姫「恋は駆け引きだと教わりました!」
流れて来るタイムラインを見てたら激烈に書きたくなりまして!
データが手元に溜まって見にくくなってきたため、投稿します。
珍しく、結末までプロット完成済みです。
目指すは「愛し過ぎるクール紳士×一途娘」のもどかしい激甘ラブ(o^^o)
同好の士が一人でもいらっしゃると嬉しいです( ´艸`)
「わたくしを魔王様の後宮に入れてくださいませっ!」
……後宮? 人間の小娘がそう叫んだ時、ヴェテルデュースは耳を疑った。
「わたくしは人質として贈られましたから国には帰れません。それに生粋の箱入り娘ですので、放逐されたら生きて行けない自信があります。何より、わたくしは魔王様を心の底からお慕い申し上げております。ぜひとも後宮に置いてくださいませ!」
「……知らぬな。そのようなモノはここには存在せん」
「ふふんっ! そんなワケはございませんわ。大臣様達が後宮に入れる人員の手配をしていましたもの」
「……私は許可しておらぬ」
その昔亡き妻が暮らした後宮は封鎖している。あの頃も、他の妻などいらないと突っぱねたのに。未だに後宮の復活と充実を画策する者がいたとは……しつこいことだ。跡取りも既に決まっているし他の者にする気もない。
「とにかく! わたくしは魔王様の妻にしていただくと決めたのですっ! ……さもないとバラしますよ? うふふふふ」
「…………?」
妙な人間だ。いくら愛息子の様子が知りたかったとはいえ、このように面倒な生き物なぞ呼ぶのではなかった。
身に染み着いた鉄面皮のまま、心の中で溜め息をつく。早く追い出そう、そう決めて跪く娘をギロリと睨んだ。有力魔族ですら青ざめる絶対の眼力。ヴェテルデュースは、自身が「冷血魔王」「冷酷残酷王」「心なき独裁者」「ザ・暴君」「無慈悲なるイケメン紳士」などと渾名されていることを自覚している。
「きゃ……っ」
初めてしっかりとこの目で見据えた娘は、地味なお仕着せを着ていてもわかるほど、美しい造作をしていた。ふむ。ギードタリスの審美眼も育って来ているようで重畳なことだ。
この娘が隣国から献上されて来た時はどうしようかと思ったものだが、「オレのコレクションに加えてやる!」と宣言した息子の目は間違っていなかった。特に、亡妻と同じ深い濃紺の瞳が美しい。愛息子の審美眼の成長を確認できただけでも、この娘は十分に価値があったと言えるだろう。
気圧されたように震える娘を睥睨しながら、ヴェテルデュースは心の中で満足気に頷いた。もっと怯えるがイイ。自分が理不尽であればある程、息子に信望が集まるのだから。
──あなたの愛は少しだけ、重いのかもしれないわ。
幼い息子に反発され、儚く微笑む亡妻にそう言われて……丸9日間ヘコんだあの日から、ヴェテルデュースは息子と距離を置くことを心掛けている。過度の愛情を注いで『過保護過干渉な毒親』と思われてしまったら、この先一秒たりとも生きていけない。最愛の妻を亡くした今、自分には可愛い可愛いギードタリスしかいないのだ。
その超絶可愛いギードタリスと、目の前の美しい娘はあろうことか言い争いをしたらしい。息子がいったいどんな話題で熱くなったのか……知りたいと思うのは親として当然だろう。だから自らの執務室に呼び出した、の、だが。
「魔王様って……隠してらっしゃるおつもりのようですが、本当はギードタリス様が可愛くて可愛くて構いたくて撫で回したくて仕方ありませんよね?」
「な……っ!?」
震える娘が可憐な唇を開いた。と思ったら、とんでもないことを言い放った。
なぜその真実を知っている!?
「もうメチャんこ溺愛してるのを必死で隠してる……ってことをギードタリス様に……」
「其方……っ」
ギリリと奥歯を噛み締めた。手元で玉座の肘掛けがメキリと割れる。
「もちろん、後宮に入れてくださるなら他言しないとお約束致します」
「く……っ!」
魔力のないただの人間のはずだ。一国の姫だろうがなんだろうが、ただの人間に読心など不可能だし、何より幾重にもプロテクトした自分の思考は例え同格の魔王であっても読めない。なのに。
「ね、入れてくださいませ。当面は後宮に置いていただくだけで構いませんから。夜のお通いは……あれば嬉しいですけど、まぁ、何事も急いては事を仕損じると教えられたことですし……。さもないとわたくし、悲しみのあまりバラし……口走ってしまうかもしれません。……みなさぁぁぁんっ実は魔王様はぁっっ!!」
「止めろ!!」
人払いをしていて良かった。ヒトの口に戸は立てられない。どこかからギードタリスの耳に入りでもしたら…………息子に嫌われるのだけは絶っっっっ対嫌だっ!!
「では、入れてくださるのですね?」
「…………………………」
くそ……っ! 背に腹は代えられぬ、か!?
「ま・お・う・さ・まぁ?」
「く…………………………出歩くことは禁止する……っ」
断腸の想いとはまさにこの事。この娘、人間ではなく小悪魔なのでは……?
……しかし、小娘など気紛れなものだ。妻との思い出を壊されないよう、一室に籠めておけばそのうち飽きて帰りたいと言い出すだろう。きっと……たぶん……。……そうであれ。
「ありがとう存じますっ!!」
白い頬を髪と同じ薔薇色に染めた、文句ナシに美しい娘を疲れた気持ちで見やりながら、ヴェテルデュースは思い出す。
そういえば、肝心の喧嘩理由を未だ聞き出せていなかった、と。