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溺愛し過ぎる悪役魔王に恋する耳年増令嬢  作者: 千魚
(「推し」に目覚めた耳年増)
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耳年増、むくれる。

少し長いです。

 寝込んでいた間に萌え一大事が起こっていませんように!!


 そんなリーズの切実なる願いは叶わなかった。

 翌日、すっかり回復して恐る恐るギードタリスの部屋を訪れたリーズは、あまりのショックに膝から崩れ落ちた。


 なんで……? なんで昨日に限って……。

 

「それでな、コレを父上がくださったのだ!」


 ウキウキを隠しきれないギードタリスの手には一本のペン。光輝く神器だ。……いや、本当はシンプルで黒いペンだけど。リーズには発光して見えた。畏れ多いレベルの尊さにより。


 昨日、あろうことか魔王陛下は王子殿下の勉強の進み具合の確認のため、この部屋を単身訪れたらしい。

 ううぅひどい……ご降臨あそばす場に居合わせたかった……。ぐううぅぅ。


「な!? どうしたリーズ!?」


 突然崩れ落ち、涙を流すリーズにギードタリスが慌てる。


「まだ体調が悪いのか!? 戻って休んでも良いのだぞ!?」


「……いえ。是非とも本日はおそばに居させてください……。己の不甲斐なさに打ちひしがれているだけでございます……」


「そうか? いや、だが、ペンが折れたのはリーズのせいではないぞ?」


 そう。陛下の御前ではりきったギードタリスは、はりきり過ぎてペンをボキリと折ったらしい。そしたらまさか……魔王陛下が愛用のペンを虚空から取り出して、


「使ってみよ」


 さり気なく愛息子にプレゼントしたのだそうだ。


 さり気なく。さり気なく! 大切なことだから何度でも繰り返す。魔王様がさり気なく!

 ……うぅ……絶対バレバレのさり気なさに決まってる。そして、さり気なさを装うために若干挙動不審になってるんだ、絶対。ぅああああんっ! 見たかったよぅ……っ!!


 後光指す「御ペン様」を拝めたのは幸運だと思う。でも。

 近くで魔王様見たかった! 神器を下賜する伝説的な瞬間をこの目で拝見したかった……っ!!


 泣き崩れそうになるがしかし、これ以上怪訝に思われればギードタリスの手で病人としてベッドに戻されてしまう。今は……今日のご降臨に一縷の望みをかけるしかない……!


「それと、リーズ様には直接関係ありませんが、辺境伯のお一方が本日、陛下と謁見されます」


 こちらを気にするギードタリスをなんとか毎朝の鍛錬に送り出したリーズは、ディニムーの言葉に首を傾げた。あまりライシーンでは聞かない位階だ。


「我が国の辺境伯は、恐らく他国のそれとは別物です。辺境とはそのままの意味ではなく、属国のことなんですよ。七代前の魔王陛下が魔族統一を果たした時に併呑した小国を今は辺境と呼び、当時の王家筋が辺境伯になっています」


「初耳です……」


「まぁ、魔族にあっても寿命の長い魔王陛下の七代ですからね。人間の基準では資料すら残っていなくても仕方ないと思います」


 はぁ……。ホント、魔族から見たら人間て虫同様の儚さだよね。改めて痛感する。

 その儚い人間だからこそ……昨日の至高の萌えシーンを見逃したくなかったのに……っ!


 思い出す度に悔しくて、そろそろ血反吐を吐きそうだ。


「ちなみに辺境伯は13人いまして、彼らは3年に一度、服従を示すために自領の特産物を携えて陛下との謁見に臨むわけです。

 まぁ、つまり何が言いたいかというと。今日は陛下はお忙しいので、殿下の様子を見にいらっしゃることはありません。最近の殿下は、陛下との交流を原動力に努力されているフシがありますが、今日はなんとか我々で宥めなくてはなりませんね」


 ガタ落ちするだろうやる気をいかに補うか、が問題です。

 ディニムーは難しい顔でそう意気込んでいるが、リーズにとっては死刑宣告も同然だった。昨日の今日で……天はわたしを見放したもうた……。


 どうしよう……ツラい。魔王様抜きの人生なんて干からびる。

 あぁホント、昨日のわたしのバカバカバカ!!


「さて今日は中庭で何をする?」


 剣術の稽古を終えたギードタリスがイイ笑顔で戻って来た。開口一番、今日も父親に構ってもらう気満々で予定の確認を始める。


「殿下。忘れているかもしれませんが、今日は辺境伯が来る日です。中庭に出ても魔王陛下は来ませんし、下手すれば辺境伯にばったりです。礼儀作法必須ですが……それでも行きます?」


 ……あれ? 「宥める」んじゃなかったっけ……?

