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溺愛し過ぎる悪役魔王に恋する耳年増令嬢  作者: 千魚
子ども部屋のポンコツ令嬢
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魔王「人間など塵芥の如し」

「……なんだこの人間は」


 リリーローズは鼓膜を揺さぶる素晴らしく、それは素晴らしくイイ声で目を覚ました。

 知らない男性の声だ。艶やかに低く、けれど透明感のある、腰にクる声。


「ギードタリス。説明を」


「は、はいっ!」


長い睫毛を震わせて静かに藍色の瞳を開けば、そこが見たことのない場所だとわかる。黒い石造りの高い天井。怪物の骨を思わせる奇妙な形のシャンデリア。

 リリーローズは自分が何か箱のような物に入れられ、仰向けで寝かされていることに気付いた。


 おかしいな。さっきまで空を飛んでいたはずなのに……?


 この3日、リリーローズとアンジュは空飛ぶ馬車の中で過ごしていた。

 というのも、約束の場所に現れた魔王の息子が、連れて来ていた翼竜に問答無用で馬車を掴ませ、とっとと空へ飛び立ったから。悲鳴を上げて青ざめた2人だが、案外慣れるのは早かった。


 天井こそ大きな翼竜の爪が食い込んだせいで恐ろしい見た目になったものの、実のところ害はない。それに、時折ぐわんとかかる浮遊感が気持ち悪い程度で、地面を走るよりも揺れはずっと安定していた。

 アンジュが荷物の中から保存食や簡易トイレ、デオドラントシートなんかを見つけ出したため、車内生活は快適だった。王家の遠征用の特別馬車はかなり広い。睡眠だって十分取れた。


 睡眠……。そうよ、夜中のはずだわ。わたくし達、今日は日没と共に寝たのだもの。

 …………アンジュは……!?


 従者の少女がそばにいないことにはたと気づいた。


 パッと体を起こし、辺りを見回す。

 自分を囲む白い花。その周り、箱のような物は白木造りだ。それから魔王の息子に魔族達、超絶顔の整った男に、ステンドグラスの嵌まった窓。

 それらを忙しなく見回して、リリーローズはようやく、少し離れた場所に寝かされたアンジュを見つけた。


 衣服で従者だとわかるせいか、彼女はリリーローズとは違って毛足の長い絨毯のうえに直に寝かされている。じっと観察すれば呼吸をしていることが見て取れた。良かった……。


「娘。目が覚めたか。ならばなぜここにいるのか説明せよ」


 ゾワリ、背筋が粟立った。恐らく、あの数段高い場所にいる超絶美形の声なのだろう。個性的な玉座が、違和感なく似合っている。


 目に付くのは冷たい美貌。

 ライシーンの王族男性の柔和な美しさとは全然違う、氷の刃の美しさ。


「人間の娘。其方そなたに訊いておる」


 こんなヒトがいるんだ……。世界って思ったより広かったんだわ……。


「ここ、は……?」


 絞り出した声は震えていた。


「魔王陛下の御前であるぞ! 質問に答えよ!」


「魔王、陛下……」


 つまり、ここは……。


 やった! やったわ!! ラッキーよ、リリーローズ!!

 歓喜の震えが全身を貫く。やっとあの退屈でつまんなくて乱れきった後宮から解放されたのよっ!! しかもしかもっ、素晴らしいことに、


「……失礼致しました。わたくしはライシーン王国国王ウィリエムセンと正妃イリザベータの次女、リリーローズと申します」


「知らぬな」


 この超クールなイケメン魔王、わたくしにまっっっっったく興味がない!! これ重要!!

 スーパーなイケボな上に無関心て、最高じゃない!? わたくし、この国なら自由じゃない!? 籠の鳥生活、終わりじゃない!?


「この度こうして参りましたのは、ご令息様との約定故でございます」


 謎の花の中にすっくと立ち上がり、リリーローズは最上級の礼をする。壁際に居並ぶ配下の魔族達から、ほぉぉっ、と感嘆の吐息が上がった。


 正念場よリリーローズ! 追い返されるわけには行かないわ、なんとかこの国に居場所をゲットするのよ絶対!


「ギードタリスとの約定、とは?」


 本当に知らないのか、試しているだけなのかはわからないが、相変わらず魔王はリリーローズに興味を示さない。その鋭い視線はどうやら息子に注がれているようだ。

 神様、ありがとうございます!!


「我がライシーンの民がご令息様の大切なご友人を傷つけてしまいました。そのお詫びの証として、ライシーンの一番大切にしているモノを差し出せと仰せでございます」


「友人……?」


「ビオグルという種類の魔物だった、と伺っております」


「ふむ……。して?」


「魔王陛下やご令息様の目を欺くなどわたくし達人間には不可能でございます。故に、誠に恐縮ではございますが、『ライシーンの至宝』と詠われるわたくしが献上された次第でございます」


 そこまで言ってもこちらをチラリとも見ない魔王陛下。好印象だ。わたくし今、人生で初めて無視されてる! そこらの女官と同じ扱い! 何コレ、めっちゃ気楽だわ!!


