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青年「むかし、お前は政治家だった…」
老人「いかにも…もう引退しておるがな…」
青年「引退した世代というのが重要だ…お前の世代がこの日本をめちゃくちゃにしたからな…そのくせ、この町では、お前は人士ということで、英雄扱いだ!」
老人「・・・」
青年「恥ずかしくないのか?…お前たちが政治でやってきたことは悪だ!」
老人「たとえば、なにが悪なんだ?」
青年「この20年、日本の経済成長はどうだった?」
老人「まあ、成長はしてないな…」
青年「そうだ!お前は日本を貧困化させた」
老人「たしかに、日本は経済大国とは言えなくなってきておる」
青年「そうだ、お前たちの悪政のせいだ!」
老人「まあ成長してないことは失政と認めよう」
青年「認めるんだな!じゃあ、このまま町から出ていくんだ」
老人「それはまだ早い。君と話しをつくしてからだ…それに、なんで君がそんなに怒っているのか知りたい」
青年「いいだろう、よく聞け!…俺の親父はお前に殺されたんだ!」
老人「わしが?」
青年「そうだ!お前ら老人のせいだ!」
老人「・・・」
青年「俺は大学生だった!…だがな、この4月に親父が失業した…学費も、家賃も、食費さえ払えなくなった!退学さ!かわりに、働こうとした…だが、みろ!このざまだ!勤め先は1ヶ月で倒産した!」
老人「・・・」
青年「そして、先週だ…親父が自殺したのはな…それも、ご苦労なことだ!多額の借金を残してな!」
老人「・・・」
青年「俺がなにをした!…俺はこれまで家のため高校生からずっと働いてきた!俺が少しでも努力を怠ったと思うか!?」
老人「いや、君は十分、努力してきておる…」
青年「努力してもむくわれない!なのに、生まれてこの方、なんでも行き着く先は『自己責任論』だ!…俺はこれまで、嫌というほど、責任をもって努力してきたつもりだがな!」
老人「そうだろう…」
青年「これが、お前のつくりあげた日本の惨状だ!若者が苦しむ国!弱いものが見下され、虐げれる国!圧倒的な格差!…どこが美しい国だ、そんなものどこにある?…オールジャパンだと、ふざけんな!だったら、俺と同等の不幸を日本人全員に負わせろ!それでこそ、平等ってやつじゃないか!え、なんで俺だけ不自由なんだ!俺はコロナなぞどうでもいい!死ぬのはお前ら年寄だけだ、それも当然の報いだろ!」
老人「・・・」
青年「給付金とやらはいつ届くんだ?マスクが先か、カネが先か?…ふざげんな、死ぬのが先だ!10万ポッチ一回かぎりでなにしろってんだ!ケツを拭いて終わりだ!…どうした?…お得意の弁舌をやってみろよ!釈明してみろ!…だが、できまい!お前たちが、この国を借金漬けにして、もうなにもできなくしまったからな!」
老人「日本が借金漬け?」
青年「そうだ、1100兆円の国の借金だ!」
老人「それは誤解だ!」
青年「なにをいっている!お前らがつくりあげた巨額の借金のせいで、なにも経済対策できないじゃないか?…やる事は借金返済のための増税ばかりだ!」
老人「それは借金ではない!」
青年「ウソをつくな!1100兆円の借金のせいで、俺たち若者の未来はお先真っ暗さ!ずっと、重税で死ぬまでこき使われる身だ…そのうち定年撤廃だ、下等市民は80歳で便所掃除の時代さ…俺たち劣等市民は便所が墓場さ!」
老人「少し冷静になりたまえ…」
青年「冷静になれだと?…こっちはな、生まれた瞬間から、『一人当たり900万円の借金』と言われて、さんざんこき使われてきたんだ!ふざけんじゃねえ!お前などくたばれ!」
老人「な…!」
青年「ぜんぶ、お前のせいだからな!」
すると、老人は、もうれつな早さで立ち上がった。
そして、いきなり、ドアを開け放った。
凄まじい勢いで、雨風が吹き込んできた。
見る間に、老人は、ずぶ濡れになった。
青年「なにをしている!」
あわてて、青年がドアを閉めた。
老人「これでわしもズタボロだ…君ほどの不幸とも言えまいが、どうだ、身体的には、君とわしは同等となった…さあ、黙って座ってくれ…わしは君とトコトン話しがしたいんだ」
そう言う、老人のくちびるは青ざめていた。
青年「・・・」
黙ったまま、青年は、その対面に座り直した。