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溺愛し過ぎる悪役魔王に恋する耳年増令嬢  作者: 千魚
萌え神様の後宮……の悪女
21/36

神様のご託宣

新章です

 リーズはフワフワとした気持ちで目が覚めた。

 ……あ、夢? 推し尽くしとか、幸せな夢だったな……。


「おはようございます、姫様!」


 ポーっとしたまま、今日も元気なアンジュに朝の仕度を丸投げする。


「姫様の御髪おぐしは今日もとってもキレイです。はぁ、幸せです……」


 朝ごはんは果物とお茶。フローラルなお茶は体の中に花が咲くみたいな気分になる、ここ数年のお気に入りだ。


「おはようございます」


 アンジュを伴っていつものようにギードタリスの部屋に入った時、最初の違和感がやってきた。


「お……おはようございます」


 何この空気。

 むっつりとそっぽを向く王子と慌てた様子の世話係。


「殿下、おはようございます。ところでディニムー様は……?」


 この時間にまだ来ていないなんて珍しい。リーズはわずかに困惑した。


「おまえ……まずディニムーか!?」


 あー……そういえば昨日、城下に降りるかどうかで物別れに終わったような。なんだか記憶が遠くて忘れていた。


「どうされました? それよりも殿下。昨夜も申し上げましたが、ご無事で本当によろしゅうございました。わたくし、胸が潰れる思いが致しましてよ?」


 悲しげに微笑んでそう言えば、ようやく王子がこちらを向く。

 不機嫌……よりはバツの悪さが勝るかな?


「…………コレ、やる」


「はい?」


 握った手を差し出され、リーズは優雅に近付いた。

 視界の隅で世話係がホッと息をつくのが見える。リーズにとってはこの程度、猛獣と呼ぶに値しない。ワガママだけど、わかりやすい幼子だ。


「何でございましょう?」


「……土産だ」


 そっと差し出した両手の平の上に、ポトンと小さな物が落とされた。


「まぁ……っ」


 金色で所々琥珀色。


「飴細工、でしょうか!?」


「む。よく知っていたな」


「ふふ、魔王国にもあるとは存じませんでした。以前、商業国からの贈り物に入っているのを見たことがあったのです。わたくしがいただくのは初めてですわ。ありがとう存じます、ギードタリス殿下!」


 リリターだろうか。可愛らしい小型の魔獣の形をしている。これは普通に食べるのがもったいないほどの逸品だ。

 アンジュに、部屋に飾ってもらうようにお願いする。


「ふむ。他国にもあるのか。しかし、バルタザールに勝る職人はおらんだろうな」


「殿下のお知り合いですか?」


「下町の小さな爺ぃだ。アイツ以上の飴細工職人をオレは知らん」


「殿下は下町に通じていらっしゃるのですね」


「うむ。所詮庭の延長だからな。だから危なくなどないと言うのに……」


昨日さくじつは失礼致しました。ぜひ今度は前もってお誘いくださいな。わたくし、自分で思っていたよりずっと、急な外出というものに不慣れでして……。お約束があればきっと、大丈夫だと思うのです」


「そうか。……ならば仕方ないな。そうしよう」


 バルタザール翁にもお会いしてみたいですし、と続けると、ギードタリスはおもしろいくらいコロッと機嫌を上昇させた。

 やっぱり子どもっておもしろい。いや、別に転がしてるつもりはないし、あれもこれもリーズの本心だけど。

 自分のアクションに真っ正面からリアクションがあるのって、幸せだ。裏も表もない心の機微が見れることなんて、王族として生きていればそうそうない。


 ……そういえば。

 ゆうべの夢の中の魔王陛下も感情豊かで可愛いかった。うん、めっちゃ。可愛かった。あ、思い出し悶えしそう。夢なのに。


 可愛いといえば、あの鳥ちゃんもイイキャラだった。いつの間にか、リーズの妄想力は破竹の勢いで成長していたようだ。

 使い魔って。ホントに存在するのかな。


「遅くなりました。おはようございます」


「うむ。ようやく来たかディニムー」


「おはようございますディニムーさ、ま……?」


 ……あれ?


 ギードタリスと改めて約束したところに、軽いノック音が響いた。ようやく顔を出したディニムーに挨拶を返そうとして、リーズは我が目を疑った。だって、あの子……。


「まったく、なぜオマエが父上に呼ばれるのだ」


「私も驚きましたよ、リーズ様」


「……はい?」


 なぜ突然こっちに振るのか。……というか、あの子って……。

 ディニムーの肩に圧倒的違和感。なんで、夢の中の鳥ちゃんが??


 まんま、羽毛がフサフサの長毛鴉。クリクリと優しげな瞳もそのままだ。

 リーズを見て「キュワッ」と鳴いた声も、聞き覚えがある。


「まさか陛下がこんな……。いえ、これ以上は私からは言いません」


 やけに難しい顔をして、


「殿下、お願いします」


 肩の鳥ちゃんを手の甲に移し、さらに王子の前のテーブルへと移動させた。チョンチョンと飛び移る姿は、「和む!」の一言。


「ふむ。アテルか」


 指先に魔力の光を灯したギードタリスがその嘴にツッと触れる。


「キュワッ」


 ふわぁぁっ可愛いぃぃっ!

