでほしい。


「お、龍宮

 やっと僕の凄さが分かったようだな、そんな目をしている」


「どういう目だよそれは」


 当たらずとも遠からず、だとしてもこんなスカポンタンには少しだろうと見透かされるのも腹が立つ。

 俺ってそんなに分かりやすいか?


「そんなのどうでもいいからもう帰ってくんない?

 用事済んだでしょ」


 口を開いたのは俺でも御原でもなく、トランプでの一勝負を終えた玖倫だった。

 先ほどより言葉にトゲがあるのはきっとご機嫌斜めになるに至った得も言われぬ理由でもあるのだろう。

 前世はきっと名探偵である俺の推理によるとキーアイテムは恐らく千弦原が今まさにカバンに仕舞おうとしているトランプが最有力だ。


「い、いや玖倫さん、そんなこと言わずにさ、見てよ!

 D-の狼男!今日協会に行って召喚魔申請を出すんだ!」


 召喚魔申請とは、カードとしてドロップしたモンスターカードをダンジョン内で召喚出来るようにするために軽い審査に出すことである。

 ダンジョンショップやダンジョン協会のどこかに持ち込めば、一般的に申請が出されてから審査が通るまでの七日間を待てば受け取りが可能になる。

 ダンジョンストアかダンジョン協会本部または各支部からの申請が可能であり、受け取りに関しても同じ。

 申請にも受け取りにも探索者カードという適性試験と半年間のカリキュラムを突破した人が受け取る事の出来る探索者の免許証みたいなものが必要だ、これによって例えば出先のダンジョンでモンスターカードがドロップした場合なども、探索者カードを読み取ることで分かる紐づけされた戸籍と遠ければ現地での受け取りか自宅近くのダンジョンショップ、または協会での受け取りを選ぶことが出来る。

 それと基本的に探索者カードを所持していなければ探索者としての権利を持っていないのと同じこと、召喚魔申請だけでなくダンジョンへの入場やダンジョンショップでの探索者専用アイテムの購入、アイテムによればこそだが所持すら違法になる場合もある。

 ……昨日の俺?ちょっと何言ってるかよくわからない。


「へぇ、それがなに?

 凄いの?」


「す、凄いに決まってる!

 狼男と言えば同じD-ランクの中でも突出してSTが高い傾向にあるんだ、強個体であればその数値はlv1時点で25を超えるんだぞ!」


 自慢のカードを見せても眉一つ動かそうとしない玖倫に対し、流石の御原も声を荒げる。

 

いくら相手が可愛くても流石に譲れないところがあるらしい、いいぞ御原!

最近は女に甘い男が多すぎるってんだ、鬼巻とか鬼巻とか鬼巻とか!

 漢としての尊厳を忘れるな!ここはいっちょガツンと言ってやれ!


「響子、そんな拗ねないの

 神経衰弱で負けた腹いせって感じで……あのー、御原くんのこといじめるのは、うん、可哀そうかも」


「腹いせじゃないし……」


「きょーこー?」


 ぶっすりと頬を膨らませた玖倫の額を、指でこつんと押す千弦原。


「……ごめん」


「よくできました!いーこ!」


「ちょ!ウザいって愛海!!」


 玖倫の頭を撫でようとする千弦原だったが、手を振り払われている。

 ……なんだ?なんで天使が薄汚い地上のゴミ溜めでじゃれ合っているんだ?


「……ああ、全然いいんだ

 別にそんな怒ってないし、むしろありがとうを贈りたいから」


 ……はっ!

 てめしっかりしろ御原ァ!!

 何顔赤くして頬掻いてやがるこの俗物が!漢としての尊厳はどこに行った!

 後ろの取り巻きAから取り巻きDまでは一人残らず成仏しているし、漢とは如何してここまで無力なのか……


「そ、そういうことだから俺たちはもう行くよ。

 またね、玖倫さん、千弦原さん」


「……じゃね」


「はいはいお疲れー」


 取り巻きを引き連れてぞろぞろと教室に戻る御原。

 玖倫は少し膨れっ面で、千弦原はやっと行ったと言わんばかりの表情で言葉を返す。

 ……俺は?


 ごほん、地上に舞い降りた天使のせいで動揺して説明しそびれてしまった。

 今御原の言ったステータスというのは、モンスターの強さを測るのに非常に重要な項目だ。

 ステータスは、体力を表すHP、魔力を表すMP、攻撃力を表すST、魔法威力を表すINT、防御力を表すDEF、魔法防御力を表すMDF、敏捷性を表すAG、の六種類があり、基本的にモンスターはステータスの強弱でその戦闘能力が測られ、それによって先程のようなランク付けがなされている。

 基本的と言っても強いスキルや魔法が使えたりなどでの事情があればそれによって危険度が上下するので、基本から逸脱している種のほうが多いくらいだ。

 因みに狼男のST30と言うのは、そこだけ見れば大半のD+ランクモンスターを超える。

 因みに昨日俺が戦ったゴブリンの平均STは3だ。

 信じ難いが、あれで3なのだ。

 人間なんかが召喚魔なしでダンジョンで探索しようと思ったら数分でミンチだろう、まあ俺は生き残ったけど!!


 lvは敵を倒すことによって上昇する数値であり、これが上がるとステータスが上昇する。

 lvが上昇する仕組みについては一定の法則などは現状見つかっておらず、強い相手と戦えばlvが上がるだとか、より困難な状況を逆転することによって効率が上がるだとか、そんな曖昧な定説が唱えられている。

 観測方法はないが、ダンジョン内にいるモンスターにも能力差が開いていることがあることからレベルの概念があるであろうことは予想されている。

 因みにダンジョンでレベルが高いであろうモンスターを倒したとて、召喚魔申請を終えるとレベルがリセットされてしまうらしい。


 そんなことを思い返していると、キーンコーンカーンコーンと予鈴の鈴が鳴る。

 俺は冷や汗をかく、その訳は目の前に鎮座している三分の二以上を残した重箱弁当。


「……御原めぇ!」


「あんたのせいじゃん……放課後までに返してくれればいいから」


「あはは……私たち先に行ってるわー」


 いつの間にかテラスには人っ子一人いなくなり、昼食を共にしていた少女たちも同様残酷にもここを去っていく。

 こうして貴重な昼休みは傍若無人で女好きの優男とゴリラによってその大半を奪われ、俺は空きっ腹で午後の授業を消化することが確定したのであった。

 胃はまだ消化したりねえっていうのにな!

平均ステータス


ゴブリン lv1 Gランク


HP 11

MP 5

ST 3

INT 1

DEF 3

MDF 2

AG 4


スキル なし

魔法 なし


狼男 lv1 D-ランク


HP 45

MP 20

ST 20

INT 8

DEF 16

MDF 16

AG 19


スキル なし

魔法 身体強化(自身のSTとDEFを一分間上昇させる)

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