昼休み
寝惚けて明日分の更新を今しました。
今更非公開にするのもあれなんで明日予定の更新を遅らせることで時間稼ぎして帳尻合わせをします
次話更新
21年12月27日18時ぐらい
「分かったな!?再来週までには必ずブレザーを購入しておくこと!
今日申し込め!いいな!?」
「ええ!そんな殺生な!」
「貴様みたいな奴は増長させるとろくなことにならん!普段の生活態度がマシだったらもっと寛大な処置をくれてやったがな!大体お前は弛んでるんだいつもいつも!
先一昨日は千弦原と玖倫と一緒になって校舎裏で花火やろうとするわ、先週は掃除時間に教室で雑巾と箒で野球してるわ、その前なんてあろうことか学……」
「ああもうわかりましたって!飯食う時間無くなっちゃいますよ!」
「おい待て!まだ話は……はぁ」
よし、この空気だったら逃げられる!
ため息をつく鬼巻を背に、生徒指導室の文字を記す学級札がある教室を飛び出して一年三組の教室へ急ごうとする。
「やっべえよ……
貴重なお昼休みがなくなっちまう!
早く戻らないと」
「龍宮、お望みはこれっしょ」
勢い任せに生徒指導室を出た瞬間に隣から声を掛けられたかと思うと、そこにはお手製重箱弁当を抱えながら勝気な瞳を片方瞑ってウインクをする玖倫の姿があった。
「ずっと待っててくれたの!?
ありがとぉ……!」
「いいよ気にすんなって!
ここからじゃ教室よりテラスの方が近いからそっち行こう、愛海もテラスで待ってるよ!」
「うわ、あいつも待たせちゃったか
申し訳ねえし、また小言言われそうだし……」
「そう思うんなら急ご!」
そう言うと、彼女は重箱弁当を抱えて走り出す。
「あ、待てって!」
俺は彼女に倣ってテラスへの道を急いだ。
廊下を走りまくって怒られ続け覚えた究極奥義、超高速早歩きを用いて。
「ヒッ!
それキモいからやめてって言ったじゃん!」
所変わってテラス。
ここは一年生の教室と家庭科室や理科室などの特別教室のあるA棟と、二、三年生の教室があるB棟を繋ぐ吹き抜けの渡り廊下から入れる。
雨風は凌げないものの、良天候時には空気が澄んでいて見晴らしもいいことから生徒に人気で早めに場所取りをしておかないといけない。
そんな所で一人で場所取りをしていた千弦原はというと……
「遅い
私は一人でこんなところに何十分も待たされて周囲からの視線に晒されてたっていうのに、お二人さんはいちゃいちゃと、偉く楽しそうですね」
片手にはスマホ、もう片手には購買で買って来たであろうあんパンを頬張りながらジト目で睨む千弦原。
どう考えても周囲からの視線なんて気にせずにのんびりしてたように見えたが、紳士な将来のトップ探索者は余計なことは口走らないのだ。
待たせたのは事実だしな。
「いちゃいちゃはしてないっしょ!」
「悪いな千弦原、今度なんか奢る!」
「うむ、よろしい」
「えー、じゃあアタシもね!」
満足げな千弦原に便乗する玖倫、こいつら俺に奢らせる時だけ食う量エゲつないからな……
定期的に来る奢りの日さえなければ昼飯代を節約する必要もなくなって玖倫の手間も減らすことが出来るんじゃないかと思って打診したことはあったが、千弦原には無言でデコピンをされ玖倫の弁当は三日間日の丸弁当になった。
それも何故だか米だけ異常に多かったのを覚えている。
「……今月は厳しくなりそうだ」
「まあまあ気にすんなって!それより早くしねえと弁当食う時間無くなるぞ!
ほら、これ!」
「おお、そうだった!昨日忙しくて今日は特に腹減ってるんだ!
