婚約者のお友達
パーティー、夜会、舞踏会。呼び方は何でもイイのだけれど……今回は親友クリスタとルエラと3人で相談し、「月下の宴」と呼ぶことにした。
クリスタは正真正銘、リーズのお気に入り。独立独歩タイプの才女で、なんでも研究対象にしてしまう好奇心旺盛な文官長の娘だ。
リーズもクリスタも、お互いに持たない視点からの発想に、会話が弾む。自身の外見には気が回らない、残念な知的美人……それがクリスタ。
一方のルエラは、言うまでもなく、お馴染みティワード大臣宅の箱入り娘である。傲慢を絵に描いたような言動と高慢を絵に描いたような美貌の持ち主だが、その実、箱入りらしく考えが浅くて素直な部分も垣間見える。
打算で親友として遇しているが、リーズはだんだん、このおバカなお嬢様が憎めなくなってきていた。なんというか……躾を失敗されたペット、みたいな……勘違いと思い込みがすごいだけ、みたいな……。
「それで、月下の宴の進行なのだけれど」
「人間の催し物だ。リーズ妃の知る流れで押し通せば良い」
「親友としてわたくしが進行役を引き受けて差し上げてもよろしくてよ」
「……進行役に徹するのなら、ルエラは宴の間、飲まず食わずで無駄口禁止ね?」
「な……!?」
「ははっ、ルエラ嬢から自己主張を取り除く。どうなるのか興味深い」
「じょ……冗談に決まっているでしょう……っ!? まったくこれだからあなた方は……!! わたくしの高尚な冗談がわかりませんのっ!?」
ほら、おバカ。
無駄口はともかく、別に進行役がホントに飲まず食わずなわけはナシ。しかも、この様子じゃ進行が何を指すのか、ちゃんと理解していないっぽい。目立つことだと思ったのだろう。
……これで神の嫁の座を狙ってたって言うんだから、笑っちゃうよね。薄い友情を最大限活かしても、ルエラではリーズの敵になり得ない。だっておバカ。
「そうだわっ! 残りの方々にもお仕事を差し上げなくては。進行役はお譲りしましょう!」
「いえ。進行役は侍従長に相談しようと思っているの。彼らなら、途中で何名か交代を挟んでも問題ないでしょう? それに、高官の御息女が宴から抜けたら、未婚男性はこぞってガッカリしてしまうわ」
「! それもそうですわね! わたくし、ドレスを発注しましたの!」
今、その他15名は各自の執務室に待機させている。
当然、侍女という名の監視アリ、だ。「魔王の婚約者の教育係」という役職に付いた以上は、執務室は必要だろう。しかし一人一人に与えるのは管理も面倒……ということで、リーズは彼女らを、チーム分けした。
得意分野の自己申告制で、「生活マナー」「対人マナー」「教養」「芸術」が大きな括り。さらに、個々人の適性で専門に分科するが、執務室はこの4つの大枠ごとに一つを与えてある。
同じ部門の令嬢同士同室のため、最初は苦情もチラホラ出たが、一度各自の親の職場見学をさせたところ、収まった。職務として登城する以上、易々と個室など持てるものでは無いと親から直接諭されたようだ。大部屋ではなく数人単位の個室なのだから、十分優遇されている、と。
「本来は進行役など必要ないの。けれど、全員が初参加なのに、指標がなくては困ってしまうでしょう? 事務的に進められる人物が最適だわ」
「それが侍従長である、と」
「侍従長ってどなただったかしら。イイオトコ?」
「代々侍従長を輩出される名家の方だ。ご子息御息女も当然、城で侍従、侍女をされている」
「ルエラ好みの派手さはないわね。堅物なのは間違いないもの」
「じゃあわたくし、その件からは手を引きます」
うん、おバカわいい。驚くほど素直だ。
人間の姫君達と違って、ルエラは裏表がない。深窓の令嬢と後宮の令嬢の違いは意外と大きくて、リーズから見るとルエラ達魔族のご令嬢は鳴き声ばかりの愛玩動物。クリスタみたいな独立独歩さんはまた別だけれど、基本的には可愛いモノだ。
「それにしても、魔族って何のためにダンスを習うのかしら……」
次第を確認し終えたリーズは、ポソリ、ここ最近の最大の疑問を口にした。
ギードタリスにダンスを教え、神と踊る栄誉を得た記憶は、常に燦々と脳裏で輝いている。なのに、舞踏会が存在しないってどういうことよ……。魔族の社交、どうなってるの???
