神のご寵愛
飛龍兵団。
それは、魔王国の誇る精鋭集団の1つ。魔王陛下直轄部隊、勤王三師団において空を主戦場とし自由に翔ける、魔族と飛竜の混成集団だ。
「師団長様や各隊長様方はその身に龍の血を引き、単身飛竜の群れを従えると言われている。しかし、それでも1頭につき一人、飛竜乗りの騎士達が居るのは、より綿密な連携を取り、完璧に作戦を遂行するためなのだそうだ」
麗しの魔王様がご退室あそばした後、金縛りの解けたクリスタがそう教えてくれた。
陸上戦のエキスパート「地龍兵団」、水上水中戦に特化した「水龍兵団」、そして空の覇者「飛龍兵団」。その三つをまとめて勤王三師団と呼ぶのだそうだ。
ちなみに、一般的に言う「魔王軍」とは、戦闘能力のある全魔族のこと。魔王直属の勤王三師団や、高位魔族の抱える護衛兵団のような職業軍人はもとより、普段は王城でメイド仕事をしているような魔族も、戦う術を持っているなら有事の際には魔王軍の一員となる。もちろん、クリスタとルエラだって例外じゃない。
「つまるところ、勤王三師団は職業軍人の中の超エリート集団だね。その中でも飛龍兵団は、空の覇者と言っても過言ではない」
「まさか……そんな兵団を運搬のためだけに貸してくださるなんて……」
「勤王三師団は陛下への忠誠も並々ならないと聞く。陛下のご命令とあれば雑用だろうが厭うことはないだろう」
「まぁ……」
……魔王陛下が完璧最高な旦那様過ぎるっっ! スーパーウルトラファビラスファンタスティックなスパダリか!?
あ。やだ、旦那様とか素で言っちゃった、めっっっちゃ照れる何コレヤバ萌え……っ!!!
国の守護者たる兵団を雑事に使うほどに、妃を溺愛する魔王。
望みを叶えるためなら散財も厭わぬレベルで妃を溺愛する魔王。
……そんな外面が完璧過ぎる。いったい誰があの冷静冷酷冷淡な魔王様がそんな限りなく甘い行動に出ると予想できようか。これぞThe・ギャップ。ギャップ萌え最高かいや極上だ……!
あぁ、幸せ過ぎて失神する……。
外面だろうが表面上だろうがリーズにとってはそんなのまったく関係ない。「魔王の溺愛する妃」という称号に勝る栄誉など、この世にもあの世にもないのだから。
これぞ至福!
神は神であるがゆえに神なのだけれど、神の神々しさは留まるところを知らないらしい。毎日毎時間毎分毎秒、リーズの魔王様愛は深まり蓄積し、そして魔王様の素晴らしさゆえに膿むことなく昇華されている。
ハァ、やっぱり勇気出して告白して良かった、ホントに。言わなきゃ伝わらない、言えば進展することもある。
偽装結婚上等最高、この一生を捧げることに一片の悔い無し、無限の喜び有りまくり!
