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番外編・黒傷

ご無沙汰しております。

コミック「軍人少女」の第1巻が発売となりました!!発売記念のお話です。

(この回だけ、字下げ処理しててすみません)


「代表!! オレ、飽きましたー!!」

「おい。ハルル」


 そこは魔物の大陸バルーダ。

 色々と仕事を任されるので曖昧になりがちだが、ラゼの所属は魔物討伐部。本業はせっせと魔物を倒して魔石の採取だ。

 ただ。今はいつもと違って彼女たちが相対するは、凶暴な化け物ではなく、植物で。

 

「植物性の魔石が見つかってから、細かい作業が増えちゃったからなぁ。飽きるのもわかる」


 ラゼはハルルの訴えに苦笑した。

 根っこを傷つけないように、土ごと掘り起こして丁寧にサンプルとして持って帰る。それが今日の仕事だ。

 今まで魔石は魔物と呼ばれる動物の額から採取していた。しかし、ラゼが友人の卒業式に特別な花を贈ろうとした時の産物で、植物の蜜が固まってできた個体を見つけた。新しいタイプの魔石を研究するために、こうしてサンプル集めに駆り出されている。


(今まで無害そうな植物にはあまり注目してなかったから……)


 たまに食肉植物もいるが、部隊きっての戦闘狂いであるハルルが地道な採取に飽きるのはまあ、理解できる。

 しゃがみ込んで作業していたラゼは立ち上がった。


「結構集まったし、そろそろ戻ろうか」

「よっしゃ!!」


 ハルルは地味な作業から解放されて、拳を握る。







「それはあっちに。あ、その花が咲いてるやつはこっちだ。――ん? 戻ったか」


 拠点に戻った彼女が向かった先は研究室……というより、植物園。採取した植物を搬入する。

 ガラス張りの広い部屋で、白衣を着た男性が早速集まったサンプルを分類しているところだった。


「ご希望通り色々と種類を集めて来ましたが、どうですか。ディーティエ先生」


 ナイジェル・ミラ・ディーティエ。専門は植物学。学園時代お世話になった恩師だ。彼は現在セントリオール皇立魔法学園から異動して、バルーダで研究をしている。


「ばっちりだ。また当分は普通の魔物退治に戻っていいぞー。おれはしばらくこもる。あ、珍しそうなやつがあったら、それは随時な?」

「……はい」


 水を得た魚のように毎日楽しそうに研究しているディーティエに、ラゼはなんとも言えない顔で笑う。


「そういえば、もう彼女には会ったのか? おれのところにも挨拶来てたけど」


 丁度思い出したと、ディーティエはラゼに向き直る。


「彼女……?」


 覚えのない話に、ラゼは首を傾げた。

 ここまでやってくる女性の知り合いは、そんなにいない。

 隣で控えている副官のクロスを見上げてみるが、彼も心当たりはなさそうだ。


「ヨル教授ですか?」


 戻って来たばかりで少し休みたい。「白衣を着た悪魔」と呼ばれる彼女と今から鉢合わせるのは、申し訳ないがご遠慮しておきたいな〜というのが本音。


「いや。お前の友人だよ」

「?」


 しかし、当ててみろと言わんばかりに、答えを引き伸ばされてラゼは疑問符を浮かべる。


「ま。すぐわかるさ。ご苦労さん」

「……そうですか……」


 釈然としないまま、ラゼは仲間と共に運搬作業を手伝った。

 それからほんの少しすると、研究室の扉の方から鈴の音のような声が響く――。


「ラゼちゃーん!!」

「えっ」


 驚いて振り返ると、満面の笑みで走り寄ってくる天使がひとり。

  

「フォ、フォリア? どうしてここに?」


 予想外の人物が登場して、ラゼは丸く目を見開いた。


「驚いた? 今日は浄化魔法の関係で、こっちに来てたんだ」

「し、知らなかった……」


 まさかこんな場所でフォリアに会うとは思うまい。

 ラゼは心底驚いた様子で彼女を見つめた。


「元気だった? 1ヶ月ぶりくらいかな?」

「そうだね。カーナ様と三人でご飯食べた以来だ」


 フォリアとカーナが学園を卒業してから数ヶ月。新生活が落ち着いた頃、ふたりとは数回会ってご飯を食べたり遊んだりしている。

 ラゼは学園生活で学んだことを活かして、うまく休みを取れるように手配できるようになっていた。三年前までは、友達がいなかったこともあり遊ぶ時間はなかったが、今では友人と会う時間ができて充実していた。


