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溺愛し過ぎる悪役魔王に恋する耳年増令嬢  作者: 千魚
深窓の後宮育ち
3/36

男A「この愛、姫様に捧げます」

ちょっと短めですが、キリがイイので。

「しばらくお目にかかれなくなるかもしれません」


その知らせを最初に持ってきたのは、昼下がりに面会申請を寄越していた軍務卿の長男だった。数いる求婚者の一人にして、数いる自称婚約者の一人。はっきり言えば「男A」だ。……いや、「男B」とか「男K」とかかもしれない。どうでもイイか。


「どうかなさったのですか?」


「訊いてくださるのですね。さすがお優しい私のリリーローズ姫」


……誰がオマエのか。ついでに言えば決して優しいワケじゃない。産まれた時から施された完璧なお姫様教育の賜物だ。姫たる者、聞き上手であれ。あのくらいの相槌なら反射的にスルリと出てくる。たぶん、他の姫達でも問題なく。


「まだ内密ですが……我が姫君には特別にお教え致しましょう。姫はカキーベという街をご存知ですか? 近々そこが戦場になるかもしれません……。私も軍務卿の跡取りの務めとして出陣することになりそうです」


「そんな……っ!」


サァッと青ざめた麗しの姫君の姿に、軍務卿の長男はデレデレと相好を崩した。

父や弟と違って戦闘を好まない彼は、本心では危険な戦場になぞ行きたくない。脳筋と一緒にするなと常々思う。エリートが戦場で汗を流すなんて誰得だ。少なくとも自分は嫌だ。

けれど、こうして愛しのリリーローズ姫に心配してもらえるのなら、カッコつけるのも吝かではない。これぞオレ得。むしろ、もっと心配しろ。なんなら心配し過ぎて抱きついて来い。


「大丈夫ですよ。私は指揮官として後方につめますからね」


鼻の下を伸ばしながら、彼は自分がいかに優秀な指揮官か、懇々と意中の姫君に訴え続けた。


「この命を賭して、私が国土を守ってみせます!」


「……あの、カキーベとは菜の花畑で有名な街では御座いませんでしたか?」


「さすが聡明なるリリーローズ姫、よくご存知ですね」


「まさかそのような恐ろしいことが起こるなんて……。わたくし、本当に本当に心配です」


「姫……っ! ご心配には及びません! このルードルト、愛する姫と結ばれるまでは決して死なぬと誓います!!」


「……え?」


どうしてこのヒトは急に立ち上がったのか。脈絡のない男の行動に小首を傾げ、リリーローズは無意識に曇った愁眉を開いた。高貴な女性は常に微笑みを絶やさぬべし。


「……あの、道中のお足元にもぜひお気をつけてくださいませね」


「っ!! ありがとうございます! お約束致します!! 姫のお心はこのルードルトにしかと届きましたっ!!」


 カキーベの菜の花畑で取れる蜂蜜は極上品だ。毎年献上される巣蜜を楽しみにしているリリーローズにとって、あの街で戦争をするなど許し難い暴挙である。堂々たる軍馬達が花を蹴散らすことすら許せない。


これは素早く情報を集めて父様に抗議しなくちゃ! わたくしの巣蜜カキーベのためにっ!


 来た時とは雲泥の上機嫌で意気揚々と帰って行く「その他A」を見送って、リリーローズはすぐに女官達に情報収集を申し付けた。巣蜜を思うと、不安で押しつぶされてしまいそうだ。


「姫様、お顔のお色が……」


「敵について、戦争のきっかけについて、戦場について、今年の蜂蜜の出来について。カキーベに関することなら何でもイイわ。できるだけ詳しく調べて来てちょうだい。情報は重複していても構わない。晩餐までに各自得られるだけ持ち寄って欲しいの……っ」


「まさか姫様、ルードルト様を……?」


「取り乱した姫様カワユス!」


「ちょま、姫様! ルードルト様はわたしが狙ってるんですけど!!」


「?? ルードルト様? それって誰? ……なんて会話してる時間ももったいないわ。わたくしはここで大人しく編み物でもしていますから世話役は残さなくて結構です。そうね……頑張り次第では情報料、弾むわよ?」


「! かしこまりました! みんな、女たるもの策士であれ! 腕の見せ所よっ!」


「はいっ!! 姫様行って参ります!」


「エイエイオー!!」


「姫様! ルードルト様はダメですからね……!」


ドップラー効果を残しつつ、ドアへ窓へと一斉に散る7人の女官達。さすが高倍率を戦いぬいて一番人気リリーローズ付きになった女官達だ。


「ハァ…………」


憂いに満ちた息を吐くと、リリーローズは祈るように天を仰いだ。残っている女官がいれば、「宗教画なようだった」とその光景を褒めただろう。

けれど、現実とは世知辛いモノである。


このつまらない後宮生活で至上の楽しみ、それは美食。

噂話も猥談も美容ネタも飽きた自分にとっての慰めは、一人で静かに絵を描くことと無心で小物雑貨を作ること。けれど、四季折々に届く各地の美味だけは別格だった。格別に心躍る、圧倒的な魅力。姫で良かった、そう思える唯一の機会だ。


「どうか、守られますように」


蜂蜜が。


たおやかな手で小物入れから編み棒と毛糸を取り出すと、リリーローズは祈りを込めて、一心に蜜蜂の編みぐるみを編み始めるのだった。



後宮は中華風のイメージではなく、平安絵巻を洋風にしたイメージです

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