61、二度目のバトルフェスタ④
vsイアン回です!
突っ込みどころの多々ある拙い戦闘シーンですが、
温かい目でお付き合いくださると嬉しいです…
あとがきにも、居場所を見失った部下たちの話を載せさせていただいたので、よろしければお読みくださいませ!
昼食が終わると、本日最後のベスト8を決める試合が始まる。明日にも今大会の優勝者が決定する試合日程だ。
反対の山にいるルベンをラゼが負かすためには、必然的に決勝まで残る必要がある。全学年、及び保護者たちから一身に視線を浴びるのも、もう少しの辛抱だ。
「ラゼさん。自分で言うのもなんだけど、オレ、結構諦め悪いからね」
「……うん?」
会場で向かい合ったイアンに言われ、彼女は眉をひそめた。乙女ゲームクオリティなので、攻略対象者たちがいいところまで勝ち上がってくるのは、何となく分かっているラゼ。それでもやはり、実際相手とすると彼らが他の学生とはひと味違うこともまた分かっていた。
「いい試合をしよう!」
「はい」
ふたりは試合前の挨拶を交わすと、好きな位置に構える。
さっきまでフレンドリーな笑みを見せていたイアンは、スイッチが入ったのか隙のない目つきに変わった。槍をその手に携えた彼のまとうオーラに、ラゼの口角は少し上がる。
準備ができた審判たちが全員挙手すると、ついに開始のゴングが鳴ったーー。
勝敗を分ける一瞬。
ラゼは高速移動で直進し、イアンに技をかける。近づいた彼からは「ま」という音が聞こえた気がした。
「……」
秘策があると聞いていたのだが、これまでと同じように倒れていくイアンに思わずラゼは眉を顰める。それは期待を裏切られた、そんな表情でもあった。
「そこまーー」
審判もイアンが地面に倒れるのを認知し、終わりを告げようとする。
が、
「ーーだやれます!!」
仰向けに倒されながら、イアンがそう言い切った。彼は技をひと段落させたラゼを振り払うようにブレイクダンスのごとく回し蹴りをし、素早く抜け出す。
(さ、策って……)
ラゼはかなり拍子抜けした顔になりながら、パッと距離を取り直した。
どうやらさっき気のせいかと思った「ま」の一音は、「まだやれます」の「ま」だったらしい。始まる瞬間からそんなことを言っていたとは驚きだ。
「技、受けちゃうんですね。そして諦め悪いってそういうことですか……。確かに審判が試合を止めるか、参りましたって言うと勝敗が決まるルールですけど……」
秘策も何もあったものではない。
でも、ちらりと審判を見れば、何もなかったような顔には「続行」と書かれている。
「まだ負けないぞ? だってオレ無傷だし」
まあ、彼の思い通りになったという点では、その作戦は成功なのだろう。流石脳みそが筋肉なキャラクターとでも言っておこうか。……一応、褒め言葉である。
イアンは次はこちらの番だと言わんばかりに、ラゼに向かって槍を振るってくる。彼女はそれを軽い身のこなしで避けたが、イアンの攻撃は休みない。
『なんと!! 〈丙の間〉ではイアン・マッセ・ドルーアが、あの一撃必殺のラゼ・グラノーリに怒涛の猛追!!』
『なかなか思い切った行動でしたね。彼女に倒されて審判に判定をくだされる選手が多いなか、それを止めてしまうという……。考えたとしても、それを行動に移すことは普通できないことです。その勇気に、拍手を贈りたいですね』
『そうですね。彼からは何度倒れても体が動く限りやるぞっていう強い意思を感じます。さて、思わぬ反撃を食らったラゼ・グラノーリ選手がどう出るか見どころです!』
そんな実況を聴きながら、ラゼはイアンの攻撃を避け続ける。
(これはちゃんと戦闘不能にしないと、負けを認めてくれないタイプだな)
ビュンと、彼女の腹の前に風を切る音が聞こえた。
今回、ラゼの攻撃が審判から認められなかったのは、イアンが技を抜け出したとみなされたからだ。
相手に全く傷を負わせず、負けを強要するような勝ち方なので、こんなことも起こりうるだろうとは、ラゼもわかってはいた。だが、まさか実際にやってくる人がいるとは思っていなかったのだ。
見方によれば、彼の行動は負けを認めない愚行だとも言われるだろう。
頑なに負けを認めない場合には、審判が試合を終わらせるが、そこまでするのは恥さらしとも言われてしまう。
だから、実況している解説者たちが言うように、イアンがやったことはかなり勇気のいることだったし、ラゼも驚いて二撃目のタイミングを逃していた。
(魔法を起動させないつもりか)
冬の大会で学年一位を獲得しているイアンの槍術を、ただ肉体強化するだけでかわし続けるのは厳しいところがある。
勿論、このくらいの突きならば避けるまでもなく、空間移動でもして彼の背後をとれば終わりだ。
しかし今大会で、ラゼは空間を飛ばしてA地点からB地点まで行くような魔法は一度たりとも使っていない。言うなれば、動く点Pとして、直線上を一定のスピードで走り切るということしかしていなかった。
