腹痛と書いて序曲と読む
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21年12月22日20時
「なんだ……これ?」
思わずそう呟いた俺の目の前には、人が入れる程度の穴が空いている不自然な盛り上がり方をした土嚢で出来た山があった、土の材質もなんか妙だ、赤みがかっていて地面の土とは何かが違うような気がする。
穴の中は空洞だが真っ暗で外から中の様子を確認することはできない。
俺、龍宮道山がそれを見つけたのは偶然だった。
いつもの通学路、学校からボロ臭いワンルームアパートへの帰り道、風に揺られたなびく五厘刈りと最高にイカす金色のピアス。
いつもより下校が早くなったことで時間に余裕を持った俺は、何の気なしにチャリンコを神社に走らせて参拝をすることを決めた。
駐輪場に自転車を止め、木々の生い茂る境内を進んで本堂の前に立つ。
五円玉を賽銭箱に投げ入れ、鈴を鳴らす。二礼二拍一礼を小気味のいいリズムに乗せて済ませもう一度鈴を……
鳴らそうとした瞬間、下腹部に強烈な激痛が走った。
恐らくは日に日に量を増すアイツの弁当のせいか突発的に襲った胃痛。
金のない独り暮らしの俺のために昼飯を作ってくれるのはありがたいし助かってるけど、流石に重箱は一人じゃ食いきれない。
だが、前に一度残そうとしたときの悲しそうな顔を見てしまったら、漢であるならコメの一粒たりとも残すことは許されない、絶対に。
しかしまぁ参拝した直後にこれかよ。なんて思いながら俺は便所を探した。
この神社は有名でもなんでもないわりに敷地が広い、便所がないなんてことはないだろう。
それに幼少期にはここで祭りを楽しんだ覚えがある、その時を思い返しながらおぼろげな記憶を頼りに俺は神社の入り口までの階段を下る。
そうだ。記憶が間違っていなければここにボロい和式のトイレがあったはず。
階段を下る最中脇道にそれたところ、石で舗装されていたはずの道は時間の流れとともに雑草まみれになって獣道みたいだ。それでも道を見失うほどではない。
しかし、道なりに進んでいった先にあったのは便所などではなく、幼き日の記憶にあった薄ら汚い便所を飲み込むように出来た赤茶色の土嚢を積んだみたいな山。
そうして冒頭に戻る。
ギュルルルルル
あまりにも違和感しかない光景によって便意を忘れられたのは束の間、腹からの悲痛の叫びによって俺は現実に引き戻された。
本当にまずい、漏れる。
ここらにコンビニなど存在しないし、現在地は本堂と入り口を繋ぐ長い階段の中腹あたり。
階段を上るのも降りるのも無理だ、身動きは取れない。
「……行くしかねえのか」
眼前に見据えるは周りが土で囲まれた空洞。
この中でなら……バレない筈だ。
刻一刻と迫るタイムリミットに心の余裕も奪われ、今俺は人生初となる野糞を体験しようと空洞に足を踏み入れた。