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溺愛し過ぎる悪役魔王に恋する耳年増令嬢  作者: 千魚
子ども部屋のポンコツ令嬢
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姫「祝! 人形人生終了!」

 このお子ちゃま大丈夫? と思ったが、大丈夫じゃないのは自分だった。


 ショタっ子趣味は一切ないので! 夜這いはお断り致します! と宣言したリリーローズは、きょとんとした無垢な瞳の前に撃沈した。だって……「オモチャにする」って言ったら後宮じゃわりとありきたりな隠語の類よ……?

 教育係のディニムー様が物凄い形相で王子の耳を塞ぎに走ったことに「あれ?」と思ったりした、んだけど……ねぇ?


 後宮の常識、魔王国の非常識。

 まさか、その歳で性教育自体まだ一切受けていないとは思わなかった。「有り得ない」と批判したら、「むしろそれが有り得ない」と生真面目系教育係に怒られたし。ディニムー様もきっとチェリーだ。


「次、アイツがイイ! トレーノのこと描いて!」


「トレーノ? あのシマシマの個体ですわね?」


「そう! ボーブリーのトレーノ!」


 ということで、「オモチャ」とはつまり、健全な遊び相手のコトでした。あはははは、大失敗。不健全な後宮脳滅べ、と思って生きてきたけど、その場合自分が真っ先に滅びの対象になりそうだ。


「ボーブリーもライシーンでは見ない魔獣です。少しだけ、猫に似ているかしら……?」


 今日はギードタリス王子に連れられて魔獣舎に来ていた。動物好きな王子に、ペット達の絵を描いてみろ、と言われたのだ。

 初めて見る魔物ばかりでびっくりしたが、基本的に魔獣達は鉄格子の向こうにいるし、王子には逆らわないから、絵を描く分には問題ない。


 魔族も魔獣も、自分より魔力の多い者には逆らわない本能があるのだと説明された。だから、理性のない魔獣に魔力のない人間がばったり遭えば、自然の摂理として襲われる。

 うーん……もし実家に手紙を出す機会があれば、この事は教えてあげよう。わりと重要なことなのに、人間の間では一切知られていないものね。


「こういった感じで……いかがでしょうか?」


「もう描き終わったのか!? ……おぉ、似ている! さすがトレーノだ、絵になってもカッコイいな。見てみろディニムー!」


「おぉ、これはまたお上手ですね」


 一時期リリーローズのことを痴女扱いしていたディニムーだが、彼女の育ちを理解するにつれ、態度は軟化していった。今では、普通に同じ主に仕える仲間だ。少なくとも、リリーローズはそう思っている。


「リーズ、次はこっちに来い!」


「はい。今度はどのような魔獣でしょうね」


「リリターの家族だ!」


 まだ幼いギードタリスにとって、リリーローズという名前は言いにくいらしい。長くて面倒だから、と「リーズ」という愛称をつけてくれた。


 後宮から出られるわ、姫扱いじゃなくなるわ、妙ちきりんな名前から解放されるわ、言動も自由だわ。魔王国に来てからイイこと尽くしだ。

 リリーローズ……リーズは、ギードタリス王子のオモチャという毎日を心の底から満喫していた。人生って楽しい! 今ならわりと本気で思える。


「リリター? ……きゃあっ超可愛いです!! ちっちゃ! ふわふわっ」


「そうだろう、そうだろう! リリターは可愛いのだっ」


 ちょこちょこと動き回るモフモフの小動物が三匹。そのうち一匹はかなり小さい。子どもだろうか。


「よく見てみろ。母親の腹に赤子が一匹しがみついているぞ」


「え? ……ふわっ!? すごい……めちゃくちゃ可愛いですっ」


「うむ」


 ギードタリスは子どものクセに、究極の面食いだ。可愛いもの、カッコイいもの、キレイなもの……その他、ありとあらゆるタイプの「見目の良いモノ」をコレクションしている。しかも、なかなか見る目がある。いろいろ見せられたが、理解に苦しむのは「見事な真円を描く魔毒蛇のミイラ」くらいだった。

 リリターを輝く笑顔で見つめるリーズもまた、彼のコレクションの内の1つだ。動きやすいお仕着せの服も、もちろん彼の好みで上等に作られている。シンプルなデザインは、ギードタリスに言わせれば「宝石を包む台座」のイメージなのだそうだ。


 所有されているのに支配されない。その生活は後宮脳のリーズにとって不可解だった。だが、相手は外界育ちのまっさらなお子ちゃまだ。後宮基準でいえば、生まれたての純朴さ。

 居心地が良いのは確かだから、外の世界ではそういうものなのだろう、ごうに入っては郷に従え、と思うことにしてリーズは日々過ごしている。


「……あ。申し訳ございません。リリターがあまりにも可愛いらしいのでつい……紙がなくなってしまいました」


 多めに持って来たつもりだったが、いつの間にか使い切ってしまったらしい。絵を描くのは元々好きだし、ギードタリスが喜んでくれるから、最近は一段と筆が進む。

 後宮の女官達も褒めてはくれたが、違うのだ。ギードタリスが純粋にリーズの絵を好きだと思ってくれていることが、何より嬉しい。


「では殿下、そろそろ戻りますか。きっとアンジュ嬢がお茶の用意をして待っていますよ」


「うむ。そうするか」


 本人の強い希望もあり、アンジュはギードタリスの部屋付きの侍女として扱われている。「姫様が手荒れなんか起こしたらアンジュ泣くです!」と暴れられた。リーズ的には、それに納得したギードタリスも、どうかと思う。


「……お茶くらい、わたくしにも煎れられますのに……」


「い、いやしかし、アンジュはそのためにいるのだからな! 他人の仕事を奪っては可哀想だ」


「そ、そうですよ。リーズ様はこうして殿下に同行することが多いですしね……っ!」


「うむ、リーズの仕事はオレ様の遊び相手だ」


「ほら、リーズ様も立派にお仕事してますよ……っ」


「……そうでしょうか?」


「立派に仕事しておるぞ!? だからリーズはアンジュの仕事を手伝おうなんて考えるなよ!?」


「…………はぁい」


 何もそこまで必死に止めなくたって……。不満はあるが、ここまで言われたら「わたくしがお茶を煎れます!」とは主張できない。

 一度失敗しただけだもん。挽回のチャンスくれても良くない? ちょっと、希少茶葉一缶をぶちまけて、高級ティーセットを粉砕して、部屋に熱湯ぶちまいてディニムー様に火傷させただけなのに……。掃除だって、王子のコレクションケースを割って、カーテン破って、絨毯が煙を立てたくらいだ。初めてなのだから、それくらい大目に見てくれてもイイと思う。


 近いうちに絶対もう一回侍女の仕事してみせるんだから!


「言いましたね? 『はい』って言いましたよね? 殿下もしっっかり聞きましたよね? ということで、リーズ様はアンジュ嬢の仕事には手出し禁止ですからね!? 殿下と私が証人ですから!」


 ……ハァ。ディニムー様、鼻だけじゃなく器もちっちゃい。あんたのデカいのは角だけか。ハァ。




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