1、新たな任務
お久しぶりです。
2023年6月2日に『軍人少女〜』4巻が発売となりました!
詳細はあとがきにて!
「グラノーリ――いや、オーファン大佐。頼む。冒険者として聖女の旅を援護してほしい」
シアン皇国軍、参謀本部にある一室で。
法衣をまとう黒髪の美形な聖職者様から、それは告げられた。
頭の中で様々な情報が一気に駆け巡ったあと、ラゼの顔から表情が抜け落ちる。
「…………ハ、イ?」
言われた内容と他の誰でもない彼が直接ここに来たというわずかな状況から、とても嫌な予感がする点と点が線で結ばれて、ラゼの口からは疑問と不安、驚愕が混ざった声が溢れてしまう。
「ま、まさか……。その聖女って……」
そうであって欲しくない――。
ひとつ答えは出ていたが、彼女は否定する言葉が聞きたくて恐る恐る言葉を紡ぐ。
「お前も薄々気が付いていただろう。そのまさかだ。――フォリアが、魔性ウイルスの被害が酷い現場に聖女として赴くことになった」
しかし、その望みはあえなく散った。
浄化魔法の使い手である親友が、危険地帯へと自ら赴くことになっている。
とんでもない話を聞かされて、ラゼは言葉を失った。
――ただ。
「…………モルディール卿でも、止められなかった……ということですか……」
ショックは大きかったが、目の前に座っている男の方が酷い顔色をしているものだから、彼女は情報を無理やり飲み込んだ。
フォリアのためだけにセントリオール皇立魔法学園の礼拝堂に勤務し、フォリアが卒業すると呆気なく辞めたゼール・イレ・モルディール枢機卿がこれなのだ。
一体、どうして彼を責めることができよう。
「……そうだ。フォリアも自分にしかできないのであれば、絶対に行くと言って聞かない……」
「……なる、ほど……」
段々と事の全容がわかってきて、ラゼは脳裏にフォリアの姿を思い浮かべる。
正義感と慈愛に満ちた彼女なら、たとえ命の危険が伴ってもその仕事を全うするはずだろう。
フォリアが聖女として旅に出るのは決定事項。
それはもう変えられないのだと、ラゼは理解した。
(……やっぱりこうなっちゃうのか……)
現在、ここではないもうひとつの大陸バルーダから、生物が凶暴化するウイルスが渡って来ている。
数年前まで乙女ゲームの世界だなんだと言っていたのに、今度は生物災害が始まってしまったという訳だ。
マジェンダ帝国が先の戦争で、バルーダの魔物を兵器化したという情報はすでに全土に広まっていた。
人が住む大陸オルディアナに魔物を入れるという禁忌を犯してくれたせいで、シアン皇国の領土的には被害があまりなかったが、戦後処理は一年経った今も忙しなく続いている。
魔物化した害獣が増殖し、それに襲われた人間が魔物化するという事件が日に日に数を増しているのだ。
被害を防ぐために人々にはワクチンの接種が推奨されたが、魔物は穢れだとする星教の敬虔な信者にはなかなか届いていない。
皇上ガイアスや、今、ラゼの目の前にいる枢機卿たちが自ら接種して民衆にも呼びかけてくれたが、予想した通り、一部ではこれまで黙ってバルーダに渡っていた軍人たちに対する忌避の目が生まれ、ちょっとしたいざこざも起こっている最中である。
「……聖女の巡察。言い出したのは、教会側ですよね……?」
「そうだ。フォリアの能力については無論隠していたんだが、学園祭のことがあったからな」
まだ自分が学生だった時の事件が彼の口から告げられて、ラゼは懐かしさと同時に、ほろ苦い感覚を思い出す。
――未だに、ゼルヒデを殺そうとした自分に向けられた、フォリアの表情が忘れられずにいた。
「すみません……。私があの時、もっと上手く対処しておけば」
「いや。情報を制御できなかった俺の落ち度でもある。どこかの狸が目敏く嗅ぎつけて来たせいだ」
「……教会も色々あるんですね……」
ゼールが苦虫を噛み潰したような面持ちで言うので、ラゼは心中を察した。
秘密主義な教会の内情は、貴族間の派閥争いよりも複雑だ。
