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溺愛し過ぎる悪役魔王に恋する耳年増令嬢  作者: 千魚
(「推し」に目覚めた耳年増)
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耳年増は聞き込みをした。

「ギードタリス殿下のお母君ですか?」


 まずは何をおいても情報収集。リーズは無難にディニムーから探りを入れることにした。


 ギードタリスは今、剣の鍛練に出ている。人間より強靭な魔族といえど戦闘技法は訓練ナシに身につかないのだそうだ。師範役は魔王の騎士。臨機応変に対応できるように、また偏った技巧にならないように、指導者はローテーションで変わるらしい。

 さすが息子溺愛魔王陛下だ。愛息の手習いにも抜かりはない。


「ええ。お見かけしたことがございませんので……。ご子息様のおそばに控えさせていただくのに、ご挨拶もせずにおりましたから、お目通り叶わないものかと……」


「うーん……お気持ちはわかりますが……」


ただ玩具のお人形として過ごすのではなく、時折とはいえギードタリスの指導に参加するようになってから、毎朝この時間にリーズはディニムーと1日の予定の確認をしていた。

 王子殿下の身の回りの世話をする者達は他にもいる。だが、教育係として長く一緒にいるディニムーが従者筆頭のような立場にあるらしい。この短期間でも、ギードタリスの動向について、かなりの権限を持っていることがわかった。


「それはやはり、わたくしが人間だから会わせられない、ということでございましょうか?」


「あ、いえ、そうではなく」


 歯切れの悪い言葉に内心イラッとしつつ、敢えて真逆の表情……謙虚さと誠意溢れる表情を心掛けた。こんなの、小芝居のうちにも入らない。情報戦は過酷なのだ。


 このところ気になって仕方ない姫君に真摯な表情でじっと見つめられ、ディニムーは動揺を隠そうと首ごと目を泳がせる。

 そんな心情を一切知らないリーズは、「あやしい」とばかりに更に真剣な顔になった。


「ええと……妃殿下には私も会ったことがなくて……」


「まぁ」


「多分、殿下……えっと王子殿下の方ですが……殿下も会ったことナイのではないかと」


「……え??」


 では、ギードタリスは何から生まれたと言うのか。卵? それともアプリコットか。あ、もしや……養子とか?


 …………え??? あの溺愛っぷりで養子なら、魔王陛下、純粋な子ども好きか、はたまたショタコン……。さすがに後者ならリーズの今後は絶望的だ。さすがのリーズも、自分の性別と年齢は操作する方法は知らない。えー……。


 表面だけはそのままに、密か考え込んでいると、


「さすがに生後6年の乳児では物心もつきませんからね。覚えていないと思いますよ。せめて立って歩いて会話できるようにならないと……」


 ディニムーが声をひそめ、沈鬱な顔で窓を見た。きっと、彼は彼で脳内ダイナミックに想像を広げ、訓練中の王子に思いを馳せているのだろう。


「………………え?」


 えっと……?

 深呼吸を一回。リーズは軽い混乱をなんとか治めた。


 うーん。6歳でまだ赤子だという魔族の生態にツッコめばイイのかな? ……いや、それはとりあえず受け入れるべきことだから、イイんだよね? て、ことは。


「王妃殿下は既にいらっしゃらない、ということでしょうか」


 離婚? 死別? やっぱり養子?

 どうやら、魔王陛下の愛情を誤解しているあの王子殿下は、複雑な生い立ちであるらしい。ちょっと納得。


「そうですね。亡くなった、と聞いています」


 ほー。……じゃあ最初からそう言えよ。

 それが正直な感想だった。妙に濁すから、変に気を回しちゃったじゃないのよ……。


 ギードタリスの年齢から逆算して、死別したのはおそらく20年ほど前のことなのだろう。


「……失礼ですが、ディニムー様は殿下にお仕えしてどれほどになられるのでしょう?」


 本筋とは関係ないけど、ふと気になった。


「そうですね。三年、でしょうか」


「…………え」


 あれ? 長年仕えた信頼ある腹心の教育係じゃ……。


「あ、その顔! 『短っ!』って思いましたね!?」


「いえ…………はい」


「言っておきますが、ギードタリス殿下の近くにお仕えする者はかなりの頻度で替えられているんですよ。『未来の魔王たる者、多くの臣下を知るべし』だったかな……ちなみに三年は最長ですからね!? 私、忠臣ですよ!? 大きな声では言えませんが、ワガママ盛りのお坊ちゃまのお相手はなかなか骨が折れるんですから」


「…………そうなのですね」


 これ、なんて答えればイイやつ!? やっぱり、本筋からそれた事を訊くんじゃなかった。そんなにエキサイトしなくてもイイじゃないか。どんだけツラいんだ今の立場。


「ええと……では、ディニムー様は殿下のお母君の事をご存知なくても仕方のないことなのですわね」


「そうです! あ、でも姿絵は拝見しましたよ。陛下の執務室の前に歴代の魔王陛下と妃殿下の姿絵が飾られてますし」


「え、ソレ見……! ……コホン。興味深いですわね。拝見したいものです。似ていらっしゃるのかしら……」


「いずれご案内しますよ。うーん、確かに殿下は母君に似ておられるかもしれませんね。雰囲気があまりに違うのでなんとも言い難いですが」


 リーズが見たいのは正直、現魔王陛下の絵姿の方だ。似ているか気になるのも、現魔王陛下の姿絵と本物の陛下。なんなら描かせていただきたい。誰よりも萌える絵が描けると思う。


「ところでリーズ様。本日の午後なのですが……」


 あ、もうちょっと魔王陛下に繋がる話を……。と思ったけれど、まあ、仕方ない。

 大切なのは、魔王妃が実在していて、その魔王妃が既に他界しているという情報。


 つまり、平たく俗っぽく言いきれば……「魔王は女を抱ける」ということ。むふふふふ。でもって行為によって「子をなせる」。


 …………ふあぁっ。


 それは経験はないものの知識だけはあるリーズとして、これ以上ないほどに妄想の膨らむ情報だった。


 あぁ、彼はいったいどんな顔で女をその手に抱くのだろう。

 蕩けるような優しい表情で……それとも、切羽詰まったような切実さで……? むしろ、あの冷たい顔のまま情欲を滾らせる……なんて言うのも捨てがたい。ギャップ萌え極まれり。

 ああもう、妄想なのに、既に色気にやられそうだ。くらくらする。


 なんなの魔王、萌えの塊? やっぱり神? 萌えツボしか存在しないんですけど。マジヤバい。


 真剣に。なんとかして彼の妻の地位をゲットしたい。本気で。心底。

 そして至近距離から、尊いあれこれを心行くまで拝ませていただきたい。


「ってリーズ様聞いてます?」


「……」


 にっこり。


「っ……その笑顔に……騙されませんよ……っクソ可愛いな!」


 さぁ、作戦を練ろう。

 せっかくライシーンの誇る美貌を持って生まれたんだもん。存分に活用せねば!



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