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 老人「そもそも、君は忘れていまいか?」


 青年「なにを?」


 老人「国の借金(もっとも、借金ではなく貨幣発行なんだがな…)というなら、その反対の資産もみなくてはなるまい」


 青年「それは、たしかに、そうだ…」


 老人「名実ともに、『日本の対外純資産は世界一』だ…つまり、日本は借金大国どころか、世界一のお金持ち国家というわけだ」

 

 挿絵(By みてみん)


 青年「それでいうと、世界一の対外純負債が多い国はアメリカじゃないか!」


 老人「そうだとも」


 青年「であれば、そのうち、アメリカは財政破綻デフォルトするのか?」


 老人「いや、アメリカもしない…むろん、日本も財政破綻デフォルトしない」


 青年「アメリカ国債が自国通貨ドル建てだからか…」


 老人「その通り、なんたって、自国通貨建ての国債はデフォルトしないと、かの財務省が認めておるんじゃからな…


 挿絵(By みてみん)


 …アメリカは世界の基軸通貨ドルを自国通貨とする、世界最強国だ…だからこそ『超大国』なわけだ…アメリカはほしいものがあれば、自国通貨ドル発行クリエーションすれば、なんでも調達できてしまうわけだ」


 青年「いや、その論理は逆だ!アメリカが財政破綻デフォルトしないのは、『超大国』ゆえの信用があるからだろ?…日本の円なんて、世界の決済手段(おカネ)として通用していないじゃないか!…アメリカと日本を、同列で語るには無理があるはずだ!」


 老人「しかし、日本円は、日本国内ではおカネとして信用されている…おカネを支える国民経済も強固で十分な供給能力をもっている…」


 青年「経済がしっかりしていれば、『通貨の信用』は問題にならないのか?」


 老人「そもそも、君がいう『通貨の信用』とはいったいなんだ?…テレビの受け売りで、君自身は定義したことがあるのか?」


 青年「・・・」


 老人「さきほども言った通り、自国通貨建ての国債は日本円という貨幣発行だ…返済しなくて当たり前なんだ…返済したら、この国から君が使っているおカネがなくなってしまうからな…どうじゃ、わしの話しにオカシイところはあるか?」


 青年「オカシイところがあるか…だと!?」


 そういうと、いきなり、青年はソファーを蹴飛ばして立ち上がった。


 青年「じゃあ、いったいなんなんだ!…『国の借金1100兆円』とか、『国民1人当たり900万円の借金』とか、『国の借金時計』というのを放送しているじゃないか!?…まさか、ここまで国民のあいだで広まっていて、まちがいだったなんて言うのか?」


 老人「まちがいどころか、それはウソだ!」


 青年「ウソ!?」


 老人「ウソどころか、財務省と御用学者の『政治的宣伝活動プロパガンダ』といってもいい」


 青年「プロパガンダだと!…国民主権の民主主義国家で、そんなことが許されるのか!?…『国の借金』を信じている多くの日本国民はどうなる!」


 老人「それはわかっとる…」


 青年「いや、お前はまったく分かってない!やっぱり、お前は偽善者気取りの悪徳政治家だ!…『国の借金』なんて言葉を信じて、将来を悲観している若い人がどれだけいることか!どうする、それで人生を棒に振ったらどうするんだ!?…コロナで倒産して自殺に追い込まれた者…失業して食うぬ食えず路頭に迷う若者たち…不安とストレスで虐待される子どもたち…すべて、お前たちのウソによって踏みにじめられた者たちさ!…お前に分かるか!明日、食えぬ不安で、3食モヤシをかじる学生の気持ちが分かるか?…いっそ、俺のことも殺人ウイルスで殺してくれればいい!…貧困と絶望のなかにとり残された若者たちの方が、圧倒的に不幸さ!…はは!俺みたいな下等市民に、お前たちは、お気に入りで、お決まりの文句をいうだろう…『自己責任』!ってな!『自分で解決しなさい』ってな!…上等じゃねえか!いまにみてろ!いまにみてろよ!いつか、虐げられた者どもの復讐のときがおとずれる…それまで、俺は生き延びてやる…なにがなんでも生き延びてやる…いつかそのときがくる…必ずな!」


 老人「・・・」

 

 青年「お前がやってきたことは、確実に悪だ!…だがな、俺はキライじゃないんだ…悪ってのがな…俺はお前を追い出すどころか、殺す気でいた!殺して、刑務所にぶち込まれてみたかったのさ!…だが、やめた!…殺しなんて悪事じゃ、俺の絶望は報われない…」


 そういったときの、青年の顔を、老人は死に際まで、ずっと忘れられなかった…


 胸が張り裂けそなほど哀しく、彫刻のように冷たかった…


 いつの間にか雨音は止んで、大きな古時計の時をうつ音だけが部屋に響いていた。


 青年「・・・」


 老人「・・・」


 青年「俺はお前をユルサナイ…」


 老人が顔を上げることはなかった。


 ふりしきる猛烈な雨の中、青年は事務所を出て行った。

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