04.個人判断は勝手にしちゃダメだよ.xls
休憩後、僕は聖女ちゃんin勇者くんボディ側の世界に降り立つ。
「おー。ほぼ同じOSイメージからコピーして作った世界だけど、やっぱ現実世界で5年も経過してっと中の世界にも趣の差が出てくるな」
僕はそんな感想を抱いた。
そもそも『転生用』の『異世界』は僕たちが構築したものだが、その『元となるイメージ』というのは広く共有された『テンプレート』みたいなものがあるのだ。
これを『OSイメージ』なんていうんだけれど。(因みにここで言うOSっていうのは、『Overworld Source』の略である。)
有名どころのOSだと……いや、この話は長くなる、機会があればにしよう。
「さて、聖女ちゃんの魂は……っと」
勇者くんの時と同様の検索で聖女ちゃんの魂を難なく見つける僕。
Name : Sephilia Rose
Sex : Male
Age : 16
Job : Brave
Skill : Light Sword
...
ここまでは全く同じ流れだ。問題は、魂の融合度合いだな。
浅ければ、前回と違って移動コマンドで引き剥がすのも容易だが……障害発覚から勇者くんと同じくらいの時間を経過させてしまっているし、多分あまり期待はできないだろうなあ。
発見した魂に分析コマンドを仕掛ける。
「……97%。駄目だこりゃ」
絶望的な気持ちになるが、なぁに、先輩が勇者くんの魂をどうにか引きずり出すために奔走してくれているんだ。自分だって、負けていられるか。
僕は融合した魂の剥離に関する情報を、手持ちの情報端末から検索し始めるのだった。
◇
結論から言うと、ゴーグル検索の甲斐はなかった。
また、この8年間で個人的に蓄積した資料や、SouReinDBの公式サポートページで得られる情報も調べてみたが、手っ取り早く魂を剥離する方法はなく、一度完全に定着した魂を戻すための方法は、ひとつ。
「あー……やっぱこうなるか」
SouReinDBは、通常、データが更新確定されるまでは特定時点への復旧処理が可能である。
しかし、完全に更新確定されてしまうと、復旧処理は不可能となる。
その場合、誤った更新を戻すには、定期的に取得される一定期間の更新情報が必要となる……。
……つまり、まとめると『魂が定着される以前の情報』……一定期間の更新情報を使って、復元をかけろという事である。
「うわぁ、これ本番環境でやっちまって良いのか?」
僕は思わずためらう。
たしかにこのやり方なら一定期間の更新情報がありさえすれば(ないはずがないのだが)確実に復元は可能となる。
ただ、この一定期間の更新情報ってやつは、別に聖女ちゃんや勇者くんの魂の情報『だけ』を保持した情報ではない。
この情報を復元するために、恐らくは他の多くのデータを巻き込んで復元する羽目になるのだ。
「異世界全体に与える影響がデカすぎる……」
勇者や聖女が異世界に辿り着いてどのくらいの時間が経過したかはログを見ればはっきりするが、おそらくは1日~2日というレベルだろう。
とはいえ、その1日や2日に起きた世界の営み全てを復元するというのは、いかにも乱暴であり、本来なら避けるべき事態である。
「うーん……これは流石に僕一人の判断ではどうにもならんな」
僕はこういうまずい事態に直面した場合、速やかに上層部へ連絡する。
そうしないと、後でえらいことになるからだ。(主に責任問題的な意味で)
ということで、異世界共有スマートフォンを取り出し、僕は電話をかけた。
「もしもし。シス管7Gの魚卵です。異世界管理部、システム管理1Gの部長さんに繋いでくれます?…………どうも、部長。ご無沙汰っす。……あぁ、ええ。……はい、そうです。例の障害の件。まずいことにですね……」
部長としばし会話し、対応を急ぐ旨を伝えた。とりあえず、上層部からの連絡があるまでは判断を保留して現場待機、との命令が下った。
「現場待機ね……参ったなあ」
遠目に聖女ちゃんが入った勇者くん(名前はセフィリア・ローズだっけか)を見つつ、この場で何もせずにジッとしているのは少々心苦しい。
せめて身柄だけでも、サトウタロウ君のように確保しておいてあげるべきかな……と思い、僕は彼女に近付いていくのだった。
◇
「ううう、なぜわたくしに次から次へと難題や女の子が寄ってくるのかしら……」
勇者の肉体に入った聖女の魂を持つ異世界転生者・セフィリアは精神的に参っていた。
何せ、昨日この肉体になっている事に気付いてからというもの、民衆からは『世界を救って下さい!』だの、道行く魔物には『お前が勇者かガハハ!こんな弱そうなヤツに俺様を倒せるわけがなかろう!』だの(因みに剣を一振りしたらあっさり倒せた)、『きゃあ!素敵、一瞬であの魔物を倒すなんて!』だの(こういう事がやたら多く、ついてくる女の子がどんどん増える)、周りの空気に従って適当に剣を振り回したりしているだけで目まぐるしく状況が変化していくのだ。
「勇者って、大変ですのね……」
はぁ、とため息をついている今この瞬間も、左右を女の子に取り囲まれている。
「勇者様、なんで女の子口調なの?せっかくカッコいいんだから普通にしていればいいのにー♥」
「そうそう、もっと勇者っぽく勇ましく喋って~♥」
頭痛がする。
そもそもわたくしは聖女として転生する、と神様にお告げを頂いていたはずなのです。
「わたくし?俺?ううん、わたしは、一体……」
またこれだ。先程から徐々に、自我がボンヤリして、自分が何者なのか分からなくなってきている。
と、その時だった。
「お嬢さ……勇者さん。ちょっと、僕の話を聞いてくれないですかね?」
「……どなた?」
いかにも胡散臭そうな男の方が、わたくしの目の前に現れたのでした。
『はい、こちら転生管理システムです!』4話です。
聖女ちゃんin勇者くんボディ側の対応。
なんか彼らの呼び方も統一したいっすね。
責任を負いきれないような対処法を取らざるを得ない障害が起きた時って困りますよね。
そういう時は、とにかく上司に連絡!責任を取るために上司ってのはいるんだ!(笑)
さて、ご都合主義展開に振り回され自我が崩壊しつつあるセフィリアちゃんは己を取り戻せるのか?
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