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溺愛し過ぎる悪役魔王に恋する耳年増令嬢  作者: 千魚
(「推し」に目覚めた耳年増)
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耳年増、覚醒する。

 ──父上はオレのこと好きじゃない。


 そうはっきり口にしたギードタリスに、リーズは瞬間沸騰した。

 羨ましいくらい溺愛されといて何てこと言うの!?


 けれど、その愛情はギードタリスに全く伝わっていなかったことを思い出す。

 リーズの目にはバレバレだが、魔王は必死に隠しているし、息子は何ににつけてもまだまだ幼い。


 うーん……悩ましい問題だ。リーズの色ボケ父は、ある年齢以降、変な意味で溺愛ダダ漏れだったし。

 魔王様、あれだけ頑張って隠してるんだもん、バラしたらキレるよね……。


「そんなことはないと思いますよ?」


 結局、リーズが口にしたのは無難な一言。


「ただ……お立場上、いろいろ難しいのでしょう」


 付け足したのも、一縷の希望だけが残る灰色の言葉。ギードタリスの求めるものではないとわかっているけど、これしか言えない。

 そしてたぶん、ギードタリスもそのありきたりな状況はわかっている。


「……そう、だろうな」


 諦めたかのような大人びた表情に胸が痛んだ。こうやって、リーズもたくさんのことを諦めてきたから。


「……一つだけ言えることがあるとすれば、陛下は殿下にとても興味を持っておいでです。庭でお勉強していると、よくいらっしゃるでしょう?」


 このくらいなら伝えてもイイと思う。


「注意しかされないが?」


「それでも、ですわ。例えば、わたくし一人が中庭で絵を描いていても陛下はお気になさいません。殿下が努力していらっしゃるお姿を見学されたいのですもの」


「……そういうものか?」


「はい」


 ……うぅ……自分で言ってて自分で傷つく。

 ハァ。そうなんだよね、まだ、殿下の付属物としてしか、麗しの魔王陛下に認識してもらえてないんだよ……。


 初めて謁見した時、リーズの外見に目を奪われない魔王に感動した。そんなヒト、いなかったから。ただの人間として扱われて、新鮮で嬉しかった。

 けど、さすがに……王子を通して接点が増えたはずなのに、未だ路傍の石。これは由々しき状況だ。


「そうか……。うん、そうか!」


 落ち込む少年をフォローしたのは自分。なのにこうもあからさまに喜ばれると妬ましい。

 ハァ……。性格わる。こんなんじゃ魔王様に好きになってなんかもらえないよ。打算とか嫌いそうだもん。……けど、美貌と打算だけで生きて来たしなぁ。今更何をどうしろと……。ハァ、凹む。


「リーズ。…………感謝する」


 恋する乙女は不安定。

 知ってた。知識として。表面を取り繕うにも苦労する程。でもまさか自分の身に降りかかるとは。……うふふ。やっぱりわたし、魔王陛下に恋してるのね。陛下最高。恋ってすごい。


「殿下に笑顔が戻られたようで、わたくしも嬉しく思います」


「それで、だな。試しに…………明日からも庭に出てみようかと……」


「まぁっ! それは良いお考えですわね」


 うっそ。これはギードタリス殿下、百点満点の着地ですよっ!?

 ……え、何? このわたし得な展開。現実?

 机の下、こっそりと自分の腿をつねってみる。ぎゅ。ぎゅううううううっ! ……うん、痛い。夢じゃない。これ、現実!


 まさか餌が自分から釣られに行くなんて思わなかった。

 だって、入れ食いに決まってるのに。ちょ……上等な釣り竿! と、釣りの腕!! え、どうしよう!?

 ……いや、違う。まずは観察! ……そう、イメージは餌箱でのバードウォッチングよ! 幻の絶滅種並みの慎重かつ的確な観察を!! ……イイことリーズ。距離感大切、愛鳥週間。観察記録をガッツリ付けて研究必須よ!?


 うわぁ、俄然やる気出た!! あはは、乙女心と秋の空ってか。


「そうと決まればギードタリス殿下。ディニムー様にも協力を仰がなくてはなりませんわね。さぁ、参りましょう」


「ん? どこにだ?」


 にっこり。


「謝罪が必要でございましょう?」


 そう。焦りは禁物。相手は魔王陛下で、ここは魔王国なんだもの。

 ライシーンの後宮を訪れる色ボケ共とはそもそも別の生き物なのだ。それを正しく見極めないと、希望も見えない。


 待っていなさい魔王陛下!!

 万人向けの攻略方法なんかアテにならない。今に、魔王特化の、魔王様だけの、攻略法を見つけてみせる。

 わたしが二人分の愛を持っているから大丈夫? そんなの勘違い、悪手だった。だって、そんな口説き文句、自分だって引っかからない。ホント、くだらな過ぎて草も生えん。興味ない相手からの愛なんてどれだけあろうが、ないのと同じだ。


 まずは興味を持ってもらう。これが第一。


 まったく、恋は盲目とはこのことか。自分に置き換えて考えればあっさりわかるはずだったのに。そんな簡単な事実に気づくまでこんなにかかった。目から鱗、っていうより、目に脂肪でもついていたとしか思えない。

 ……つまり、ライシーンのリリーローズ姫が魔王国のリーズになったみたいに、魔王様を変えればイイのよ。息子にしか興味がない魔王様の視野を広げる。つまらない毎日に刺激を与えて覚醒させる。


 ──魔王の覚醒。

 ヤダ、イイ響き! めっちゃ萌える!


 うん。頑張ろう。覚醒魔王を見るためなら、いくらだって頑張れる。

 凍り付いたような冴えた美貌が生き生きと輝けば、それはどれだけ至上の輝きだろう。今でさえ神なのに……神を超えて神、ってことは……えっと……神王? 神神? ……いや、カミカミはおかしいだろ……あ、至高神!


 そうだ。最初に目指すは、全リーズが瞬時に平伏す、萌えの至高神様のご降臨。


「ディニムーに謝るのか……。気が進まん」


「そんなこと仰っても、本当は気になさっているのでしょう? 殿下のお顔に書いてございますもの、『バツが悪い』って。後悔してらっしゃるのですよね?」


「……。リーズには何でもお見通しなんだな」


「ふふ。そんなことはございませんよ?」


「いや……リーズがいてくれて良かった」


「光栄ですわ」


 子犬のように顔を輝かせるギードタリスは可愛い。もし魔王陛下がこんな顔で寄って来たら…………ヤバいっ! 鼻血出るっ!!


「さぁ参りましょう?」


 けれど、親子なんだから、可能性はゼロではないわけで……うん、決めた! まずは覚醒至高魔王神様のご降臨! 次に、覚醒至高魔王神様をデレさせる! 子犬化計画発動だ。


「うむっ!」


 目には見えない尻尾をブンブン振りながら追って来るギードタリスに、リーズは未来への野望を膨らませる。妄想は自由だものね。


 嗚呼、素晴らしき哉、魔王父子!!


思ったより、魔王様のデレが遠い……。

でも、魔王溺愛体質、ハッピーエンドは変わりません!

早く魔王に溺愛して欲しい……っ!

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