77、学園祭②
「うおぉおお……」
「へぇ〜。校舎ってこんな感じなのか」
「立派だな」
ボディチェックを終え、その腕に入場許可証であるリストバンドをつけたビクター、ハルル、クロスの一行。
初めて目の前にするセントリオール皇立魔法学園の学舎を前に、彼らは足を止めた。
入場門は、今回のテーマである「ミルキーウェイ」を意識した星の装飾がされており、学園祭に招かれた客人たちが物珍しそうな顔をしながら次々に中へ入っていく。
「まさか、ここに入れる日が来るとは思っても見なかったです」
人の流れに乗って門をくぐり、ビクターは感慨深い様子で呟いた。
「貴族のお前がそう思うんだから、俺たちは尚更だ」
クロスは苦笑して、貴族や豪商たちに紛れ込んでしまった場違いさを紛らわす。
「まあ、滅多にない機会だし、楽しもうぜ。さっそく代表に会いに行こうかぁ!」
そんなことは気にしたことではないと言わんばかりに、ハルルは前進する。
パンフレットを受け取ると、彼はさっそくお目当ての場所を探す。
「代表は二年A組だよな」
「ああ」
「んじゃ、こっちか」
場所を確認すると、ハルルはパンフレットをクロスに渡して、わき目も振らずに先導していく。
「ちょ、もっとゆっくり回らないか?」
「代表を確認したら、たくさん時間余るだろーよ」
「僕もそう思います」
「……」
いつの間にかハルルの隣にぴったりくっついて歩くビクターにさも当然のように言われて、クロスは眉根を寄せた。
彼は仕方なさそうに視線を落とし、パンフレットを見ながらふたりの後ろをついて行く。
「色んな出し物をやってるんだな。後で演劇でも観るか? えっと。代表のクラスは……」
順番に視線を移し、クロスは出し物の名前を見て首を傾げる。
「“ひつじカフェ”??」
カフェということはわかるが、「ひつじ」とは?
彼の頭の上には疑問符が浮かぶ。
「ここだな」
「ここみたいですね」
クロスを置いて、先に教室の前で立ち止まったハルルとビクター。
教室の外装は、緑色の草原と青い空が書かれていて、その上には白い雲のようなもこもこが魔法でぷかぷか浮いている。
「だい、ラゼさ……ん。いますかね?」
「わかんねー。とりあえず入る?」
もこもこでふわふわな雰囲気を前に、入室に戸惑う男三人組。
「あ、あの。もしよかったら、ひつじみたいにもこもこな雲に乗ってのんびりしていきませんか?」
その横から遠慮がちに尋ねる女子生徒に、三人は揃って顔を向ける。
水色のメイド服を着た、どこか見覚えのある娘だ。
「あ。ラゼさんの友達ちゃんじゃね?」
大会でラゼの側にいる顔ぶれを覚えていたハルルが、気がつく。
「え! ラゼちゃんのお知り合いの方ですか?」
ラゼが天使とのたまう彼女フォリアは、ラゼの名前を聞いて目を輝かせた。
「わたし、ラゼちゃんと仲良くさせてもらっているフォリアといいます。今、ラゼちゃんは運営委員の仕事に回っていて、お店にはいないんです。クラスの方は、二時になったらラゼちゃんのシフトなんですけど……」
せっかくラゼに会いに来ただろうに、本人がいないことにフォリアがしょぼんとする。
「そうなのか」
「はい……」
フォリアと話していると、教室の扉が開いた。
「どうしたの?」
「あ。ルカくん」
そこから現れたのは、執事服を着たルカだった。
「ラゼちゃんのお客さんが来てくれたの」
「グラノーリの?」
彼はフォリアの横に立つと、部下三人組をじっと見つめて軽く会釈を交わす。
「彼女なら、校舎の見回りをしてます」
「教えてくれてありがとうございます。また来ることにしますね」
クロスが礼を言い、三人はまた後で来ることにして、彼女と別れた。
「二時か。まだ時間あるなー」
「歩いてたら、代表には会えそうだけどな」
「そうですね」
時間まで適当に校舎を回ることにする。
「僕、実はセントリオール受けて、落ちてるんですよね」