(空間移動は応用効きすぎてるから、ちょっと使いたくないんだよな)
武器なしで入場してしまった彼女は、どうしたものかなと考える。
気をつけなくてはいけないのは、自分は平気だと思っていても、審判に危険だと判断されて試合を終了させられる可能性。武器を持っていない自分の方が、今は不利に見られていると思ったほうがいい。
(……武器、もらうか)
武力の象徴である武器を持ったほうが分かりやすそうだ。
ラゼはヌッと体を前に出し、それを掴む。
「ちょっと借りますね」
「ッ?!」
自分のテリトリーであるはずの間合いを、簡単に詰められてギョッとしたのはイアンだった。
ラゼが掴んだのは、言わずもがな彼の短槍。
試合用に穂先は刃物ではないが、当たれば骨が折れるかもしれないのになんの躊躇もなく彼女は槍を掴みにきた。
咄嗟にイアンは槍を振り上げようとしたが、ラゼはそれを許さない。
左脇に槍を挟み、身体強化で握力増し増しな両手でしっかりそれを掴むと、全身の力を上手く使って回転するようにイアンの腕から槍を抜き去る。
接近したまま左回転させた背中でイアンを押し、左足を前に出せば半身になる。そうすると小脇に挟んだ槍の穂先がイアンの体に当たりそうなので、左手は彼の左肩を掴み、右手に持った槍は一回転させて上に構える。
「そこまで!!」
槍は急所を確実に定めており、審判から止めの合図が下された。
最終的なラゼは、上体だけみるとまるで歌舞伎の見得をアレンジしたようなポージングである。
彼女は自分の勝利が決まってから、イアンから手を離し、槍を下ろした。
「お返しします」
ラゼに差し出された槍を受け取れば、彼はハァとため息を吐く。
「やっぱりラゼさんは強いな。一撃もあたらなかった……。武器持ってない分、ハンデだと思ってたんだけど考えが甘かったみたいだ」
言葉こそ悔しさが滲んではいるものの、やっと彼女と一戦交えることが出来たからかイアンはどこかスッキリしたような面持ちでもあった。
〈おまけ〉部下視点
クロス…ラゼの副官
ハルル…ラゼの部隊の仲間。クロスとニコイチ。
ジュリア…ラゼと仲の良いオネェさん軍人。
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「お。ついに『良い子はおやすみラリアット』から起床する子が出たぞ」
「もっと他の言い方なかったのか。ハルル?」
「え。わかんねぇ? オレはかなり分かりやすいと思うんだけど……。ちなみに任務だったら二度と覚めない“おやすみ”だぞ」
クロスの怪訝な表情に、ハルルは苦笑しながら言った。
『あはは。言いたいことはわかるわよ。形だけのラリアットで生徒たちを仰向けにするのと、ガチでは破壊力がまさしく天と地の差よね』
話を聞いていたジュリアは無線機の向こうで軽快に笑っている。
『でも、骨のある坊ちゃんもいて良かったわ』
「そうですね。俺もなりふり構わず食らいつこうとするのは、嫌いじゃないです」
イアンが倒されても尚、戦意を喪失しなかったのを見てジュリアが褒めると、クロスがそう答える。
「そうか? だからって、オレはゼルヒデみたいなのは勘弁だな」
ハルルは、合同訓練でボロボロに負かした三〇ニ特攻大隊を率いるゼルヒデ・ニット・オルサーニャ中佐のことを思い浮かべた。
「それとは話が別だろ。俺は彼が何となくお前に似てると思うぞ」
「え。まじ?」
「ああ。代表と戦いたがる感じが似てる」
「……」
図星を突かれ、ハルルは黙る。
『ふふ。まあ、あの子もそろそろ飽きて来てるだろうし、たまにはこういう刺激もいいんじゃない? 見て。あの顔は結構驚いてるわよ』
「そうみたいですね」
クロスはちょうど、スクリーンに映ったラゼの表情を見て同意した。
ハルル命名「良い子はおやすみラリアット」は無効になってしまったものの、ラゼがしっかり勝利をおさめたのを見て、彼らは顔を見合わせる。
「なんつーか。ここまで来ると、寧ろ代表が苦戦するところとかみたいな」
「不吉なこと言うなよ……」
「冗談だよ、冗談」
ハルルが言うと全く冗談に聞こえないのは、きっと気のせいなどではない。クロスがじとーっと睨むと、彼は肩を竦めた。
「いや、でもまあ、ほんとのところ。代表が凄すぎて見てるやつ全員腰抜かすようなのをオレは見たいな」
クロスはうんんと唸る。真剣に想像をはたらかせてみたが、とんでもないことでも起きない限り、ラゼが表舞台に出て暴れ回ることはないように思えた。
「……それは。難しいんじゃないか?」
「ま。そうだよな。そんな場面があっても、代表、速すぎて普通のやつには何が起こってるか分かんないだろ」
「はっ。それは違いないな」
その様子が上手く想像できるものだから、ハルルとクロスは笑いあう。
部下にそんなことを言われているとは知らないラゼはその時、満面の笑みで残っていた差し入れのタルトを頬張っているのであった。




