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溺愛し過ぎる悪役魔王に恋する耳年増令嬢  作者: 千魚
萌え神様の後宮……の悪女
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神の神対応


「問題は楽団なのよね……」


リーズはふぅ、と息をついた。

上層部一握りだけとはいえ、人間の夜会に参加した経験者がいるのだから、月下の宴も進行役にキツく手綱を握ってもらう必要はない。本来の夜会のように、楽団がその場に合った音楽で盛り上げて行けば、恐らく、それなりの流れはできるだろう。

つまり。楽団、必要、絶対、不可欠。


……なのに、魔王国には楽団がない。


「魔術具で良いのではなくて?」


「それも考えたのだけれど、魔術具では音が小さ過ぎるのよね……」


「では、数を増やしたらいかが? 五十もあれあれば足りるのではないかしら」


「同時に鳴らすのは困難極まりない。置き場所の問題もある」


「そうね。それに、魔術具担当に人員を割くのもどうかと思うわ。50個の魔術具を50人の担当者に持たせるのはさすがに非効率的だもの」


「もう! なんですのあなた方は! 文句ばかり言っていないで、少しはわたくしのように建設的な意見を出してご覧なさいな!」


ルエラの言うことも一理あるが、簡単にアイディアが浮かぶならそもそも悩んでいない。


「ルエラ嬢、短気は損気だ。キミのアイディアがあるからこうして検討できる」


「その通りよ。おかげで、魔術具では埒が明かないことがわかったのですもの。お手柄だわ」


「…………そうですわよねっ! わたくし、天才ですものね!!」


そこまでは言ってない。リーズは浮かんで来る苦笑をお茶で飲み下し、ニコニコと浮かれるルエラを眺めた。

普通ならイラッとさせられる発言なのに、なぜだろう、彼女が言うとちょっとだけ、ほっこりする。まるで、小さな子どもが夢見がちなことを言っているかのような……こちらとしても、「子どもの夢を壊しちゃダメよね」みたいな……自己中なだけで、他人への悪意が一切感じられないからかもしれない。

……弟は悪意だらけだったのにね。姉は純粋無垢な自己中だ。長年生きてきたことを考えれば、ある意味すごい才能だと思う。


「いっそ、人間の楽団を呼び寄せようかとも思ったのだけれど……」


「うん、それは興味深いな」


「えぇ。それで良いではありませんか」


「輸送手段が問題なのよ。わたくし、見た訳ではないから詳しくないのだけれど……魔王国は人間が旅できる環境ではないのよね?」


「馬車を使うのなら大丈夫なのではないかしら? リーズ妃だって馬車でいらしたのでしょう?」


馬車ごと飛んで、が正解です。心の中で呟く。

ギードタリス曰く、「陸路移動だと空路より時間がかかるし、例外なく魔獣に襲われる」そうだ。


「そうなのだけれど……馬車では日程が間に合わないの」


あれこれ説明するのが面倒で、わかりやすい問題点だけを2人に告げる。


「魔王国との国境まで来るのに、2週間。魔王国に入ってからも同じか、それ以上かかるでしょう? それ以前に、まずライシーンと楽団貸与のやり取りを書簡でやって詳細を詰めなければならないわ。片道で一月ですもの、楽団の予定も調整させなければならないし、何より、楽器の移動は気を使うのよ」


フル編成は到底無理だから諦めるとして、しかし四重奏のような小編成では足りない。それなりの規模で呼ぼうと思えば、馬車の台数は跳ね上がる。

道中の護衛も考えると……1番近いライシーン王国の国立楽団でも、費用、必要日数共に非現実的な数値になるのは間違いなかった。


「空路を使えれば別でしょうけれど……」


何せ、リーズは3日で王都間を移動したのだ。しかし、空路を取るには特別に飼い慣らした魔獣が必要で、一般的とは言い難い。


三人で頭を悩ませていると、ふいに部屋の空気が動いた。常に侍女達の出入りのある部屋だが、そんなもの、比にならない。

室内の空気が一瞬で塗り替えられた、そんな気配。


「何を運ぶ相談か?」


ふぉ……っ。ぁぁああっイイお声! お耳がとっても幸せです! もちろん続きまして……お目目も素晴らしく幸せです!!


ズザッと音を立て、椅子から流れるように跪いた二人の令嬢を気にすることなく、ご降臨あそばした神がリーズの頬にその御手を伸ばした。


「陛下……」


そっと優しく触れる大きな手は相変わらず、少し冷たい。

頬を睦まじく愛撫する指先はそのままに、冷酷無慈悲な最高権力者は、準備された椅子に優雅な仕草で腰を下ろした。


あくまで演技。これは演技。

周りの目を眩ませるための仲良しごっこ!!

