67、学園祭準備①
お待たせしました。お納めくださいませ。
何事もなく。といえばラゼにとっては語弊がある気もするバトルフェスタが終わり、続いて彼女を待ち受けるは学園祭。
今は学園祭準備期間となり、各クラスは出し物を成功させるために前世の学生のごとく青春を謳歌していた。
カーナとラゼで、学園祭がどんなものか、また出し物はどんなことができるかという例をいくつも挙げた冊子を既に配布しており、初めてやるにしてはちゃんと形になった学園祭が開けそうである。
前世に比べれば準備期間はそれほど多くないが、魔法を使用できる分、質良く早く、効率的に準備は進んでいた。
また貴族の学園とあって、OBOGサマたちが今回の取り組みを聞きつけジャンジャンお金を寄付してくださったので、予算は十分にある。
かなりレベルの高い出し物になることが予想された。だんだんと完成に近く外装だけみただけ見ても、それは断言できる。「店か?!」と思うレベルには、どのクラスも仕上がっていらっしゃる。
「ラゼ! これをヒューガン先生に届けてもらってもいいかしら!」
「はい」
「あっ。あと、理事長先生にもこの書類の確認をしてもらわないと」
「それもわたしが確認しておきますよ」
「本当? ありがとう」
「いいえ〜」
学園祭運営委員の拠点になった教室は慌ただしい。
委員長を務めるカーナはこの教室で指示を飛ばし、クロードはその補佐。ルベンとアディスは校内を見回り、フォリアとルカ、イアンは運営委員による装飾や天燈篭の準備を担当している。
ちなみにラゼは、クロードと同じくカーナの補佐及び連絡・荷物運び係。
つまりはアッシーだろ? なんて卑屈なことは思わず、円滑にことが進むよう彼女は女神のために快く働いている。
必要な書類を持ってラゼは教室を出た。
普段であれば校内で無闇矢鱈に魔法を使用することは禁止されているのだが、この期間は特別に、皆さまそれぞれご活躍中。
ということで、ラゼも遠慮なく転移を使って配達をする。
彼女は一気に職員室前まで飛び、ヒューガンの元へと進んだ。
「ヒューガン先生。これは当日、有志を集めてホールで行う出し物のプログラムです」
「おー。ごくろうさん」
「この後は、各グループの代表を集めて照明や音響の使い方、それとリハーサルの日程を決める予定です」
「ん。わかった。準備はしといてやるから、あとはがんばれ。俺にはよくわからん」
「はい。あとはこちらでやるので、確認だけお願いします」
「お、わかってるな。グラノーリ」
ヒューガンはぽんぽんとラゼの肩をたたく。
ラゼはハハハと苦笑い。
「なかなか担当してくれる先生を見つけられなかったので、ヒューガン先生にはすごく感謝してるんですよ。お願いした時に言った通り、こちらでできるだけの事はします」
「そーか。まあ、俺も引き受けたからにはちゃんとやる。そう無理はすんなよ。はじめてのことなんだ。こう言ったらなんだが、ミスはあっても当然のこと。根詰めすぎんな。楽しくやれよ」
「はい。ありがとうございます」
ヒューガンに礼を言って、ハーレンスに閉会式で講評をもらうゲストへの手紙をチェックしてもらい、カーナに頼まれたお使いを終える。
(今日の夜も会議かぁ)
学園祭はセントリオール皇立魔法学園始まって以来、はじめての試み。
カーナたちの熱い要望で外部の人間も、バトルフェスタや冬のトーナメントと同じように招待状があれば学園祭に参加できるようにしたため、ラゼはその対応に追われていた。
警備についてはハーレンスが騎士団や軍に掛け合ってくれているのだが、意見を聞きたいということでほぼ毎日のようにハーレンスの自室に通っている。
「あ。ラゼ! ちょうどいいところに!」
お使いを終えて歩いていたラゼに、後ろから声がかかった。
彼女が振り返ると、そこには一つ上の糸目が特徴的な先輩が。
「ユーグ先輩」
彼はユーグ・ミュンヘン。巷で有名なミュンヘン商会の跡取り息子である。
ちなみにラゼが一年生のときあったルベンの誕生日会で、フォリアの代わりに乙女ゲームのしわ寄せを食らった人だ。
ラゼが招待状を譲ってからというもの、彼にはお裾分けと称して色々ものをもらっている仲だったりする。
「やあ。運営委員は忙しそうだね? ちゃんと休んでる?」
「まあ、忙しいですけど充実してますよ。先輩こそ、大変なんじゃないですか?」
ラゼの返答にユーグはニッと笑う。
「おかげさまで、うちは繁盛してるよ。学園祭をやろうって言ってくれた運営さんたちには感謝しかないね。僕は発注をまとめるだけだから。実家のほうが忙しいかな」
「へぇ。そうなんですか?」
学園祭で必要になる材料集めに、ミュンヘン商会は一役買うことになった訳だ。
ひと商売できて、ユーグは生き生きとしている。
「そうだ。これ、ラゼに差し入れ」
彼は上機嫌でラゼに紙袋を差し出した。
ラゼはその紙袋をみてハッと目を見開く。
「これって!! もしかして幻のチーズケーキでは?!」
「その通り。前、食べてみたいって言ってたでしょ。うちに入って来たから、送ってもらったんだ」
「うわああああ。めちゃめちゃ嬉しいです。お金、出させてください」
