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02.魂がロックされており移動できません.xls

「うおー……めっちゃ久しぶり。HelloWorld(こんにちは、異世界)


 エンジニアお決まりの台詞を呟きつつ、仮想異世界エミュレータを通じて5年ぶりに自分が構築した異世界に降り立つ僕。

 懐かしさと共に、5年の間にこの世界がどう発展したのかについても興味が湧いてくるが、今はそんな感慨に耽っている場合ではない。


 自分がいた現実世界(というべきなのか微妙だが)と、こちらの異世界との時間の流れは異なる。

 こちらの世界では100年単位の出来事も、現実ではほんの数日という事もある。

 とはいえ、その時差は一定ではないし、この世界が手遅れになる前になるべく急がねば。


「さて、アラート・トレースログによるとこの世界に転生してきた勇者……の魂は、あっちか」


 まず探しに来たのは、勇者の魂。

 即ち、聖女の世界に間違えてその魂を降ろしてしまった彼である。


「ったく、相変わらずSouRein(ソウリン)DB(デービー)のログは見づれえ」


 僕は目の前に表示されたログの流れを追いながら、勇者の魂の所在と状況を把握していく。

 SouRein(ソウリン)DB(デービー)とはSoul Reincarnation Database<ソウル・リンカネーション・データベース>の略で、異世界転生者の魂を管理するためのデータベース製品である。

 魂データベースの更新に不備があり、管理対象の異世界に不具合が起きている状態だと、そのエラーは常にログに出力されてくる。

 今もひっきりなしに、アラート&トレースログが増大している。


「んがー、ストレージ容量大丈夫だろうな……DBの不具合も心配だけど、そっちのほうが不安だよ」


 ストレージとはいわゆるデータを格納するためのハコみたいなもんで、その容量がパンクすると、これまた別の障害として顧客にえらい怒られる。


「今時なら無制限クラウドストレージ使えばいいのに……これだからオンプレ異世界は……」


 ぶつぶつと文句を言いつつ、僕は捜索を続ける。


「お、あの街か……」


 どうやら、見えてきた。


「ある程度の座標はダイブの事前に調べておいたが、やはり直接ダイブしてみるまで詳細なディレクトリ構造は分からんな……」


 僕は探索(find)コマンドを実行する。


「ええと……勇者の魂だから……"find . -type brave -name ..."」


 探索(find)コマンドは異世界において人探しに使う必須技能である。

 地味だがこれを使いこなせるかどうかで、異世界探索の難易度は桁違いに変わってくる。


「あ、見つけた」


 パッとエミュレータの画面に勇者の名前や顔など、現在のパラメータを表示してくれる。


 Name : Taro Sato

 Sex : Female

 Age : 18

 Job : Saint

 Skill : Holy arrow

 ...


