神の後宮の悪女……じゃないよ普通普通
懐かしいわ、この感じ。
目の前にズラリと並ぶ17人の令嬢方を眺めながらしみじみ思う。
愛欲渦巻く女の戦い。どこまでも天元突破して行くプライド。水面下の貶し合い。空気を伝播する険悪さ。ドっっっロドロの女の園。
魔族だからか、ライシーン後宮よりも「しのぎの削り合い」という気配は薄い。どちらかというと、全員が全員、自分が一番だと自信を持ってて、周りを歯牙にもかけない雰囲気。「なんでアタクシが人間なんぞのために」とか「このアタクシを有象無象と並べるなんて無礼千万」とか思ってるんだろうな……。
今日は早速、ティワード大臣の秘蔵っ娘他16人に教育係として登城してもらった。親達は一様に乗り気だったが、本人達はそうでもなさそう。やる気があるのは5人程か。
「なぁリーズ。なんのための教育係だ? ディニムーがいるではないか」
そして、なぜかギードタリス王子殿下とディニムーも同席している。
「まぁ、まずは皆様にお座りいただきましょう。少し長い話しになるかもしれませんもの」
今日はリーズ達の座る机の他にも、大きな机を幾つか用意してもらっている。場所は王城の中のホールの一つだ。小規模な部屋に、お茶の準備をしてもらった。
これぞ、婚約者特権。
王子の客人の身分から、実質王妃に繰り上がったため、アンジュ以外にも侍女が複数つけられ、格段に融通が効くようになっている。冷酷魔王の絶対王権もイイ感じに作用して、リーズの身の安全も保障されたようなものだ。
「本日ご用意しましたのは、昨今人間の間でもてはやされている紅茶とお菓子でございます」
全員が揃ってからこの部屋に連れてきて貰ったが、恐らく、前室でも派閥ごとの集まりができていたのだろう。着席を促された彼女達は、さして悩むこともなく席についた。机ごとに人数のバラつきがあるのがまさに勢力図。
湯気を立てるマスカットのフレーバーティーは、リーズの嫁入り道具……魔王国に持参した物の一つだ。お茶請けは、華やかに盛られたタルトレットが数種類。こちらはアンジュが持参したレシピ集を料理長に渡して作ってもらった。
「さて、皆様にお願いしたいのは、魔族の令嬢としての常識全般をわたくしに教える教師役です。確かにギードタリス殿下の仰る通り、一般教養に関してはディニムー様に教わる予定でございます。ですが、女性にしかわからない、女性ならではのこともいろいろ、ございますでしょう?」
派閥があるならちょうどイイ。全員が結託してウソを教えることが難しくなる。複数の派閥で反目し合ってくれれば、その分リーズは矛盾を探すだけで正解に近づける。
はっきり言おう。彼女達は人質だ。
人間なら気づけただろうこと。けれど、個人主義の魔族は思ってもみないだろうこと。
リーズの提案に、魔王陛下は最初、首を傾げていた。
……これがまた可愛いの! 微妙に、ごく僅かに、無意識で傾いだ頭。表面上は平静なのに、たぶん混乱してるんだろうなとわかる仕草が激可愛い! めっちゃ尊いっ!!
「そして、できることならわたくしとお友達になってくださいませ。わたくしが魔王国で親しくしていただいているのは陛下と殿下、殿下の教育係をされているディニムー様だけで……同性のお友達が欲しいのです。もちろん、お友達ですもの、いろいろ優遇させていただきますわ」
にっかり。
弱そうで儚げで、でもちょっとバカっぽく笑ってみせると、数人がギラリと目を光らせるのがわかった。うふふふふ。釣れた釣れた。ちゃんとティワード嬢も入ってるね。
ここにいるのは高官の娘達。穿った見方をすれば、野心家の娘達だ。親世代の反逆やら暗躍やらを抑止するためにもぜひとも王城にいていただこう。一応毎日帰すけど、希望があれば滞在も許可する予定。いざという時に抑えやすい方が高ポイントだ。
というか、こんなの、当たり前の発想だよね? そもそも、魔族に対する人間代表の人質としてリーズはここに送られた。……まぁ、魔族側はいまいちそれを理解してないけど。少なくとも人間側は、リーズを人質に取られたと考えている。
「まず本日は一緒にお茶を楽しんでくださいませ。わたくし、テーブルを回らせていただきます。皆様とお話しすることが今日の目標ですの」
有力魔族の娘という一流の環境で育った彼女達は、「トップに立ちたい傲慢娘」か「独立独歩タイプ」か「箱入り娘」の可能性が高い──とリーズは踏んでいた。
独立独歩タイプは本人が有能だから将来のためにもぜひ、「普通に」お近づきになりたい。箱入り娘は同じく後宮入り娘として「普通に」学ぶべきところがある。傲慢娘は人質として「絶対に」手綱を握るべき人材だ。
みんな揃ってみんな有用。うふふ……ふははははっ!
