3
老人「君がいっている『国の借金』は借金ではないんだ」
青年「言い訳はよせ!」
慣れた様子で、老人は言葉を返した。
老人「よかろう…では、質問に答えてくれ。なに簡単な質問だ」
青年「・・・」
老人「さて…君にとっておカネをもらったら『得』か…それとも『損』か?」
青年「もちろん、カネをもらえば『得』に決まってるだろ…」
老人「じゃあ、『得』ってことは、君の『資産』になるってことだ」
青年「まあ、そうだろうな…カネをもらって『負債』になるやつはいない」
老人「その通りだ!君はもう答えをいった」
青年「は!?…」
老人「『負債』になるやつはいないってな…」
青年「なにをいってるんだ?」
老人「冷静に考えてみたまえ」
青年「・・・」
老人「ほんとうに、おカネは、誰の『負債で』もないのかね?」
青年「当たり前だろ!カネは誰にとっても『資産』じゃないのか!?」
老人「よかろう…君は簿記を勉強した事はあるか?」
青年「3級なら大学で習った」
老人「じゃあ、簿記を思い出してほしい」
青年「・・・」
老人「貸借対照表で、『資産』の反対側には、かならずなにがあった?」
青年「『負債』だ…」
老人「そう、貸借対照表で『資産』の反対側には、同額の『負債』があったはずだ」
青年「まあな」
老人「たとえば、君が銀行から100万円借りたとしよう…その100万円は、君にとって『資産』か『負債』か、どちらだね?」
青年「それは『資産』になる…」
老人「じゃあ、銀行にとって貸した100万円は?」
青年「『負債』だろう…」
老人「そうだ、いま、君はいまおカネの本質にたどり着いた」
青年「・・・」
老人「おカネとは君にとって『資産』ではあるが、おカネを貸している方にとっては『負債』なんだ」
青年「・・・」
老人「このことは、おカネがだれかの『負債』として生み出される…という事実を表しているとはいえないか?」
青年は、机の一点を凝視したまま、動かなかった。