「「!?」」
ビクターのさりげない一言に、ふたりはギョッとした。
「それは初耳だわぁ」
「お前は本当に色々と驚かせてくれるよな」
そんなつもりはなかったんですけど。と、ビクターは困ったように肩を竦める。
「受験失敗したのがきっかけで、入隊を考えたんです。こうなったら違う舞台で成り上がってやるって思って。そしたら、すんげぇ人がいるからびっくりしましたよ」
「で。そのすんげぇ人は、セントリオールでも特待生だってか〜」
ハルルのツッコミに、ビクターはハァとため息を吐く。
「代表って本当にすごいですよね。もう尊敬しかないです。なんなら怖いです」
羨ましさは通り過ぎて、畏怖しかないと言うビクター。
するとそこで、クロスが気がつく。
「あ。いた」
立ち止まった彼に、ハルルとビクターもそちらを振り返る。
「ッッツツツツ!?」
ビクターが目を見開き、息を止めた。
視線の先にいたのは、彼がどうしても会いたかった学生姿の上司。
「お。案外すぐに見つかったな」
ハルルは何事もないように呟き、
「んじゃ、挨拶行ってみようかぁ〜」
ビクターの背中を押す。
「あっ、はい。もう僕はもう十分です。ありがとうございましたァ」
しかし、ビクターは前に押されるのに抗って、踵を返そうとした。
「オイオイ。どうした。挨拶もしないで帰るつもりなのか、お前」
もちろん、ハルルはそれを許さない。
とても良い笑顔でビクターの肩を掴む。
「無理っす。無理です。なんですかあれ。僕は僕のことが信じられません」
制服姿のラゼを見て、彼は限界を迎えていた。
軍服ではなく学生服な彼女は、年相応できっとあれが本来あるべき姿なのだろう。
そのギャップがまた、ビクターの心に突き刺さる。
「本当に敵いませんよ。僕、出直して。いや、生まれ直してきたいです」
「よくわからないことばっかり言ってないで、行くぞ」
ハルルは容赦なく、彼に前を向かせた。
「追いかけよう」
「いや。ちょっと待て、よく見てみろ」
ビクターとハルルが話している間、ラゼの姿を目で追っていたクロスが冷静に応える。
「なんだよ?」
ハルルが不思議そうにラゼを見て、その隣を歩く人物に気がつき、クロスが何を言いたいのか理解した。
「またいるな。閣下のご子息……」
アディスが一緒にいることがわかって、クロスとハルルの間にしばらく沈黙が漂う。
我に返ったビクターは、ラゼとアディス、それから先輩ふたりの様子を交互に見て、雷に打たれたような衝撃が走った。
「ま、まさか!」
衝撃のあまり、今度は彼がハルルの肩を掴む。
「あのふたり、付き合ってるんですか!?」
ひどく困惑したビクターの表情に、ハルルは「落ち着けよ」と言葉をかけた。
「代表からそんな話は聞いてないが、この前の大会から、なんとなく気になるんだよな」
「代表、恋愛とか興味なさそーだから、気があるとすれば向こうだな」
「ああ」
だんだんと雲行きが悪くなるふたりの会話を、ビクターが冷静に止められるはずもなく。
「……ちょっと様子を見てみようか」
「さーんせーい。ここでオレたちが見極めてやろーぜ」
そのまま話は斜め上を突き抜ける。
中途半端に状況を理解したビクターは、アディスとラゼの関係を想像して、勝手に悲しそうな目になった。
「僕はまだ、代表が誰かのお嫁さんになるところなんてみたくないです。まだまだたくさん学びたいです。辞めないで欲しいです。僕を捨てないでくださいぃいい〜〜〜〜」
「「うるさい」」
だらだらと弱音を吐く彼を、ニコイチは厳しく切り捨てると、その視線は素早くターゲットをロックオンする。
五三七特攻大隊で、数少ない良心と呼ばれるクロスも、妹のようにも思っているラゼの身の回りにいる男には、過敏だった。
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