「もうちょっとで帰る時間だったから、会えてよかったよ! ついさっきまで浄化魔法を魔物に使ったらどうなるかっていうので、ちょっと実験してたんだ〜」


 フォリアは上機嫌に語る。

 どうやらわざわざ自分に会いに来てくれたらしいと知って、ラゼも表情が緩む。


「魔物、怖くなかった?」

「うん。何だか耐性ができたみたい。人にとっては絶対に危険な種だと思ったら、やらなきゃいけない!って感じで、ビシバシ実験こなしたよ!」


 フォリアは自慢気で、あまり無理はしていないみたいだ。後でその実験についての結果は確認しておこうと、ラゼは頭にメモを取る。


「それはすごいや。わざわざこっちまで来てくれてありがとうね」

「わたししか、浄化魔法の使い手は見つかってないみたいだから、役に立てて嬉しいよ」


 相変わらず、心が優しくて芯の強い友だ。

 変わりないようで、どこかホッとする自分がいる。


「ところで、ラゼちゃん」


 そう考えていたところで、話の流れが変わった。

 フォリアはにっこり笑って、ラゼと距離を詰める。


「今日こそ治そうね? 黒傷」


 ふふふ、と。天使には珍しい黒い微笑を湛える彼女にラゼは一歩後ずさった。


「あ、えっと……。そういえば私、この後、仕事があるので……」


 くるりと踵を返し、彼女は逃亡を図る。

 退学した後、手紙のやりとりや、時間が取れる時にはまた実際に会っていたが、その度に「黒傷はわたしがちゃんと治すからね!」と言われていた。

 それをラゼはあの手この手で、スルーしていて。


「すみません、代表……」

「た、大尉??」


 今回もうやむやにしたまま、逃げようと思ったところ、ラゼは副官に退路を阻まれ、たじろぐ。

 バルーダから元の大陸に戻る時は、個人の転移魔法は使用禁止。外に逃げるのも手だが、そこまでするような内容でも……。

 立ち止まっている間に、背後から肩に手が乗った。


「ラ・ゼ・ちゃ・ん?」


 一音一音に圧を込めて、ラゼの名が告げられる。

 完全に捕まった。

 ラゼはついに観念して、後ろを振り返る。


「黒傷の人体への影響はまだ解明されてないところもあるけど、大量にその傷を体に浴びると魔物化しちゃうことはわかってるよね。確実に取り除いた方が安全です」


 正論を叩き込まれ、ぐうの音も出ない。

 まさしく、聞き分けの悪い患者を諭す、医療従事者からのお言葉だった。

 それでも無理やり治すことはせず、ちゃんと自分が受け入れることを待ってくれるフォリアは優しい。

 ラゼは参ったな、と頭を掻いた。


「なーに話してるんスカ?」


 何か気まずくなった雰囲気を感じ取ったのか。

 それとも運搬の仕事が面倒で、サボろうとしたからか。

 ふたりの間に漂う沈黙を、ひょっこり現れたハルルが破る。


「……代表。あの黒傷、まだ治してなかったんですね。てっきりもう治癒されたのかと思ってました」


 彼に便乗するような流れで、そばに控えていたクロスも口を開いた。


「…………あの時の……」


 それで何の話をしていたのかわかったのだろう。

 ハルルの口から、ぽろりと声が溢れる。

 ラゼはハッとして言葉を探した。


「な、治さないとダメかな……? 黒傷がある軍人の方が身体能力が上がるから、その……」

「フェデリック教授ともお話ししたんだけど、リスクのあるドーピングみたいなものだから治したほうがいいって。能力は魔石で補えるから、黒傷は治すべし!」

「ヨル教授が……?」

「うん。それに傷を治しても、耐性がつくみたいに経験値が身体に残ってるみたいだって」

「へぇ……」


 ラゼは考え込んでしまう。


「代表」


 そしてハルルの真剣な声が、彼女を呼んだ。


「もしかして、まだあの時のこと、気にしてるんですか」

「……」


 沈黙しては、肯定と同じだ。

 ラゼはちょっと諦め気味に、目を泳がせた。


「……何かあったんですか?」


 意味深な会話で、フォリアが説明を求めるようにハルルを見返す。

 それを見て、ラゼはゆるくため息を付いてから、自ら話し出した。

 