「マージで聖女に入っちゃってるなあ……融合率どんなもんよ」


 更に僕は分析(analysis)コマンドを実行。


「うわちゃー。融合率85%?もう殆ど肉体に溶け込みつつあるな……」


 僕は『これは一筋縄では行きそうにないな』と苦笑しつつも、何となくワクワクしてしまう自分が居ることもまた、事実であった。


 ◇


「一体何で俺が女の体に……それになんで街を追放されなきゃいけないんだ……?」


 勇者・サトウタロウは異世界転生者である。

 昨日トラックに轢かれて以下略。

 彼は夢の中で神様に『お主はこれから世界を救う勇者なのじゃ』と以下略。


「って言われたはずなのに……これ、なんか悪い夢でも見てるのか?」


 自分の口から発せられる高いトーンの声、柔らかく華奢な身体、全身から溢れてくる聖なるオーラ。


「どう考えても、これ、勇者じゃないよね?仮に性別反転系の転生だとしても、勇者ってこういう感じじゃないよね?」


 勇者、もとい、今は聖女のサトウタロウは困惑のあまりへたり込んでしまった。


「うう……お腹空いてきちゃった……とはいえ、手持ちのお金とかもなさそうだし、どうしたら良いんだろう、俺……」


 と、そこへ。


「やあ、君」


 片手を上げながら近づいてくる胡散臭いおっさんがいた。


「な、だ、誰……?」

「いや、怪しいもんじゃない。君の味方だよ」


 おっさんはにこやかな笑顔を崩さずに近づいてくるが、いや、どう見ても怪しい。

 そもそも、この異世界(中世ファンタジー風味)の中において、スーツ着てネクタイ締めて首からなんかネームプレートっぽいの下げてる人間がどこにいるんだよ。

 転生者であるサトウタロウをして、その風貌は異様に写った。

 だが。


「ん……その現代風の格好……あんたもまさか、て、転生者なのか?」

「いや、違うんだけれど」


 即否定された。


「正しくは異世界転生の管理者だよ」


 そしてまた、薬でもキメてんのか、という発言が飛び出してきたので、サトウタロウは全力で胡散臭いおっさんに疑念の目を向ける。


「僕の名前は魚卵正雪(うおたままさゆき)。苗字が呼びづらかったら名前のほうでマサユキって呼んでくれて良いんだよ。君の魂を在るべき所へ還しに来たんだ」

「俺の……魂……を?」


 ◇


 僕は見つけた異世界転生者、勇者あらため聖女のサトウタロウ君に説得を試みた。

 混乱する気持ちはわかるが、本人だって事前説明と違う転生になっている事は重々承知しているはず。

 冷静に、穏やかに話せば、理解してもらえるだろう。

 そう踏んで説明をしたのだが、


「う……嘘だ、そんな事を言って俺……私をどこかに売り飛ばそうと言うのですね?もう、何も信じられない……街からは追放され、私に行く所はないのだわ……しくしく」


 と、まずいことに魂と肉体の融合が進み始めて、『役割(ロール)』に染まり始めていた。


(うわぁ、こうなると厄介なんだよな……)


 役割(ロール)とは、異世界転生者が入る肉体、即ち器に準備されている、文字通りの役割である。

 特定の役割(ロール)を付与された異世界転生者は、その役割(ロール)に合わせて振る舞いを変えていく。

 いわゆる『精神は肉体の奴隷』、の理屈である。

 分析(analysis)コマンドの表示結果で融合率85%の数値を見たときから嫌な予感はしていたが、バッチリ的中した感じだ。


「あ、あのねサトウタロウ君。君の本来の役割は、チート能力を有した勇者となって魔王を討伐したりハーレムを作ったりすることであって、街を追放された聖女が実はその力で街を守ってたって感じのアレコレじゃあないんだけれど」


 と、自分でも言ってて馬鹿馬鹿しくなるような説明を彼にしてみるが、どうやら聞く耳を持たない様子である。


「参ったなぁ……あんまり手荒な真似はしたくないんだけどな」


 こうなったらやむを得まい。


 僕は移動(move)コマンドを試みる。

 対象の肉体から、強引に魂を切り離して、移動させるためのコマンドだ。

 彼の魂を一時的に保管するための小型ストレージも、今回はちゃんと事前準備しておいた。

 僕がコマンドを実行した途端、サトウタロウ君の肉体が強く発光し、魂が顕になった。


「きゃっ……!?」

「おっ、いけるか……!?」


 魂は徐々に肉体から離れ、よし、もう少しで小型ストレージへ移動できる……と思った瞬間だった。


 バチン!と強い拒絶の音が鳴り、僕の目の前にはエラーの表示が出ていた。


<魂がロックされていて移動できません。 戻り値 : 1>


「うわちゃー……」


 それは散々、過去に見た初歩的なエラーメッセージではあるが、何度見ても心を抉る文言であった。

『はい、こちら転生管理システムです!』2話です。

魚卵さん異世界に降り立つの巻。


DBの知識とか、コマンドの知識とか、その他専門用語的なのは出来るだけきちんと説明していくつもりですが、元ネタが分かる人は『おっL●nuxでOr●cleか?』とかそういう視点で楽しんで頂ければと思います(笑)


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面白かったので続きが読みたい!という方は


評価で★★★★★をお願いします。


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