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【web版完結】軍人少女、皇立魔法学園に潜入することになりました。〜乙女ゲーム? そんなの聞いてませんけど?〜  作者: 冬瀬
軍人少女、皇立魔法学園に潜入することになりました。〜乙女ゲーム? そんなの聞いてませんけど?〜
74/135

74*招待券を手にしたのは

今回は部下メインのお休み回でございます。

温かい目でお読みください……


【今回出てくるキャラ紹介】

・クロス・ボナールト…大尉。ラゼの副官。世話焼き。得意型は炎。ラゼの婚約騒動で体を張った人。

・ビクター…ラゼの部下。まだまだ下っ端。家は貴族。五三七特攻大隊に入隊してから日が浅い。ラゼ(牙狼)に憧れているらしい。

・ハルル・ディカード…中尉。ラゼの部下。クロスとは同期。戦うの大好き。好き勝手に戦わせてくれるラゼも慕っている。

・セルジオ・ハーバーマス…技術者。魔石を使った道具を作らせれば右に出るものはいない。「死神の玩具屋」。バトルフェスタでラゼのためにスクリーンを作った人。


とある軍施設の一室。

ラゼ・オーファンの執務室であるその部屋で、クロスは副官として彼女の留守を任されている。

ラゼが席を空けることが続く生活は、一年と半年ほどが過ぎて、それなりに今の仕事に慣れてきた頃だった。


「大尉! 代表からお届け物です!」

「ありがとう」


扉をノックしてから、元気よく入室したビクターが封筒を提出する。

見るからにソワソワしている彼に、クロスは苦笑しながらそれを受け取った。

いつも送られてくるものより、少し大きな封筒を丁寧に開ける。中からは、便箋とチケットケースが出てきた。

久しぶりに小さな上司から届いた便り。

クロスはまず、便箋を手に取った。


『もし時間があれば、無理のない範囲で是非』


そして、読み終えた彼は、今回送られてきたチケットケースの中身が何かを理解する。


「学園祭の招待券か!」

「え!」


彼はすぐに同封されていた招待券を確認した。

内容を確認するまで部屋を出る気がなかったビクターは、クロスの言葉を聞いて目を輝かせる。


「……二枚」


クロスはその枚数を見て、ボソリと呟く。


「大尉」


状況を素早く判断したビクターが、このチャンスを逃しはしまいと彼を呼ぶ。

しかし、クロスはそちらを見ない。

どう考えても、嫌な予感しかしていなかった。


「考えていることはわかりますよ、大尉。その券をめぐって、また何か起こるんじゃないかと心配なんですよね」


ビクターは、うんうんとひとりで相槌を打ちながらクロスに言う。

ラゼの婚約騒動での一件を思い出したクロスは、無意識に昔折れた腕をさすった。


「二枚しかないのであれば、ここだけの秘密にしましょう」


こいつ、言いやがった。と。

そこで思わず、ビクターに視線を戻す。


「ビクター、お前……」


さっきまでソワソワ、にこにこしていたビクターの顔が、完全に悪役のそれになっていた。


「大丈夫ですよ。もしバレてしまったら、代表が僕たちを指名して招待してくれたんだと言い張りましょう」


どうしてこういう時だけ、そんなに威勢がいいのかと。クロスが呆れながら、券を袋にしまおうとしたその時だった。



「大尉〜。そろそろ、昼飯」



バンと。

ノックもしないで扉を開けて、そいつはやって来た。


「ん? ビクターもいたのか」

「ハルル……。ノックくらいしろよ」


クロスは心臓が飛び出そうになったのを顔に出さず、自然を装って手紙をしまいにかかる。


「何それ?」


しかし残念ながら、こういう時に限ってハルルはそれを見逃してくれなかった。


「もしかして代表から?」


彼は部屋の中までずんずん進み、クロスの前に迫り来る。

ビクターは下手に誤魔化せば、逆に怪しまれるとでも思ったのか、見たことのないくらい落ち込んだ表情でクロスをただ見つめている。

視線を注がれたクロスは、そんな情けない顔でこっちを見るなと言いたかった。


「やっぱり、代表からじゃん。今回はなんだって?」


側に置かれていた封筒の宛名を見たハルルが、不思議そうに尋ねる。

どうせ、隠しても良い方には転ばないと思ったクロスは、仕方なく口を開く。


「学園祭のことについてだ」

「あぁ。もしかして、この前実験してたリストバンドのことか?」

「それもあるけど、当日の招待券が二枚届いた」


ハルルにそう告げた途端、ビクターがその場に崩れ落ちた。


「うわ!? 驚かせんなよ、ビクター」


突然のことにハルルが声を上げる。


「終わった……。どうせ今回も、僕は学園にいる代表に会えないんだッ」


ビクターは思いの丈を吐露。

彼から漂う負のオーラに、ハルルはクロスと顔を見合わせた。


「お前、そんなに代表に会いたかったの?」


ハルルは面食らったまま問う。


「代表が、あの『狼牙』が、可愛い制服を着て学校に通っているんですよ? 興味がない訳ないじゃないですか。ああ、僕も代表の試合を生で見たかったのにな。どうしてこの前の大会も警備役になれなかったんだろう。もう、本当に心の底から、一緒に勉強してる学生が羨ましすぎますよ。僕だって代表と一緒に学園生活を送って、色んなことを教えてもらいたかった。きっと毎日新鮮なんだろうなぁ。いや、同じ空間にいるだけでありがたいというか……」


