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溺愛し過ぎる悪役魔王に恋する耳年増令嬢  作者: 千魚
(「推し」に目覚めた耳年増)
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耳年増、勝負に出る。(後)

 推しのご機嫌を損ねてしまったかもしれない。リーズ史上最悪の大失態だ。


 えっと……えっとえっとえっと……どうにか路線変更を……え、どうやって!?

 このままじゃマズい。わかるのに、混乱する。


「ところで其方……」


「あの……わたくしを! 魔王様の後宮に入れてくださいませっ!」


 テンパった。極限パニックなレベルでテンパった。

 そして、魔王陛下の言葉を遮ってしまったことに更にテンパる。


 うぅぅ……どうしよう……。ってかもう、こうなったら突っ走るしかないよね!?

 言っちゃったし! パニクり過ぎて突然本音がドパーンッと出ちゃったし!!


 ……腹を括るのよリーズ! 魔王様を拝める場所で生きて行きたいのでしょう!? こうなったらもう、売り込め売り込め、とことん売り込め!! もはやその他にわたしの生きる道はナイ!!


「あの、陛下! わたくしは人質として贈られましたから国には帰れません。それに生粋の箱入り娘ですので、放逐されたら生きて行けない自信があります……っ」


 ……いや、コレ、何の売り込みだよ!? 落ち着けわたし! そうじゃなくて……


「そして何より! わたくしは魔王様を心の底からお慕い申し上げております! ぜひとも後宮に置いてくださいませ!」


 そうコレ、こっち! ほらほら、人類の誇る三国一の美姫が愛の告白しちゃいますよ! 超お買い得ですよ!?

 ……だから役立たずって言わないで! 追い出さないで! ベビーシッターならぬ王子シッター失格だったかもしれないけど……何かしら必ず役に立ってみせるので!


「……知らぬな。そのようなモノはここには存在せん」


 若干呆れを含んだ硬い声に体が強張る。

 落ち着け、落ち着け。深呼吸……。……と思ったら、「ふ、ふん」と奇妙な音が漏れた。恥ずかしい……っ!


「そんなワケはございませんわ。大臣様達が後宮に入れる人員の手配をしていましたもの」


 恥ずかしさのあまり、早口になる。

 でも! 早速魔王様のご存知ない情報差し上げますので! 美人で情報通で、あなたのリーズは何気にマジ、お買い得です!! てか、魔王陛下にしか買われる気はありませんからっ!


 ちなみに後宮云々は、ディニムーとの雑談で得た情報だ。何せ、リーズ自身はギードタリス達以外との接触がほとんどない。殿下、子どものクセに何気に過保護だからね。

 しかし、自衛のためにも情報は必要。リーズは手を変え品を変え、ディニムーの持つ情報を引き出すことに腐心していた。


「……私は許可しておらぬ」


 苦虫を噛み潰したような陛下の声に「やっぱり? 愛息子以外興味ないもんね? 知ってた!」と思うけれど、ここで引き下がっては崖っぷちのリーズ、絶望の海に真っ逆さまだ。


「とにかく!」


 ここは不退転の決意で挑むべき時。

 ぐっと顎に力を入れて、ついに魅惑の魔王アイを見つめる。


 えっと……どうせ後宮に誰かを入れるなら……ギードタリス殿下と面識のあるわたしがイイと思います。わたしなら、きっと、陛下と殿下の架け橋になれると思うんです!


「わたくしは魔王様の妻にしていただくと決めたのですっ!」


 ……ヤバっ! 本音と建て前が逆転しちゃった!


 あぁもう……いくら魔王様のお目々が宝石のように無表情で美しくてまさに下界を見下ろす神々の眼差しだからって……動揺するなって方がムチャでしょって痛感しちゃったからって……これじゃわたし、偉そうじゃない!? ヤな感じじゃない!?


 ……あ、でも! 今ビミョーに魔王様の眉が動いた! これはもしや……


「……さもないとバラしますよ?」


 悪女路線、有りかも!? ちょっと興味持ってくれたっぽい!


 普通に考えて、魔族最強の魔王陛下を脅そうとする愚か者なんているわけがない。これは……うまくすればイケるかもしれない。

 魔王様観察強化週間を実施したリーズにはわかる。ギードタリス同様、魔王も倦んでいるのだ。変わり映えのない、張り合いのない毎日に。だから尚更、愛する我が子の成長に固執する。唯一興味を惹かれるモノで、唯一変化が感じられるモノだから。


「うふふふふ」


 笑え。できるだけ妖艶に。できるだけ悪そうに。まるで魔王と対等であるかのように。


 魔王様の身近には絶対いないタイプ。わたしが興味を引くには、そう思ってもらうのが良さそうだ。


 推しを騙すような真似は心苦しいけれど、推しを失えば生きていけない。

 究極の二択。

 うぅ……今後の人生全て魔王陛下に捧げるので、生きることをお許しください!!