 もしや、ディニムーには婉曲に、とか配慮して、とかいう機能がないのだろうか。敬語もわりと苦手っぽいし。


「聞いておらん」


 案の定、ギードタリスがヘソを曲げた。

 まぁ、子ども相手だし、どう言ってもダメだったかもしないけれど……リーズだって傷心なのだ。この状況で上手くフォローできるはずもない。


 むしろ、


「殿下には素敵なペンが御座いますもの。中庭に行かずとも、今日はいつも以上に勉学が捗るのではございませんか?」


 そんなイイ物持ってるんだから不平不満を漏らすんじゃない。要らないならわたしがいつでも頂戴致します。

 大人げないのはわかっているが、リーズの絶望の方が大きく深い。


「……勉強したところで何になる」


「それは教育係のディニムー様にお尋ねください」


「え!? あー……立派な次期魔王になれます」


「それはいつだ。あと何年後だ?」


「ザッと……200年後、とかですかね。早くて」


 ……わー、魔族って気ぃ長いわー。


「つまり200年毎日毎日勉強勉強……。……イヤだ。つまらん」


「嫌って言われましても……殿下、立派な魔王になりたいんですよね?」


「立派な魔王にはなる。だが今日は勉強しない」


「えぇ!? なんですかその暴論」


 暴論どころじゃない。さすが子ども。

 要は、「父上が見てくれないならやる気出ないもん!」ってことでしょ? わかるわかる。


 現在形でモチベーションが激落ち中のリーズには共感しかない。それだけ魔王陛下の存在は大きいのだ。

 ……でも。


「ではそのペンは不要でございますね。わたくしが処分致しましょう」


 リーズと違って王子の手元には神器があるではないか。勉強しないなんて選択肢はない。


「な!? ソレとコレとは別だろう!?」


「え? だって、お勉強なさらないのですよね? 『いただいたペンをもうこんなに使いました』とご報告できる機会をみすみす逃すおつもりなのでしょう?」


「……明日は使う!」


「口先では何とでも言えますわ」


「口先ではない!」


 自分がやけに意固地になっていること、リーズにもわかっている。けれどなぜか止められなかった。

 ……いや、「なぜか」じゃない。これは嫉妬だ。ギードタリスが妬ましい。


「そうですか。では今日1日はペンを使わずに何を為さるのでしょう?」


 嫉妬なんて、されることはあれど、したことなんてほとんどなかった。醜くて嫌いな感情なのに、今は自分の中でばっちりがっつり渦巻いている。

 困ったことに、不慣れな感情過ぎてうまく制御できない。煽られたギードタリスがむっつりと黙り込んだのち、


「……城下の視察だ」


 むつけ顔のままボソリと言った。


「殿下! 勝手にウロつくのは止めてくださいとお願いしたじゃないですか! そもそもリーズ様がここに居るきっかけだって殿下のワガママなんですよ!? 勝手に外出してリーズ様の国で暴れたこと、私は怒ってますからね!?」


「……リーズは関係ない。今宣言したんだから、勝手でもない」


「トラブルを起こさないでください、と言ってるんです! 他国とのトラブルなんて以ての外! 国民とのトラブルもです!! 殿下が外に出るとロクなことにならない」


「…………ならおまえも付いて来れば良かろう」


「事前通達もナシに城下に降りれば大混乱になることくらい、知ってるでしょう! 百歩譲って緊急通達するとして、理由はどうするつもりですか!?」


 王宮から出ずに育ったリーズには付いていけない会話だ。確かに、ギードタリスが単身ライシーンに現れたことは王族の常識に照らし合わせれば違和感だらけ。そうか……あれは勝手に城を抜け出していたのか……。

 リーズが魔王国に来る前はどうやら今よりずっと問題児だったらしい。


「……リーズに城下を見せる」


「ハァ……。リーズ様は人間です。それこそ警備から何から必要でしょう。危険な目にあわせたいのですか!?」


「なんなんだ反対ばかり!」


 だからおまえに内緒で出たくなるんだ!!

 ギードタリスの叫びにも一理あるが、ディニムーの言うことは二理も三理もある。嫉妬心を持て余していたはずのリーズだが、いつの間にか呆気に取られていた。


「行くぞリーズ!」


 え、どこに? ……え、城下!?


「ちょ……あの、お待ちください! わたくし自国の城下すら行ったことがなくて……っ」


 このまま連れ出されるのはあまりにも恐ろしい。リーズは必死に言い募る。


「王城から出るのは無理です……怖い……っ」


「問題ない。オレは強いからな」


「そういう問題ではなくて……っ」


 ホントに無理! 好奇心とかいう問題でもない。リーズにとって平民の暮らす場所は未知の世界、猛獣の巣。魔王国に来る際に馬車で通り抜けたのだって……厳重な警備のもとでのことだった。


「殿下。嫌がる女性に無理強いするのは恥ずべきことです」


「な!? リーズはオレを好きだと言った! そばにいたいと! なのになぜ嫌がる!?」


「ハァ。百パーセント別問題だからでしょう。……育て方間違ったかな」


「リーズ! 来い!」


 だから無理ぃぃっ!

 突然の強い恐怖にこれ以上何を言えば良いのかわからず、ブンブンと首を横に振り続ける。いくら萌えに貪欲で暴走気味とはいえ、深窓も深窓の後宮育ちだ。教え込まれ、刷り込まれた外界への恐怖はあまりにも根強い。


 怯えて腰の引けたリーズに苛立ったギードタリスが舌打ちする。強引に連れ出そうとしてもディニムーに邪魔されるだけだ。


「クソ……っ!」


「殿下!! 外に出ちゃダメですからね!?」


 悪態をついて一人、バルコニーから飛び出した王子殿下をディニムーの苦言が追う。


「まったく……聞きやしない!」


 茫然とただ見送る。リーズにはそれしかできなかった。

 安堵のあまり力の抜けた体で。



次回、ついに魔王の呼び出し。

ようやくプロローグ回収です!

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