信仰だけで寄付金を集めることができる機関なので、身内でも色々とあるらしい。金が絡むと争いが生まれるのは、この世の理か……。
次期教皇の座を狙って影で動く者もいて、そこに貴族の後ろ盾が加わったりすると、関係図はカオスである。
単純な貴族のマウント合戦よりも、巻き込まれたくない蜘蛛の巣だ。
「正直、フォリアひとりでどうにかなるとも思えないんですが、彼女に背負わせる真意はどこにあるんですか……?」
魔物化の被害を抑えるために、軍人たちが対処を行なっている。魔物化してしまった人間は殺さずに、鎮静剤を打ち込んで療養所に搬送。あとは治療法が見つかるまで、ただ時を待つのみ。
とはいえ、特効薬の聖女ひとりが投入されたからと言って、この騒ぎが簡単に治るとは到底思えない。
「全ては星の導きだ――と答えるべきだが、お前に御託は必要ないな」
ゼールは腕を組むと、静かに語り出す。
「今回、フォリアが聖女として赴くことになるのはどこになると思う?」
「被害が大きいと言うと、南の国境あたりでしょうか」
「そこも勿論含まれている。だが、メインはそこじゃない」
段々と話が進んで行くが、ラゼは嫌な感覚しかない。
最も被害が出ている場所は、他にもある。
しかし、それはこの国の範囲内ではない……。
「――も、もしかして」
「流石、察しが早い」
そして、彼女はいとも簡単に、その可能性に辿り着いてしまった。
ラゼの顔色を見て、ゼールは肩をすくめる。
「フォリアが行くのは国境を越えた先。――マジェンダ共和国だ」
そこは、かつての敵国の地。
名を改め「マジェンダ共和国」となったのは、クーデター。いや、市民も共に声を上げて革命を果たした旧マジェンダ帝国である。
愚帝の圧政から解放されたマジェンダ共和国は、新たな道を歩み出したばかり。
まだ内情が安定しない隣の国に、誰も太刀打ちできない災いを払うため、特別な治癒の力を持つ娘が救済の旅をする――。
心優しい彼女の姿は傷跡の残る共和国の民に、どう映るだろう。
それはきっと、まさしく聖女なのではないか――?
(フォリアだけに、大変な思いはさせないよ)
初めてできた友の顔が脳裏に浮かんだ。
答えなんて、あのゼールが自分を頼って来た時から決まっている。
鳶色の瞳は、真っ直ぐに前を向いていた。
◆◇◆
第二部
『軍人少女、聖女一行を護衛することになりました。
〜勇者に魔王? 聖女は親友!? そんなの聞いてませんけど?〜』
◆◇◆
『軍人少女〜』第4巻が6月2日に発売となりました!
ひとえに読者の皆様の応援のおかげです。
本当にいつもありがとうございます。
部下たちの姿や、ラゼの更なる活躍をご覧になりたい方は、是非書籍もよろしくお願いします。
特典も、たくさんございますのでお見逃しなく!
Twitterにてお知らせしておりますが、
ヒバリヤ書店さんでタムラ先生の豪華イラストが施されたサイン本の抽選を
【6月2日11:00 から 6月3日11:59まで】
で、応募されていますので、受け取りにご無理がない方は是非ご参加くださいませ!
(※注意事項は必読です)
また、コミカライズ【最終2巻】が、6月27日に発売予定です。
未熟者の拙作を拾って担当してくださった関係者の皆様には、感謝しかございません。
こちらも、重ねてよろしくお願いします。
……そして、
『軍人少女〜』第二部を開始いたしますことを、ご報告いたします。
亀の歩みより遅いかもしれない更新になることが予想されてしまうのですが、暇つぶしにでも読んでやってください。
【第二部を読む時のお願い】
・小説版4巻分の情報から物語が展開します。
・小説を読んでいなくてもお楽しみいただけるようには心掛けますが、細かい設定のところが第一部とは変更となっていますので、ご了承くださいませ…。
・完結保証はありません。第一部で満足いただけた方は、スルーしてください。(ぽんこつ作者が書きたいから勝手に書いてるだけです。出版とは関係ありません)
それでは、これからも『軍人少女〜』を
何卒よろしくお願いします!
冬瀬