これ以上なく感激した声をこぼしながら、ラゼはユーグを見上げる。
「いいって。ラゼのおかげで僕はいいことばかりなんだ。また珍しいものが入ったら持ってくるよ。楽しみにしてて」
「一生ついていきます、先輩」
「こちらこそ贔屓に頼むよ。じゃあ、頑張って」
「はい!」
ユーグは颯爽とその場を去っていく。
三年生は就職のこともあるだろうから、クラスの出し物は簡単に済ませて良いかもしれないとカーナは提案したのだが、そんな楽しいことをさせてくれないのは嫌だということで。三年生も何かしらの出し物をすることになっている。
人によってかなりハードなスケジュールをこなす人もいるはず。
ユーグは扱える商品の範囲を広げるために、薬物や、魔石の取り扱いができるようになるための資格を取ると言っていたので、勉強も忙しいことだろう。
そんな中、こんな後輩のためにまで気を使って幻のブツを手に入れてくれるとは……。
ラゼはずっしりと重みを感じさせる紙袋を覗き込み、大きな箱を見てニンマリ笑う。
「早く食べたいなぁ。でも、どうしよう。先輩は私に差し入れって言ってたけど、みんなに分けるべきだよね……。うんんんんん。いや、こっそり……。フォリアとカーナ様だけで……」
自分の内なる欲望と闘いながら廊下を歩いていると、ラゼに気がついた生徒たちから視線を注がれる。
(……バトルフェスタで目立ったせいで、視線が増えてやり辛いな。やっぱり許さないぞ。アディス・ラグ・ザース!!)
そんな風に無理やり責任転嫁したせいだろうか。
「何サボってんの? 特待生」
「……」
噂したご本人を召喚してしまった。
ラゼは内心溜息を吐く。
「サボってないです。お使いの帰りなんです」
「へーえ? それにしてはイイモノもってるみたいだけど?」
ユーグからもらった菓子の袋に視線を落としたアディスに、ラゼの警戒度が跳ね上がる。
じりりっと一歩下がって、アディスから距離を取る。
こんなことなら、見つかる前にさっさと自分の部屋に転移させておくべきだった。
「これはお世話になってる先輩からもらった差し入れで。……あげませんよ?」
「別に。人のものを奪うほど嫌な奴のつもりはないんだけど……」
あからさまな敵対心に、アディスは呆れた顔でそう答える。
が、ラゼからすれば、知らないとはいえ目の前で任務を横取りされているので、何とも言えない。
「それより。君、まだ昼食食べてないんでしょ? 俺も休むから食堂行こう」
「へ?」
一瞬、何を言われたのか分からず、ラゼからは変な声が出る。間の抜けた表情にアディスは彼女が時間を忘れて働いていることを察して、ハァと溜息を吐いた。
決められた時間まで見回りを終えて、一度運営室(学園祭運営委員会の拠点教室)に戻れば、書類と睨めっこをするカーナとクロード。見るからに人手不足で、昼食の時間を過ぎてもずっとここにいることはすぐに分かった。
カーナは各クラスの企画書に注意点がないか探したり、来賓の対応について追われており、クロードはクロードで全クラス分の会計監査に忙しい。
そしてここにいないもう一人のラゼは、避けては通れない教師たちとのやり取りを担当している。
彼女はそれぞれの場面で責任を持ってくれる教師たちに挨拶して回り、乗り気でない教師たちを動かしていた。
最後の最後まで有志の出し物を担当してくれる教師を捕まえることができずに、お願いして回っていたことだってアディスは知っていた。
生徒を相手するのとは違い、学園においては確実に立場が上の教師たちを相手に立ち回ることは骨が折れるだろうに。
カーナやクロードも、この学園祭に関わる大人と関わるような準備もある。しかし、カーナであれば理事長ハーレンスに、クロードは会計監査を担当してくれることになった三人の教師がバックについている。
言うまでもなく、その担当をしてくれないかと頼み込んだのもラゼ・グラノーリだ。
彼女は学園運営委員の裏の顔として、教師と対等にも近い責任を負いながら、裏方に徹していた。
そんな重い仕事を担当しておきながら、嫌な顔ひとつせず人のフォローまでしているときた。
「はあぁーー」
「な、なんですか。そんなに大きく溜息つかなくても」
「いいから。行くよ」
「ちょ……」
アディスに腕を引っ張られ、ラゼは青春の園を縦断した。
今回もお読みくださり、ありがとうございます!!
いつも感想をくださる方、本当に元気をもらってます。ありがとうございますっ。
これからも応援よろしくお願いします。
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※ここからはスルーしてもらって平気です。
本作は果たして、女性向けなのか男性向けなのか問題に直面中の今日この頃……。
(今まで全く考えずにラゼさんワールドを展開していたので、考えたことなかったんですよね……。どちらかと言うと男性向け、なのか?? ちょっと読者さまにも伺ってみたい……)
あ。全く関係ありませんが、作者は部活をサボりたくて、文化祭でチーフになる系の学生でした。笑




