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01.重大な障害が発生しました!.xls

 いつものように出社すると、その日は朝っぱらから大わらわだった。


「ういーっす。……何、なんかバタバタしてない?」


 誰が見ても修羅場状態って感じの慌てっぷりで、部屋に入った瞬間、ひっきりなしにかかってくる電話とPCの打鍵音で、まだ半分ボケーっとした頭が覚醒されていくのを感じる。


 僕は転生管理システムのシステム管理第7グループ、通称『シス管7G(しすかんななじー)』の担当リーダー、魚卵(うおたま)正雪(まさゆき)という。

 うおたまさん、ってのが微妙に呼びづらいからって、周りのみんなからは専ら魚卵(ぎょらん)さんとか、ヒデー奴はそれを発展させてイクラさんとかカズノコさんって呼びやがるんだが、まあそれはどうでも良い(つーかその辺の海鮮系のあだ名は色々アレだから止めろと言っている)。


 ビルの階下にあるコンビニで買ってきたコーヒーを啜りつつ、僕は手近なところにいたシス管7Gのメンバーに事情を聞いてみた。


「どしたん。なんかあったの」

「あっ、ギョラさん。いや、マジで大変なんすよ!見てくださいってこのメール!!」

「あだ名を発展させんじゃねえっつってんだろ……。で、何これ」

「魂データベースの更新に不備があったとかで、今度転生予定の勇者1名と聖女1名が、入れ替わってしまったそうです!」

「……はぁ?」


 前代未聞の障害発生に頭が真っ白になる僕。


「えーと……じゃあその、過去事例をまず障害管理システムから」

「もうやりました!過去にそんな事例ありませんでしたし、対処法ゴグってもなんもヒットしないんすよ!ああ、これだから昨今のミームと広告に汚染されたゴーグル検索は役に立たないんだ!!」


 イライラしながら調査、電話対応、障害発生から収束までのシナリオを考えるメンバー達を前に、僕は思うのだった。


「か、帰りたい……」


 ◇


 時を同じくして、こちらは異世界である。


「あれ?俺またなんかやっちゃいました?」


 異世界に転生してきた勇者が、己のチートっぷりを自覚せずに凄い事をした時のテンプレートな台詞をのたまうが、周りの反応は微妙だ。


「お、おい……なんであの聖女、男口調になってんだ……?」

「ていうか、なんか若干ウザくね?追放しよ」

「聖女様こわいー!」


 それはそうだろう。

 だって本来、彼が入るべき器はここではないのだから。


「……なんか、変だな。うん?てか、俺の体、なんで女に?」


 ◇


 そしてまた、別の異世界。


「わたくし、もうこの国には不必要な存在ですのね……」


 国を追放される聖女にありがちな寂しげな台詞を言った途端、周りから嘆きの声が。


「そ、そんな!勇者様、どうかこの国をお救い下さい!」

「なぜ女口調なのですか!?」

「勇者様きもちわるーい!」


 当然である。

 だって本来、彼女が入るべき器はここではないのだから。


「……何か、変ですわね。というか、わたくし、どうして男性の方の体に?」


 ◇


「もしかして……」

「わたくし……」

「「(どっか別の人の身体と)入れ替わってる~~~!?」」


 ◇


「そもそもこれ、シス管7G(うち)の管轄なの?魂データベースの転生先の更新、運用部署の仕事じゃん」


僕がそもそも論を持ち出すと、シス管7Gメンバーの1人、先程から話している彼は反駁する。


「んなこと朝から100億回は運用のバカ共に言いました!!でもあいつら、決められた手順しか出来ないし!!マジでクソの役にも立たないんで、結局いつもみたいにウチにお鉢が回って来たんすよ!!」


 あー。

 良くある話である。

 運用部署、特に決められたオペレーションしかしない転生管理エンジニアは、こういうトラブルが起きた時、基本的に何もできないんだよな……。


「んじゃまあ、とりあえず転生先の魂をひっぺがして、データ更新やり直せばいんじゃないの」

「そんな簡単に行かないの分かって言ってるでしょギョラさん」

「ギョラさんはやめろっつの」


 魂データベースの更新というのはそうそう簡単にできない。

 一度確定したデータを復旧させるには、然るべき手順を踏む必要があるのだ。


「これはサポート問い合わせ案件だなあ」


 僕はそれでも冷静に対応する。


「サポート回答、いっつも遅いんですけど大丈夫ですかね……。このままだと、勇者の世界も聖女の世界も混乱したまま何日も過ごして、最悪の場合【ワールドリセット】有り得ますよ……」


 ワールドリセット。

 その単語を聞いた瞬間、胃が痛くなる。


「そ、それやるとマジで重大障害だから勘弁して欲しいな。顧客になんて説明したら良いか分かんなくなるし……」


 と、そこで僕は覚悟を決めた。


「分かった分かった。サポートリクエストはお前立てといて。俺、直接ダイブしてくっから」

「え!?ギョラさんマジでダイブする気っすか!?稼働中の本番環境っすよ!?」


 ザワつく彼に僕はニヤリと笑う。


「本番環境ダイブ申請出すよ。大急ぎでね。運用部署に掛け合ってくる」

「うわぁ……そりゃあギョラさんが本番環境に入って対処すれば、ずっとスムーズかもですけど」


 それにシス管7Gの管轄じゃあないってさっき…、と彼が言いかけた所で、俺は言う。


「ま、一番大事なのは転生する彼らの人生と、顧客からのクレームが来ねえことだよ。

 その為なら面倒くせえ申請も出すし、5年ぶりに()()()()()()()にダイブするのも吝かじゃないよ」


 僕はそう言って、申請書の準備を始めるのだった。


「えーと……本番環境ダイブ申請どこだっけ、テンプレ」

「ファイルサーバの……構築時のフォルダじゃないっすかね」


 サポートへの文面を書きつつ、彼は答えた。


「あったあった。んじゃ、緊急対応のため、魚卵正雪1名、本番環境へのダイブ許可願います……っと」


 ダイブ申請ファイルに手早く記入して、メールで添付してから、内線電話をかける。


「……ああ、俺。うん、これから例の障害起きてる本番環境ダイブすっから、準備しといて」


 僕はそれだけ言うと、異世界管理室(ワールドルーム)へ向かう。

 そして、懐かしの異世界へダイブする事に、少しだけ高揚感を覚える自分に気付くのだった。

というわけでなろう投稿8作目、『はい、こちら転生管理システムです!』。


異世界転生モノ…というにはかなり変則的な形で勇者と聖女が出てきますが、まぁ彼らは今の所モブです(笑)

この話のメインは、そんな異世界を『管理する側』の人達です。

ぶっちゃけると、自分のIT業界における経験談を、ほとんどエッセイも同然のレベルでぶっこんでいます。当然色々フィルターはしていますが。

インフラエンジニアやってる人は多分分かると思うんですけど、DBの更新が失敗した時の慌てっぷりって(環境にもよるけど)かなりのもんなんすよね……。

さてさて、そんなDB……もとい、異世界の魂を果たして彼らはきちんと戻せるのか。

魚卵さんは顧客(誰なんでしょうね)に申し開きせずに済むのか!?

お楽しみに!


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面白かったので続きが読みたい!という方は


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