何せ、推しと推しの推しのためにリーズが真っ先にすべきことは、潜在敵含む臣下の把握と布教。
朝から押しかけてきたギードタリスの同席を拒まなかったのも、そのためだったりする。悪いが、餌になっていただこう。
「殿下もぜひ召し上がってください。ディニムー様も、お席にお着きになって? 警備は頼れる方々がいらっしゃいますから。ねぇ?」
部屋内に散る騎士達に親しく微笑みかければ、一様にやに下がった笑顔が返ってくる。
この騎士達は昨日の午後、リーズが直々に選出したばかりの近衛隊だ。魔王様の抱える騎士団の中から志望者を募り、面接ののち決定した総勢11名。選出基準はもちろん、どれだけ鼻の下が伸びているか……もとい、どれだけ御しやすいか。
恋の奴隷達は、それ以前に冷酷絶対魔王に逆らえない。非常に扱いやすい、安全なコマだった。
ちなみにリーズの近衛隊は見た目もなかなか良かったりする。細マッチョからゴリマッチョ、細目からぱっちり、寡黙からチャラ男、全員が違うテイストながら悪くない。
……だって、ご令嬢を釣るには優良株の旦那候補が必要でしょ? 最優良株の陛下はもちろん誰にも渡しませんがねっ!!
「ふむ。この菓子はイイな」
「そうですね。いろんな味が楽しめますし、素材自体は馴染みのあるものですから」
王太子が舌づつみを打つ姿に、お嬢様方が手を伸ばし始めた。
ティワード嬢みたいな、トップとその取り巻きのテーブルはこういう時に上下関係がよくわかる。まぁ、人間とは違って、扱き使われる最下位ちゃんもかなりプライド高そうだけど。「いずれ喰ってやる!」って野心でギラギラしてる。逞しいなぁ、傲慢組は。
ちなみに箱入り組と独立独歩組は入り交じっている気配。親の勢力関係によるものか、取り巻きを連れている独立独歩さんも、取り巻きに紛れている箱入りさんもいる。もちろん、独立独歩さんと箱入りさんだけの、和やかなテーブルもあった。
それぞれの席がそれなりに落ち着いた様相を見せるのを確認し、リーズはお茶会のホストとして各テーブルを回る。
「こちらに呼べば良いではないか」
というギードタリスを
「初日から殿下とご一緒では、皆様緊張なさるでしょう?」
笑顔で取り成し、顔と名前を一致させて回った。
一人ずつじゃなく、集団で見たかったんだよね。対人スキルで、傲慢さんや隠れ傲慢さん……つまり、潜在敵がわかるから。
リーズが妃として扱われるのは人間だからだ。残念ながら、陛下の寵愛を得たからではない。いずれ寵愛いただく予定だけどね? 虎視眈々と狙うけどね? でも今はまず、人間として役に立たなきゃ。
……掛橋? 何ソレ。わたし以外の人間なんか気にしなくてヨシ。口実口実。
さて、ご令嬢方の反応は……
「わたくしはちょっと……いえ、えぇ、ちょっと……」
人間ごときの飲食物は口にできん、と。極まってるね。
「下品……いえ、派手なお菓子ですのねぇ」
貶し好きか。クリームとフルーツでゴテゴテなのは認めよう。
「あら、美味しい」
抵抗感ナシにふんわり笑顔。希少種だわ。
「これは応用がききますね」
お、実益重視。素晴らしい。
結果、超傲慢さんが三人、傲慢さんが六人、純箱入りさんが四人で、独立独歩さんも四人。
第一印象に過ぎないけれど、リーズの人物評はわりと当たる。
さて、これをどう崩していくかが重要か……。いや、まずは派閥を壊さず観察しよう。親同士の勢力図にも盲点があるかもしれないし。何せ、存在を隠されていたご令嬢もいるくらいだ。
「皆様に実は御相談したいことがございますの。詳しくは明日以降……けれど、知っておいていただきたいわ」
初めての夜会までは上手く泳がせて使わなければ。
うふふふふ、腕が鳴る!
神よ、このリーズ、必ずしもお役に立ってご覧に入れます。