 一瞬白い光に包まれた鳥ちゃんがプルリと体を揺すって一声鳴いた。


「まおうヴェテルデュースよりでんごん。ひとばらいせよ。キュワッ」


「…………え?」


 何かの魔術が発動した。それはリーズにも感じられた。

 けれど状況がわからない。鳥ちゃんが喋った途端、急に世界から隔離されたような気分になったのだ。正確には、ギードタリスとディニムーと鳥ちゃんとリーズ、それだけの小さな世界に隔離された……?


「大丈夫だリーズ、問題ない。珍しくはあるがな」


「陛下がいらっしゃいます」


 ……はぃ??


 机の上の鳥ちゃんが飛び立った。今度は銀色の光を散らしながら……


「ギードタリス、手間をかけた」


 なぜかすらりと伸びて、超絶美貌の魔王に変わる。


 んん????

 狭い空間に推しと一緒なのはマジ嬉しいが、ついて行けない。……いや、ここは素直に喜ぶべき? 理屈と魔王をはかりにかけたら……はい圧勝! 魔王陛下万歳!! 最高!!


 パッと跪いたディニムーの横にリーズも一緒に跪く。けれど、それを魔王が止めた。


「其方はこちらへ」


 え? イイの? 魔王陛下の前に立つとか……わたし、神の怒りに触れるんじゃない? あ、でもイイか、そのくらい。推しのためならなんのその、だ。例えこの身を焼かれようとも……!


「父上……?」


 戸惑ったのはギードタリスも一緒らしい。不思議そうな目が…………目が? うん? なんでわたし、殿下と向かい合ってるのかな??

 …………って!! …………って!! …………手!!!


「実は前々から考えていた」


 重々しい魔王の美声。それがすぐ耳の上から降って来る。

 目を白黒させる……とか、処理落ち……とか。リーズの今の状態はそれに近い。


 だって!! だっ、だだだだ、だ……だ……っ!


 わたしの肩に!!

 神の御手が!!

 くるりんて……くるりんて!! まるで肩を抱くように……っ!!

 抱くように!!

 何度でも言う。抱ーくーよーうーにーっ!!! ヤバッ!!! 語彙力死ぬ!!!


 隣から軽く肩を抱かれるとはねっ!? 天地崩壊!?


「この者を近く、召し上げようと思う」


「な……!?」


 うひょほーっ! これ、夢!? 夢の続き!? 楽しまないと損なヤツ!?!?


「リーズはオレの……っ」


「そうだ。おまえが暴走したせいで魔王国に献上された和平の使者だ」


「っ!」


「戦うとなっても我らが負けることはない。だが、戦う理由がそもそもないのだ。突き返せない以上、何らかの措置は必要だと考えていた」


「このまま……客分で良いではありませんか!」


 夢ってすごい!

 まさかこんなに夢のシチュエーションが起こるなんて……あ、だから「夢」か!


「その通り。だが……事情が変わった。詳しくはディニムーに問え。昨夜内々にこの者の許諾は得た。整い次第公表する」


 うっっっとり。

 艶々ヴォイスが自分のことを喋ってる……ぽい。浮かれすぎて内容はイマイチわかんないけど。

 ハァ……幸せ。幸せ過ぎる。叫びたい。

 ……絶対叫んだりしないけどね? 魅惑のお声をわたくし如きが遮るなど有り得ないもん。神よ、御馳走様です!!


「では、ディニムー。後は任せる」


「はっ!」


「ギードタリス………………励め」


 隣で眩い銀色が炸裂した。次第に落ち着いて行った光が集まり、黒くなって……また、鳥ちゃんの姿に戻る。


「キュワッ」


 鳥ちゃんは一声鳴くと、昨夜の夢のように窓にすっと吸い込まれて消えて行った。


「殿下……」


 気遣わしげなディニムーの声にハタと我に返る。いやぁ、素晴らしい白昼夢。……集団幻覚?


「……なぜだ!?」


「殿下……まずは、お人払いを」


「クソ……っ」


 ……あれ? 白昼夢未だ公演中??


 リーズはキョロキョロと辺りを見回した。

 キョトンとしたアンジュと目が合う。微笑むと、幸せそうな大輪の笑顔が返ってきた。

 うん、通常、現実。


「ディニムー、リーズ、それ以外は出ろ」


「あ、アンジュ嬢も残ってください」


 不思議そうにこちらを見るアンジュには、同じく不思議そうな顔を返した。リーズも正直、わかっていない。どこまでが夢で、どこからが現実なのか。謎だらけ、だ。


 またしても、何か魔術の気配がした。


「防音結界です」


 固い声でディニムーが教えてくれる。そして、


「ではリーズ様。確認します。近々陛下の妃となられる、ということでよろしいですか?」


 夢と現実の間の壁を、ボコーーーンッ! と力技で殴り倒した。

 …………あれ……?




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