「私のチャームについてる、黒い魔石。お腹の傷はその持ち主につけられたものなんだけど……。かなり強い魔物でね。隊長を任されてから、一番ひどい被害を出しちゃったんだ」


 ラゼも完璧ではない。生きていればミスもする。

 それでも、この傷を負った時のことは、後悔で。


「だから、この傷は戒めみたいなもので……。また自分の力を過信して調子に乗らないように、治さなくていいかな〜と」


 ラゼはアハハと困った顔のまま笑う。


「違います」


 しかし、その自嘲を止めるようにハルルが言葉を重ねた。


「代表のせいじゃないッス。あれは、オレが出しゃばったせいで。…………ずっと謝んなきゃいけないと思ってたんです。……すみませんでした。オレを庇って酷い傷を……」


 いつも明るくおちゃらけたところがあるハルルが、本当に珍しく暗い表情で謝罪を口にする。


「えっ。ちょっ! 謝ることはないよ!」


 ラゼは深々と頭を下げ出した彼に、慌てた。


「こいつ、ずっと気にしてたんですよ。代表。謝罪は受け取ってやってください」


 補足を入れるクロスに、ラゼは瞬きを繰り返す。


「私たちから見てもまだ代表と出会って間もない時のハルルは、どうしようもない暴れ馬でしたからね。素直じゃなくて謝れず、タイミングも逃して、今の今まで引きずってたんです。――それにしても遅いですよね」


 ――ゴツン。


「イッテェ!?」


 何故か、クロスが深々とお辞儀をしていたハルルの頭にゲンコツを食らわした。

 思わぬ攻撃に、ハルルは頭を押さえて顔を上げる。それから彼はクロスの顔を見て、それからピシリと固まった。

 目が全く笑っていない。どうやら、あの時のことを本気で、ガチで根に持って怒っていたみたいだと、ハルルはそこで初めて知る。

 当時は、部隊の損害をラゼが自分のせいだと責めるので、クロスも話題に触れづらかったのだ。ハルルもあれから反省して態度を改めていたので、今まで見守って来ていたのである。

 ただ、それにしたって謝罪の言葉が遅いと、もう五年は経っている気がするのだが、かなり遅れて怒りが降って来た次第だ。

 

「……誠に、申し訳ありませんでした。代表……。でも、オレもあの時に比べれば少しは強くなったと思います。もう、守られてばかりじゃないッス。……だから、ご自分の身体も大切にしてください。……その、オレたちのためにも……」


 彼にとっては柄じゃない真面目な内容だからか、なんとも不器用な話し方だ。

 それでも、ちゃんと言いたいことはラゼに伝わって来て。


「――わかった」


 彼女は力強く頷く。


「ありがとう。私も考え込みすぎてたみたい。……いつも頼りにしてます。ディカード中尉」


 ラゼは弾けるような笑みで彼に告げる。


「――ッス……」


 これまた珍しく、照れているのか。

 ハルルは短く返事をした。


「よし! じゃあ、早速治しちゃおう!!」


 しばらくことの成り行きを静かに見守っていたフォリアが、張り切ってラゼの前に立つ。


「浄化!」


 ラゼの身体に片手の手のひらを向けると、そう一言。



 淡く優しい光が、ラゼを包んだ――。






遅くなって申し訳ないです。

2022年5月26日に、syuri22先生によるコミック単行本①巻が発売となりました。

web版、書籍版、コミカライズ版、それぞれ違う味がして新鮮に楽しんでいただけるような仕上がりになっているかと!!

是非是非、よろしくお願いいたします。

ありがたいことに書籍3巻も、鋭意制作中です!!


応援してくださった皆様、心よりありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
[一言] お忙しいとは思いますが、楽しみにしていましたので、続き読めて嬉しかったです。 黒傷は治ったと書いてあったので、能力はどうなったんだろう? と思っていましたが、傷ができた理由も知れて本当に嬉し…
[一言] もっともっともっと読みたいです!
[良い点] 更新ありがとうございますm(_ _)m コミックも楽しみにしています。
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