つらつらとビクターが饒舌に語り出した。


「そういえばこいつ、代表に会いたいがために入団して、五三七特攻大隊を志望し続けたんだっけ」


自分の世界に入ってしまった彼を遠巻きに、ハルルがクロスに確認する。


「忘れてたけど、そうだった」


クロスは頷く。


「なんか、可哀想になってきたな」


ハルルはあまりにも悲観しているビクターに、同情した。


「今回はオレたち、警備に呼ばれなかったもんなぁ。行きたいなら、このチケットを手に入れるしかないってことか」

「そうなんですよ!!」


すると、ハルルの発言を拾ったビクターが食いついてくる。


「どうして、学園祭の警備は騎士団だけでやるんですか!? そんなに外面が大事なんですか!?」

「…………そう怒るなよ。もし、代表がいない貴族の学園を軍が守るってなった時を考えてもみろ」


クロスの指摘が的を射ており、その場のふたりは沈黙した。


「なんでお前まで黙るんだ?」

「いや。だって、大会も同じことが言えるなと……」


きっとラゼがいなくなった後のことを想像したのだろう。ハルルが眉をひそめる。


「でも、それじゃあ、なおさらチケット欲しいですよ」


ビクターの困り果てた様子に、クロスは頭をかく。


「仕方ない。どうせ、みんな行きたいんだろう? 下手に暴れられるより、ちゃんと勝負をつけたほうがマシだ」


彼が何を言いたいのか、瞬時に理解した戦友のハルルは、ニヤリと口角を上げる。


「そうこなくっちゃ!」

「?」


ビクターはきょとんと首を傾げた。









「うぉおおお」

「さっさと、諦めろよ!」

「中尉こそぉおお!!!」


ふたりの男が、殺気を放って吠える。

顔が赤くなるほど力を込めた、握り合う拳。

力の均衡が破れた瞬間が、勝負のとき。


「おっらぁ!!」


ダン、と。

手の甲が机についた。


「おっしゃあぁああ!!!」


腕相撲で勝利したハルルは、歓喜に雄叫びをあげる。

そして、


「くそぉおおおおおお」


絶望の声をあげたのは、ビクターだった。



「……何やってんだ?」



騒がしい食堂を、たまたま顔を出しに来ていた「死神の玩具屋」ことセルジオ・ハーバーマスが怪訝な表情で覗き込む。

聞き覚えのある声に、ラゼの部下たちは一斉にそちらを振り向いた。


「ハーバーマス殿!?」

「……ラゼのお付きか」


彼に気がついたクロスが、想定外のとんでもない人の登場に驚きの声をあげ、慌ててセルジオに挨拶した。


「これは一体何の騒ぎなんだ?」


ヤバイ人が来てしまったことに気がついた周囲の男たちによって、前回被害を受けたクロスに無言の憐れみが向けられる。


「……実は、代表からいただいた招待券を……」


腕相撲大会で、ちゃっかり勝ち上がって学園祭行きを決めていたクロス。怪我人を出さずに、そこそこ盛り上がる勝負方法として、この大会を始めたのに、自分はまたセルジオのせいで病院の世話にならなきゃならないのかと。気が気ではない。


「ああ。学園祭な」


言葉を濁した彼だったが、セルジオは案外平気そうな表情で。


「心配しなくても、俺はちゃんと招待券を貰ってる」


彼は自慢げに言って、最後の最後でハルルに負けたビクターを見下ろす。

その場にいた誰もが心の中で、ビクターに合掌する。

セルジオはニヤニヤ笑いながら、勝負に負けたビクターの元へ。


「……なんでしょうか」


わざわざ笑いに来たのかと。

お前はなんて嫌なやつなんだと。

ビクターは、とても嫌そうな声色で尋ねる。


「実は俺、リストバンド作ったおかげで、そこそこ顔が効くんだよなぁ」

「僕も学園祭行きたいです、ハーバーマス様!!!」


ビクターが屈するのは早かった。


「なんというか。あいつ、上手く世を渡ってるよ」

「あの瞬時の判断を実戦でも発揮してほしいな」


クロスとハルルは、貴族の出身でありながら軍でなんだかんだ可愛がられている後輩を見て苦笑する。


「よかったな。ビクター」

「あーあ。おれも代表、見に行きたかったなー」

「学園祭ってのも、楽しそうだしな」


腕相撲で負けた男たちは、セルジオが暴れないことに緊張を解いて自由に語りだす。


「それにしても。警備が大変ってのは分かるが、招待券が二枚っていうのも少なくないか?」


そのうちのひとりが、疑問に思っていたことを口にする。


「俺が聞いた話だと、友人や知人を招待するのが二枚だけみたいだ。……保護者は別枠らしい」


学園祭の警備システムに携わっているセルジオが応えた。

彼らはその答えに、ハッと息を飲む。


ラゼはこの二枚分しか、学園に人を呼ぶことができなかったのだ。









その数日後。



「どうしたんだろ、こんなに……。もしかして何かやらかした?」


学園にいるラゼの元には、部下たちからたくさんの仕送りが届くことになる。

どれも必需品で、あって困るようなものではなかったため、彼女は怪しみながらもありがたく受け取った。

しかし、彼らが気遣うまでに至ったその経緯を、ラゼが知る由なかった。





いつもお読みくださりありがとうございます!

嬉しいことに、生まれて初めてレビューをいただきました。本当にありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 軍人ズ「オレらがパパ(ママ)になるんだよ!」
[一言] 毎回の更新を楽しみにしています。 今日の話は、ほっこりしました♡
[良い点] ラゼ、愛されてますね。 隊のお話、大好きです! みんなの気持ち、ラゼに届くといいですねw ラゼは隊の誰かやセルジオとかとくっ付いても面白そう。。。 まあ一番のイケメンはラゼなんですが …
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