「…………」


「きゃ……っ」


 なんと、リーズの祈りが神に届いた。抑えきれない感動に打ち震える。


 ついに……ついに無機質な魔王の視線がリーズの上で焦点を結んだ。

 ギードタリスの添え物としてではない。あの冷めた魔王陛下が、リーズをリーズと認識して、しっかりとこちらを見据えている。


 リーズは究極の二択の賭けに勝ったのだ。


 こんな興奮って、ない──!


 推しの視界に入る。推しに認識して貰う。

 畏れ多いことだと思う。恐ろしく贅沢な出来事だ。これを奇跡と呼ばずしてなんと呼ぼう。


 至福を超える幸せに、自然、涙が湧いて来た。

 感情が高ぶり過ぎてクラクラする。

 でも失神なんてもったいないこと、絶対できない。……あぁ、でも、意識が……。 


「魔王様って……隠してらっしゃるおつもりのようですが、本当はギードタリス様が可愛くて可愛くて構いたくて撫で回したくて仕方ありませんよね」


「な……っ!?」


 仕方なく、リーズは短期決戦を狙うべく斬り込んだ。

 わたしは悪女。わたしは悪女。わたしは魔王様を脅す、悪い女。だからもっとわたしに興味を持ってください。


 「無関心」の反対には何もないが、「嫌い」の反対は「好き」だ。今は、魔王様の視線がこちらを向きさえすればイイ。


「陛下が『メチャんこ溺愛してるのを必死で隠してる』ってことをギードタリス様に……うふふふふ」


 バラしますよ?


「其方……っ」


 なぜ……と悔しそうな顔をする魔王は心底愛しい。


 どうしよう、嬉しい。魔王様がはっきりとこっちを見て、はっきりと感情を出して見せてくれている。

 能面と陰口を叩かれるくらい表情の動かない魔王様が、今だけ……リーズの前でだけ、その仮面を取ったのだ。こんな幸せなこと、あるだろうか。


 わたし如きの言葉に一喜一憂してくれるなんて……尊みが止まらない。


「もちろん、後宮に入れてくださるなら他言しないとお約束致します」


「く……っ!」


 はぁぁぁんっ! いただきました魔王様の「くっ」!!


「ね、入れてくださいませ。当面は後宮に置いていただくだけで構いませんから」


 どんな甘言を囁いても、こんなにストレートに感情を見せてくれることはなかっただろう。

 リーズだけが知る、推しのありのままの姿。


 …………滾る。たぁぎぃるぅっ!!


「ふふ。後宮と言えど夜のお通いは…………あれば嬉しいですけどまぁ何事も急いては事を仕損じると教えられたことですし……今は置いていただくだけで構いません」


 なんせわたし、もう既に、誰も見たことのない魔王陛下の表情かお、見ちゃいましたから!

 魔王様の信頼と愛は、一生かけてゆっくりじっくり頂戴します。この人生はもう、魔王様に捧げましたので。魔王様を楽しませる、敬虔なる巫女でございます!


「……さもないと。わたくし、悲しみのあまりバラし……口走ってしまうかもしれませんわ」


 今は陛下の日常の刺激となるべく、道化に徹してみせましょう。


「みなさぁぁぁんっ! 実は魔王様はぁ……っ!!」


「止めろ!!」


ぎゃーー! 声を荒げるとか! 激レアいただきました!! もっとください!!


「うふふふふふ。では、入れてくださるのですね?」


 ヤバいヤバいありがた過ぎる!

 お約束致します、退屈なんかさせません絶対に! 全力で楽しませてご覧にいれます!


 ……………ね?


「ま・お・う・さ・ま」


「く…………っ」


 ……うっひょうっ! 早速のご褒美、ありがとうございます!! てか、魔王様の存在自体がご褒美ですけどっ!


「出歩くことは禁止する……」


 なんですかその悔しそうな顔! 鼻血出る! 色気ヤバい!!

 ……ってか、今なんて言った!? 出歩くことは禁止? ってことは…………


「ありがとう存じます……っ!!」


 夢じゃないよね!?


 一発逆転大勝利! 嬉しい嬉しい嬉し過ぎる!!


 声を大にして叫びたい。

 わたし、見事! 念願叶って「魔王様のリーズ」になりました!! やったぁぁぁぁああっ!!!


プロローグとの温度差、実はかなりありました


魔王様がデレる日はまだ遠そうです……

次は新章


一生かけて、魔王様を徐々に懐柔していきます

……落ちる時は一瞬だと信じて!

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