御神託の裏事情①
陛下の妃──。
何そのステキな響き。
……じゃなくて。ん? あれこれ全部夢だったよね??
なのに、なぜリーズは、男二人に睨まれているのか……。
「リーズ様は事前に陛下と打合せをされる機会があったのでしょう?」
打合せ……は、わからないけど、事前といえば。
「ゆうべ、先程の鳥ちゃんが……」
「鳥ちゃん……」
「……アテルのことか。父上の使い魔の」
「使い魔……確かにそう言っていました。そのアテルちゃん? のお導きで……」
なんだかディニムーの動きが気持ち悪い。
「あ! 姫様、それで昨日はいなかったですか! アンジュ、おやすみなさいのご挨拶に行った時、姫様いなかったです」
「おまえな……。主が夜にいないなど、一大事だろう? なぜ探さなかった」
「え? だって……うーん……おかしいと思わなかったです。何でです?」
「陛下の魔術が働いていたのかもしれませんね。アンジュ嬢、今までそのこと自体、忘れていたのではありませんか?」
「あ、そうですそうです!」
魔術って、そんなことまでできるのか。さすが神。すご過ぎる。
……ってかさ? あれれ? 夢じゃない?
「それで? リーズが父上の妃になるとはどういうことだ」
「妃……だなんて……。わたくしはただ……魔王様をお慕い申し上げております、と……」
夢じゃなければ……え、ホントに? 妃? 妃? え、何で!?
「後宮に入れることをご一考いただけないものかと……」
後宮に放り込むのと、正式な妃にするのではかなり違う。
昨日のアレが現実だとして……。それでも、さすがのリーズでも、そこまで図々しいことは言わなかったはずなのだけど……?
だって、道化悪女だよ!?
えぇ……? 妃? ……萌え神、まさかのM気質……??? それもなかなか萌えるけど……泣き顔とか見てみたい、グズグズに堕ちるまで攻めてみたい…………うふふふふ…………じゃなくて!!
「ハァ。つまりリーズ様は覚悟の上なのですね。
……殿下。後宮ってわかります?」
そういえば、ディニムーは魔王陛下に呼び出されていたのだったか。
昨夜の自分がかなり特殊な人物像だった自覚のあるリーズとしては、ここは、神の名誉のためにもボロを出さずに、無難に聞き役に回りたい。神の性癖は……もちろんリーズだけの宝物だ。
ヤバい、何コレ、子宮に来る……!
「後宮とはリーズの生まれ育ったところだろう?」
「まぁそうですね。ただ、リーズ様のお国は特殊なので忘れてください」
ちょ……。
「アンジュもそう思うです」
え……?
「ふむ」
いや、後宮ってああいうモノでしょ?
「まず現在、我が国に後宮はありません。なぜなら王妃殿下……ギードタリス殿下の御母君がいらっしゃらないからです。後宮とは、王妃殿下の暮らす場所と思ってください」
「ふむ。つまり、リーズは自分から、父上の妃になることを望んだ、と……?」
ん。後宮入りイコール王妃なの!? 王の妻たちの一人じゃなく?
うわー……やらかした。側妃にでもなれればラッキーくらいで売り込んだのに、魔王国側からすれば、ガッツリ妃狙いにしか見えないなんて……。
道化悪女どころか、野心全開悪女じゃないか!
「ちなみに、放置すれば危うく、その座にはティワード大臣の娘がつくところでした」
「は!? ルエラか!?」
「そうです。以前チラっとリーズ様には話したのですが……思っていた以上に、ティワード大臣が暗躍していたようです」
「ルエラが母上の後に……父上の妃になるというのか!? 絶対許さん!」
白熱して行くギードタリスを唖然と見る。ルエラさん、存じ上げないが、かなりの人物だとお見受けする。
「そこで、陛下はリーズ様に目を付けられたのでしょう。さすが冷徹なる為政者です。……すみません、失言でした」
どうやら、昨日のリーズの売り込みのあと、魔王陛下はすぐさま配下の動きを調べたようだ。後宮を復活させようという動きがある、と伝えたせいだろう。
「……良い。しかし……」
「んっと、アンジュおバカなので細かいことはわかんないです。でも、姫様は魔王様と結婚できるですか?」
「……まぁ、このままですとそうなりますね。陛下の筋書き通りに行けば」
「わああっ! すごいです! 姫様、魔王様大好きだから、アンジュも嬉しいです!」
やけに重たい男二人の空気を、アンジュが明るくぶった斬った。心底嬉しそうな笑顔を浮かべ、「良かったです! おめでとうございます!」と繰り返す。
「……そうだったんですね……」
その無邪気な様子に、ディニムーが深い深い息をついた。
「正直なところ……リーズ様は陛下の筋書きに利用されたのかと思っていました。けれど、リーズ様のお気持ちは本物なんですね……」
「あの……? 利用、とは……?」
そろそろ情報開示をお願いしたい。推しのいない今が、リーズの一番冷静な時。訊くなら……考えるなら今だ。
「……リーズ様はアッシュウス様を覚えていますか? 中庭で会った」
「あの、非常に尊大な印象の方ですわね?」
「言い得て妙です。その彼の父がティワード大臣で、彼の姉が水面下で時期王妃と目されるルエラ様です。これ以上説明……は、不要なようですね」
思わずリーズの秀麗な鼻筋にシワが寄った。
つまり、鼻持ちならない少年の父は野心家の大臣で、その姉もその血筋に恥じないヒトなのだろう。だから、その計画を阻止するため、魔王陛下がちょうど浮いたコマだったリーズを利用した……とディニムーは考えたのだ。
「わたくし、言わされているわけではございません。魔王陛下をお慕いしていると、わたくしが申し上げたのです。
……それにしても、ティワード大臣とはかなりの基盤をお持ちのようですね」
まさか自分の萌え神信仰が疑われるとは思わなかった。それだけは訂正しておかねばなるまい。この愛は本物ですから!
すみません、長くなったので分けます