「一件落着ですわね」
「うふふ、そうね」
「なんですのその締りのないお顔は」
「え? うふふ」
プイッと憎々しげに顎を上げるルエラを微笑ましく見ていられるほどに、今のリーズの心は満たされていた。
「うふふ。早くルエラにもステキな旦那様が現れるとイイわね。わたくしの近衛隊に好みの男性はいらして?」
「な……なんですの突然……!? わたっ、わたくしは別に……っ」
「あら、そんなに照れなくてもイイのよ? うふふふふ」
あぁ、幸せ。ホント、幸せ。
魔王様ってさ、きっと根が溺愛体質なんだと想う。惚れっぽい「恋愛体質」ならぬ、特定のヒトを深く愛しまくる「溺愛体質」。
必死に隠している息子愛の反動もあるかもしれない。「妃を溺愛する魔王」という役柄に、台本がないせいもあるだろう。
結果、彼のとる「妃を溺愛する魔王」の行動は、まさしく溺愛。溺愛が堂にいっている、というか板についているというか。本当に溺愛という感情を理解していないと出てこないだろう発想がポンポン飛び出す、というか……。
今回の件はもとより、誰よりも忙しい魔王陛下が「常に気にかけてくれる」ということ自体がそもそも破格なのだ。
それなのに、格別も格別。
リーズが魔力のほとんどない人間という種でなければ、今頃、魔女の噂を立てられ、洗脳犯として捕らえられていたかもしれない。そのくらい特別。
そして、魔族にあっては、それ程に、異様。
「むしろわたしは、この異常な事態にあって笑っていられるリーズ妃の精神力に驚愕が隠しきれないのだが」
「同意しますわ。むしろわたくしは恐怖のあまり気が触れたのかと思いましたもの」
「確かに」
「……失礼ね。幸せならば笑う、当然のことでしょう? 敬愛する陛下がわたくしのためにわざわざ貴重なお時間と、いと尊き御身の御心を割いてくださっているのですもの。これを幸せと言わずして何を幸せと呼ぶの!?」
「幸せ、ね。なんと言うか……恐れ知らずにも程がある」
「まったくですわ、鈍感で羨ましいこと。あの方の魔力はただでさえとてつもなく重くて、御前にあるだけで圧死の危機を感じますのに」
「圧死??」
ちょっと何を言っているのかわからない。恋バナのはずが、命の授業になりつつあるのはなぜだろうか。
「それがわからないからあなたを『羨ましい』と言うのです」
「それ、褒めてないわよね?」
……まぁ、「ご乱心か!?」と周りが疑うくらいの溺愛具合だ。未だに混乱し続けているせいだと理解しよう。そうしよう。仕方ない。
「いや、わたしは心底感心しているよ。リーズ妃は選ばれるべくして選ばれた、陛下のための人間なのだ、と」
絶対的な君臨者である魔王陛下と「溺愛」が結びつかないせいもあるだろうが、どうやら魔族は元来、性質的に愛情に薄い傾向があるようだ。
親友達の話しを聞く限り、魔族はとにかく個人主義。リーズのためにあれこれ手配する魔王の姿には、むしろ恐怖を感じるらしい。なんで??? と思うものの、「理解できないモノは恐ろしい」という理屈だと納得することにした。これもまた仕方ない。
しかし。
「うふふ、ありがとう、クリスタ」
なんたる幸運、なんたる幸せ、魔王国はこの世の天国!!
リーズにとってこんなに喜ばしいことはない。現状、魔王陛下に溺愛いただけるうえ、その萌えと幸せを横取りされる心配がないのだから。
魔族バンザイ!
分かち合えないのは寂しい。でも、身も心も捧げ奉った神を、あろうことか一人占めできてしまう喜びは何ものにも変え難い……っ! わたしの人生バラ色満開。信仰して良かった神様魔王様旦那様っ!!
「ハァ。それで? 運送の問題はなくなったようですけれど、楽団を手配しますの? 本題を忘れていましてよ?」
「…………あなた、どなた? 誰がルエラに化けているのかしら」
「……あぁ、そうか。そういう可能性もあるね。うん、驚いた。確か、フォル一族に……」
「ちょっとあなた方! 失礼でしてよ!? わたくしが冷静に会話を主導することのどこがおかしいとおっしゃるの!?」
「主導だなんて……ねぇクリスタ、ルエラはそんな難しい言葉、知っているかしら……?」
「うーん……」
「キ──ッ!!!!」
あはははははっ! あー、楽し。
大好きな推し、楽しい友人。何1つ不自由のない、満たされた魔王国の日々。
正直……故国と連絡を取るのは気が進まない。楽団を呼ぶならあの面倒極まりない父親宛に連絡しなくてはならないから。水差されるの、嫌だなぁ……。とはいえ、これこそ、仕方ない。
「せっかくの陛下のご厚意を無駄にするわけにはいかないものね」
「ちょ……わたくしに謝罪はございませんの!?」
「まずは使者を選んで手紙を送らなくてはね。クリスタ、どなたか心当たりがあって?」
「ちょ……」
「ふむ。使者は飛べる者か転移可能な者が良いだろう。心当たりもなくはないが、むしろ、飛龍兵団の師団長殿に相談してみてはどうかな。顔合わせと打ち合わせも必要だからね」
「あ。それはイイわね、そうしましょう」
「ちょっとぉぉぉぉ!?」
さて。どう書くのが一番カドが立たないかしら?