「あなた、バカですの?」
……うわ、おバカちゃんに言われるとショック……でもない。魔王陛下と並び立つ王妃(実質)に「バカ」って言えちゃうバカさ加減にドン引いちゃって。
おバカわいいを超えて、気の毒になって来た。やっぱり教育って大切だよ。下手したら処刑され兼ねない不敬な態度、親のティワード大臣はどう思っているのやら。
「ルエラ嬢。弁えて」
さてどう扱おう、もういっそ軽いうちに罰しちゃおうか……なんて悩んでいたら、リーズの正真正銘心の友、クリスタが救いの手を差し伸べてくれた。
「なっ……文官長の娘ごときがわたくしに……」
「うん。文官長は父。わたしはただのクリスタ。ルエラ嬢も同じだ」
「は……? あなた、文官長の娘なのに、わかりやすく話すこともできませんの?」
「大臣なのはルエラ嬢の父。ルエラ嬢はただの娘」
「そんなこと、わかってますわ」
「わかってない。リーズ妃はただのリーズに自分で価値を持たせた。だからすごい。わたしもルエラ嬢も、まだ無価値だ」
従者とたった二人きりで魔王国に送られた娘が、自分の美貌と才を駆使して成り上がった。
一般に、「運のいい娘だ」で済まされ、妬まれる裏側を、クリスタは正しく把握してくれている。こういう聡さも、リーズには好ましい。
「あなたホントに失礼ですわね。わたくしが無価値ですって!? よくもそんなことを……お父様に言って罰してもらわなければ……!」
「わたしが罰されるよりルエラ嬢が先だ。リーズ妃にバカって言ったよ」
「そんなの…………あ」
リーズはクリスタと目配せし合い、肩をすくめた。
完璧な馬鹿じゃなく、おバカちゃんで済むのがルエラのギリギリ良いところ。青ざめて急に無口になった彼女を放置して、
「ところで、ダンスだけど」
「習う理由ね?」
「うん。外交のためだけど、それ以上にステータス」
リーズとクリスタは会話を続けた。
「ステータス……そう言われると納得ね。けれど、外交の盛んな国ではないもの、不思議だわ」
「つい40年前、ノーア王国が滅びたから」
「ノーア……」
確か、ビスケッタ帝国に併呑された国の名だ。リーズが生まれる前の歴史的変事も、魔族令嬢にとってはつい最近の出来事……この寿命の差、頭で理解していてもやはり驚く。
「人間の政策変更は早い。またすぐに必要になる」
「……確かに魔族から見たらそうなのでしょうね」
クリスタの言い分はもっともだった。彼女らにとっては外交相手が滅び、また新たな外交相手が出てくるまではあっという間。
人間の興亡は目まぐるしいから、ダンスを忘れる暇もない。
相手が誰であれ、外交の場に出る可能性のある高官やその家族が外交手段を学ぶのは必然で、同時にその知識は、一定以上のの身分を示すステータスなもなる。……うん? わたしが人間と魔族の掛橋になる必要、別になくない? そもそも大して断絶されてないし。人間なんて、珍しくないってことでしょ? というか、
「あら? では、全員が夜会デビューというわけではないのね? ノーアとの外交で、月下の宴のようなものが開かれたことがあるのではなくて?」
人間の文化を一から紹介! のつもりでいたが、経験者が多いのならもっとザックリさせてもイイかもしれない。
長寿相手に主導権を握るのはなかなかに難しい。
「こちらでは開かない。行った者だけが参加する」
「そうなのね。どのくらいの方が参加経験をお持ちなのかしら……」
「わたくしのお父様は参加されたわ!」
放置されたことでお咎め無しと判断したらしいルエラが、満を持して復活する。それに苦笑しつつ、リーズ達は次第を軽く見直して行った。
婚約披露宴も兼ねた月下の宴。
開催予定日は2ヶ月後だ。
萌え成分が足りません……
次回こそご降臨いただきたい!!




