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あい・らぶ・みーと  作者: ゴーレム
2/9

002『みつけた』

走る。

私は走る。

背後の怪物から逃げる為、一生懸命に走る。

もしかしたら今までで一番早く走れているかもしれない。

夢の中ではあるがそう思ってしまう。

いや、夢の中だからこそ、ここまで懸命に走れているのかもしれない。

だってあれは、正しく私を餌としか見ていないだろうから。


どうやら私は悪夢の世界に来てしまったようだ。

女の子ではなく、怪物が出た。


あの叫び声が聞こえ始めて数秒も立たない内にあれは現れた。

あれはまさしく悪夢の怪物だった。


けむくじゃらで体の半分が横に大きく開く口。

その口からは鋭利な歯とヨダレが洞窟の明かりを反射して妖しく光っている。

体は小さくて洞窟の明かりで見えた色は赤茶。

少なくとも私よりは小さいだろう。

近所で飼われている大型犬よりは一回りも二回りも小さい。

犬は体の半分が口で構成されてはいないけど。

まるで犬とティラノサウルスの口を合成したような異様さだ。


あんな口で噛まれたら無事ではすまない。

それだけは噛まれてなくてもはっきり分かる。


どんな動物よりも異様で奇妙な悪夢の怪物が、雄叫びをあげて喰ってやると言わんばかりに開閉する口、それだけで逃げるには充分な情報だ。

下手なお化け屋敷よりも怖い。

例え、自分よりも小さくても相手は獣で悪夢の怪物なのだ。

噛む瞬間に口がさらに巨大化しても驚かないし不思議じゃない。

だって夢だから。


それが突然、壁から出てきた。

もしかしたら抜け穴のようなものが開いていたのかもしれない。

しかし、ここは夢だから本当に壁から出てきたのかもしれない。

逃げる羽目になった私にはどちらでも変わらない。


例え夢の中とは言え怪物に喰われる筋合いはない。

もしかしたら夢の中の私はとても強くてあの怪物も倒せるかもと少し思った。

しかし、あれの叫び声を聞いて無理だと悟った。

腹の底がゾワゾワするような恐怖を駆り立てる。

そんな雄叫びだった。

あれは相手にするべきではない。

私の第六感が警鐘を鳴らしている。


現実で喧嘩すらしたことのない私に逃げる以外の手段が取れなかったとも言える。


私は怪物を見つけた方向とは反対へと駆け出した。

幸いな事に怪物が出てきた所から距離が有った為、喰われずに逃げ切れるかもしれない。

怪物の反対側の道もすぐに行き止まりではなさそうだ。

出口まで行けば助かるかもしれない。

しかし、残念ながらこの悪夢はリアルに忠実に世界を再現しているようだ。


足元は石ころや地面のデコボコで最悪。

明かりも乏しく、まるで明け方か暮れ方のようで目の前の地面すら明確に確認できない。

つまり走る事について良くない状態で。


さらに私自身、インドア派。

運動なんて通学か体育の時間しかしないような人間で、体型なんて周囲からブタと呼ばれる肥満体。


だから胸が痛い、足が痛い、息が苦しい。

なんでこんな悪夢を見なきゃいけないんだ。

私が何か悪い事をしたのか。


…夢、夢なんだから私が怪物よ消えろと念じれば消えてくれるんじゃないか。

そう思う反面、これは夢じゃなく現実かもしれない。

そう思ってしまう。


だってこんなに息が苦しいのなんて、走る度に来る足の衝撃なんて、夢であり得るか?

本当に私は洞窟で走っているみたいだ。


あのホコリが私に能力をくれたと言うんだったら今がその使い時だろうに。

せめて使い方ぐらい教えてから消えて欲しかった。

私は私の潜在意識であろうホコリに向けて文句を言いたくなった。

それがいけなかったのかもしれない。


雑念を抱いたせいか足を踏み外して転けてしまった。

痛い、全身が痛い。

痛みが本当に現実的だ。

走っている時も感じた。

夢の中にしてはできすぎてないか?


本当に夢?


背中に乗った重みは?

首にかかる熱い吐息は?

生々しく聞こえるこの音は?


私の視界は暗くなる。

首元に何か硬いものが当たって食い込んでいく。


本当に…これは夢なのか?

もしかしたら、ここは…

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