どれどれ」
玖倫の差し出す重箱弁当を手に取り、派手な柄の風呂敷を丁重に解く。
顔を出したのは美しい漆塗りの三段重箱、漆黒の中に描かれた日の丸から出る金と赤の放射が醸す気品にほっと息をつく。
見惚れるほどの美しさだが、それ故いつになってもこの高級感には慣れない。
もし何かの拍子に落としでもして壊してしまったらどうしよう。
いや、こんなことを考えて萎縮するのはナンセンスだ。
将来のトップ探索者がこんな些細なことを気にしてどうするっていうんだ。
無粋な考えは振り払い、満を持してその重箱を一段ずつ風呂敷に並べる。
「おおおお!!相変わらず美味そう!!」
重箱と言えば、と短絡的な考えでおせちを想像するのはナンセンスだ。
かくいう俺も、なにかめでたいことでもあったのか重箱弁当初日はおせちだったので、これから毎日おせちになるんじゃないかと不安を抱いたことは記憶に新しいが。
玖倫の弁当は常に味、色合い、栄養バランスに気を配りながらも俺の好みを把握しつつ、毎日食べても飽きがこない程のレシピの豊富さ。
正直無料で食わせて貰っていることに申し訳なさを感じるレベルだ。
今日のラインナップは最上段にたっぷりのから揚げ、添え付けはポテトサラダとスパゲッティ、中断にはには自家栽培しているという野菜を使ったカラフルな肉炒めと餃子、最終段にはぎっしりと白飯が敷き詰められている。
因みにスパゲッティと餃子と聞くと弁当用の冷凍食品を思い浮かべてしまうが、彼女曰くこれは弁当にも合うように独自のアレンジを加えた特製らしい。
正直言われてみれば冷凍よりも美味いなっていう感じだ、この時ばかりは自分の馬鹿舌を恨んだことだ。
休み時間も大幅に削れてしまっていることだし早めに食ってしまおう。
「あんま野菜炒めとか好きじゃねえんだけど、やっぱ玖倫の作る飯は美味い!
なんというか繊細な味がするよなー」
「だしょー?」
「龍宮なんか適当なこと言ってない?
だめだよー響子、こんな男に惚れちゃ」
機嫌良さげな玖倫の頬をつんつんと突きながら言う千弦原の手にはスマホ。
適当なこと言ってるのはどっちだよ、恋愛感情を疑う要素なんてどこにあるっていうんだ。
……でもこんな手の込んだ弁当を作ってくれるんだから、もしかしたら本当にもしかするかもしれないぞ!
妄想に胸を膨らませていると、テラスに大勢の男子生徒がぞろぞろと入ってくる。
何か嫌な予感がするが、俺はそれを敢えて見ないようにする。
嫌な予感は意識すればするほど当たりやすくなってしまうものだからな、気にせず妄想に耽ろう。
そんな俺の思いとは裏腹に、近づいてくる集団の足音。
気のせい気のせい、いやぁ玖倫。たまこくらぶなんて気が早いだろ。
ぐへへ
「あ、玖倫さんと千弦原さんじゃないですか!
偶然ですね、今日もこんな間抜け面の落ちこぼれと一緒にいるんです?
もしかしてこういうダメ男がタイプなんですか?まあそんなわけありませんよね」
予感というのを感じた時はもうすでに手遅れな時もあるということ、俺は今日も一つ学んだ。
嫌々後ろを振り向くとそこには俺の予想通りの奴が立っていた。
やっぱりこいつか……
全くタイミングの悪い奴だな、俺は今脳内新婚旅行で忙しいっていうのに。
ぐへ、ぐへへ
「……アタシがこんな気持ち悪い笑い方する奴好きになると思う?」
夢の終わりは……いつだって唐突だ。
「玖倫……気に障ったことがあるなら謝るからせめて米と梅干の比率だけでもなんとかしてくれないか?」
「分かった?」
「え、何の話だよ?」
「どれだけあんたがアタシのお弁当頼りで人生を送ってるか」
「あ、ああ!そんなのもう最初から分かってるに決まってるだろ!
玖倫の弁当以上に美味いもんなんて食ったことねえしな!」
「……そっ」
翌日から玖倫響子の作る弁当は重箱になった。