 配下の魔族達からはネットリと品定めするような視線が送られてくる。後宮で出逢う視線とまったく同じ。そういうトコ、魔族も人間と変わんないのか……なんかガッカリ。

 やっぱり魔王陛下は特別なのだ。できればこのまま魔王の庇護下に入るのがベスト。


「誠か?」


 淡々とした言葉は今回も息子へと向けられていた。

 改めて見ても、やっぱり5歳くらいだろうと思う。父親の厳しい視線に青ざめている姿は、普通の子どもだ。


「は、はい、父上。ホヘッジ……オレのビオグルが人間のせいで……っ」


「それでこの娘を差し出せ、と」


「違う! オレはそんなことは言ってない! まさか生きた人間が来るなんて……」


「ほぅ。ディニムー?」


 呼ばれたのは教育係の男だった。子どもの後ろに控えていた魔族が一歩出ると、


「……申し上げます」


 言いにくそうにチラチラとこっちを見ながら魔王陛下に奏上する。


 曰わく、確かにギードタリス王子は「一番大切なモノ」としか言っていない。しかし、人間の国で有名な「ライシーンの美姫リリーローズ」のことは知っていた。

 曰わく、ビオグルは傷を負って魔獣医の元に入院していたが、既に退院し元気である。

 曰わく、ギードタリス王子は馬車の中身を移動中に確認しており、白い花の演出も彼の趣味で用意した。


 …………。このお子ちゃま……。ワガママ放題か!?


「……人間。我が息子が騒がせた。帰って良いぞ」


「なっ!?」


 リリーローズと不貞腐れてそっぽを向いていたギードタリスが揃って驚愕の声を上げる。


「父上!?」


「な……ちょ……待って……待ってくださいませっ!」


 さっさと立ち上がり、踵を返そうとする魔王に、


「わたくし、帰れませんっ!!」


 リリーローズは必死の想いで声をかけた。


「……あぁ、人間は飛べぬのだったか」


「そうではなくて!!」


 何この魔王、天然? 激烈イケボの繰り出すボケとか、すんごい可愛い……じゃなくて!!


「人類のためにもわたくしをここに置いてくださいませっ!」


 怪訝な顔で足を止めている長身魔王に畳みかける。


「わたくしを戻されるということは、魔王陛下が人間との戦をお望みだと解釈されます! わたくしは献上品でございます。魔王国にあって、人質としての役目を果たす責務があるのです!!」


「……人間の理など知らぬ」


「下働きでも構いませんっ! ぜひ! 何卒この城に置いてくださいませっ!!」


 今後の人生がかかっているのだ。せっかく掴みかけた自由な生活、失ってなるものか!


「どうかお慈悲を……っ!!」


 千年に一人の美姫が悲痛な面持ちで訴える姿は、魔族の心にも響くらしい。魔王以外の魔族達が、


「あれだけ言ってるし、なぁ?」


「なんか可哀想」


「リリーローズ姫ってアレだろ? 全人類が欲しがってるって言う……」


「確かに可愛い。めちゃんこ可愛い」


「この城男だらけでムサいし、姫がいるってちょっと良くね?」


「あ、じゃあオレが預かろっか!?」


「抜け駆けかよ!」


 とザワザワする。


「……父上!」


 ダメだやっぱり断られる……! 興味を持たれないってこういうことか……ダメじゃん、ちょっとだけ興味持って!

 魔王の動かぬ表情にリリーローズは絶望しそうになった。が、


「責任を持ってオレが面倒をみる! だから、城に置いてやってください!」


 横から、小さな救いの神が現れた。まるで拾って来た犬猫の扱いだが、それはこの際気にしない。


「オレが言い出したことで戦争になるのはちょっと……別にそこまで大袈裟にしたかったわけじゃないし……」


 魔王の視線に怯みながらも、魔国の王子は言い募る。


「オレの部屋の掃除とか……ディニムーは下手だし、誰か居ればなって思ってたし……」


「責任を持つ、か。ふむ、時期魔王としては大切なことかもしれぬ。…………わかった。ギードタリスに任せよう」


「父上、ありがとうございます!」


「あの……?」


 つまり、どうなったって言うことなのかな? リリーローズ、ギードタリス王子ノ下女ヨ~ってことでオーケー???


「おい人間!」


「はい?」


 白い花の中に立ち尽くすリリーローズのすぐ目の前。腰のあたりまでしか背丈のない、小さな魔族が偉そうにふんぞり返った。


「おまえをオレのコレクションに加えてやる!」


「コレクション、ですか? 下女ではなくて……?」


 しゃがんで目線を合わせつつ、首を傾げる。あ、なかなか整った顔立ちの子だな。父親に認められた興奮のせいか、真っ赤になっていて可愛いらしい。


「おまえは今日からオレ様のオモチャだ!!」


 …………オモチャ? え? それは後宮言葉? つまり奴隷??

 え、この子、大丈夫……???



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