心の中で声を大にして絶叫する。


だからどうした────っ!!

それがなんだ────っ!!


推しが!! 目の前で!! わたしを!! 美し過ぎるそのお目目で見つめているんですっ!! あまつさえ、わたしに触ってくださったりしちゃってたりするんですっ!!

これが興奮せずにいられるか────ぁっ!!


はぁぁぁんっ幸せで蕩けそう……。


「月下の宴の相談をしていたのですわ」


間違いなく自分の顔面は今、蕩けている。幸せ過ぎて笑顔になるのが止められない。

演技過剰っていうか、素だから、もう仕方ないよね? うふ……うふふふふっ!


「なんとか、楽団を手配できないものかと思いまして……」


魔王陛下から挨拶や礼の割愛を許可されているのは現在、愛息子のギードタリス王子を除けばリーズだけだ。実力主義の魔族の中で、唯人のリーズの安全を確保するには、誰の目から見ても「絶対者の特別」だと示し続けなければならない。

寿命の長い魔族の感覚における「寵愛」だから、演技も長期スパンでイイらしいが……リーズの信仰する神は、何事も神対応を為さる本物の神なので! 今のところ、2日に1度はこうして、人前でリーズを特別扱いしてみせてくれるんです! 超ウルトラスーパー幸せ!!


しかも、夜には毎日二人だけで過ごす時間を作ってくれる完璧っぷり。実態は唯の報告密談タイムだが、周りに「閨事が行われているかもしれない」と思わせるのが大切なのだ。

ちなみに、リーズにとってはどれだけ淡白な会話だろうが、沈黙の時間だろうがご褒美タイムに変わりない。おかげで、傍目には幸せ満開新妻オーラ全開である。


「楽団か。確かに、今から育てて間に合うものか……」


「天然萌え……っと、失礼致しました。今回は人間の文化の紹介を兼ねますから、祖国から呼び寄せようかと思ったのです。けれど、それでも、間に合いそうにございませんの。魔王国の陸路は、人間には過酷だと殿下から伺いましたので……」


「ほぅ。アレがそんなことを」


陛下陛下! 口元、微妙に綻んでますよ!眼福ですけど! せっかく子煩悩を隠すために断腸の思いで「アレ」とか冷たい言い方したのに!

……まぁ、リーズ以外、顔を伏せたままだから大丈夫だとは思う。が、念の為、今日の密談反省事項には加えておこう。


「えぇ。空路の難点も教えていただきました」


とはいえ、この優しい「父の顔」はリーズだけが知る特別な一面だ。早々に切り上げるのはかなり惜しい。


「……教師をつけているのだ、そのくらい当然だろう」


ハァ、僅かに上がった秀眉が本気で可愛い過ぎる。ちょっと自慢げな感じがもう、もう……堪らないっ!


「楽器によっては、ヒト1人分よりも場所を取ります。ですから、楽団を空路で連れて来るのも難しいのです。国立楽団を動かすにはそもそも、国王間での交渉も必要になりますし……」


自然と、親友二人へ話したことよりも詳しい説明になっているが、非難する者は誰もいない。何せ、横暴で無情な魔王が相手だ。

二人も、周りの侍女達も、むしろ「よく普通に会話できるな。下手すりゃ死ぬぞ!? ソッコー即死!」とか思っているのがひしひしと伝わって来る。

……いやいやいやいや。こちら、わたしの美貌に惑わされない、稀有な男性なんですよ? しかもご本人様が超絶麗しいうえにイケボで天然で親バカ。……萌えの宝庫過ぎて、まさに足の踏み場もない状況よ?

そんな最強の萌え神であらせられる我が最愛の魔王様から逃げる理由なんて皆無ですけど? 下手すりゃ死ぬ? 確かにね。こちとら、萌え死にって死線を何度も潜り抜けて来てますよ。むしろこの尊さがわからないとか万死に値するからね!?


「ふむ。ならば簡単だ。妃の望むようにすれば良い」


魔王陛下の演技が完璧過ぎて鼻血が出そうだ。

普段は何の色も映さない瞳に、ほんのりと甘やかな色が浮かんでいる。いかにリーズの強心臓といえど、ついに爆散するかもしれない。

……はっ! やっぱり命の危機は付き物か。さすが、魔王陛下。とんでもない!


「金は惜しまん。交渉に必要ならば我が名も貸そう。飛龍兵団を輸送係にすれば良いのだ」


飛龍兵団?


「妃にと所望したのはこちらだ。妻の願いも叶えられず、何が魔王か」


ズッッッキュウウウウウウンッッッッ!!

好きっ!!!


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