6、自己紹介
「揃ったな」
ヒューガン先生は全員着席したことを確認すると、ホームルームが始まる。
「俺はサイラス・メイ・ヒューガン。お前たちがよっぽど授業について来られないか、やらかさない限りは三年間面倒を見る。多少のことには目を瞑るが、馬鹿なことをして俺の仕事を増やすなよ。よろしく」
——おい、それでいいのかセントリオールの教師。
何をどうしても実力だけが評価される世界なので、彼は放任主義なのかもしれない。
この手のタイプはやることさえやっていれば、怒られないのでやりやすい。
ヒューガン先生とは仲良くできそうだ。と、ラゼは思う。
「はい、じゃあ恒例自己紹介から。名前と得意型がわかっていれば得意型。あとは適当に言いたいこと。そっちから順番にな」
ラゼが座っている列とは反対側から自己紹介が始まる。
名前に貴族の称号が無いと、一発で庶民だとわかる。ラゼは同志がいないか良く耳を傾けたが、なかなか庶民が見当たらない。
「カーナ・フット・モーテンスですわ。得意型は氷魔法。どうぞよろしく」
「クロード・オル・レザイア。得意型は影を操る魔法です」
「オレは、イアン・マッセ・ドルーアです! 身体強化が得意です。これからよろしくお願いします!」
「ルカ・フェン・ストレインジ。得意型は土魔法です。よろしくね」
外務大臣の娘に皇宮執事長の息子、前シアン皇国騎士団長の孫。財務大臣の息子。
これだけでも十分、身分が高い人たちが揃っているというのに殿下と宰相の息子まで同じクラスとは——。
ラゼは頭を抱えたくなった。
彼らを思うと、肩身が狭過ぎる……。
皆、当たり前のように「得意型」を発表しているが、適性を見分けるにはお金を納めてちゃんとした機関で検査してもらう必要がある。
「得意型」を間違えると、本来持っている力を発揮することができず、人によってはスランプや命に関わる問題を引き起こしたりするからだ。
貴族のお子様方は、きっと良い指導者に恵まれて来たのだろう。
戦時中、特殊な機械を使って無理やり適性を調べた自分とは違う。
あれは痛かったなあ、と彼女が過去を振り返っていると、フォリアが立ち上がった。
「フォ、フォリア・クレシアスです。得意型は治癒魔法で、他の魔法は苦手ですが一生懸命頑張りますっ」
ぺこりと頭を下げたフォリアに、教室がざわめく。
それは彼女が庶民だということに加え、得意型が治癒魔法ということに対しての驚きだった。
治癒魔法を得意型とする者は極めて珍しい。
魔法が使えるものは皆、ある程度どの魔法も使えるのだが、得意型ではない治癒魔法には限度がある。
得意型か通常型か。
魔法とは、この分類によって、極められる限度が違う。
通常の治癒魔法では傷を塞ぐのがせいぜいだったりするのが、治癒魔法の得意型を極めれば、失った肉体を修復することが可能になる。
治癒魔法は「型」の違いが能力に大きな差を生むので、とても価値が高い。
(フォリア、治癒魔法が使えるのか)
これにはラゼも驚いた。
「はい。静かにー。次いこうかー、次」
パンパンとヒューガン先生が手を叩き教室は静まったが、フォリアに珍しそうな視線を送るものは少なくなかった。
貴族サマの学校なので、庶民が虐められるのではないかと思う人も大勢いると思うが、ここはセントリオール。
庶民で入学した生徒の実力を馬鹿にするような馬鹿はいない。
寧ろ、エリート庶民とも交流を持つことで、将来の展望を図るのが、この学園に集まる貴族サマだ。
中には反抗期真っ盛りで、理にかなっていないことをしてしまう生徒もいるにはいるだろうが、身分さえ弁えていれば庶民にも暮らしやすい場所である。
だから、フォリアが注目されることも何らおかしい事ではない。
今のうちに仲良くしておけば、何かあったときに助けてもらうことができると考えるのは、自然な成り行き。
誰しも、最初から他人に嫌われる行動はしないし、可愛いフォリアが虐められることはないだろう。
(んー。私も何か種があった方がいいかな?)
同じ庶民として彼女と比べられるとなると、自分も何か取り柄があったほうが安全だ。
ラゼは、どうしようかなーと考えながら自己紹介を聞いていると、そこで女子の皆様のアイドル、ルベン殿下の番が来た。
「ルベン・アンク・ローズベリ。得意型は炎と水」
——流石殿下。
得意型の二つ持ちとは恐れ多い。
軍でも何人かしか二つ持ちはいない。
かなりのレアケースだ。
スペックにスペックを盛り合わせて来て、高すぎる。
これが金の卵かぁ、と自分もそうである事を忘れてラゼはただただ感心していた。
どんどん順番は進み、中央の左側の列の最後。
立ち上がったのは死神閣下の息子だ。
「アディス・ラグ・ザース。得意型は風。三年間よろしく」
——はい出ました。閣下直伝(?)さわやかスマイル。
(え、ちょ、女の子たち?! 何、ときめいた瞳をしているの? この笑みに騙されたら駄目だよ?!)
優しそう〜とか思うかもしれないけれど、こんなに腹黒そうな人なかなかいない。
(どうか私のように閣下に丸め込められて、危険な任務に送られるような目には……………遭わないか?)
冷静に考えれば、ここにはそんな危険はない。
ならば、気にすることもないのか、とラゼは思い直った。
表情が出やすいので、前髪作ってくれば良かったかなと反省しながら、彼女は自分の番を待つ。
「次で最後だな」
はいどうぞ、と目で促されてラゼは立ち上がる。
自分の設定は完璧に頭に入れている。
ここで間違えるようなヘマはしない。
「ラゼ・グラノーリと申します。移動の魔法が得意型です。皆さんについて行けるよう、三年間精一杯頑張ります」
彼女の得意型は「移動」。
転移の魔法ではマーキングしたところに移動することができ、縮地の魔法では自分を中心に三キロ以内の望んだ場所に移動が可能だ。
他にも他者と場所を入れ替えるスイッチだったりと移動に関することなら、かなり幅広く応用できる。
一見目立たない魔法だが、ラゼはこの魔法と共に生き延びて来た。間違いなく腕は一流だ。
——さて。
結局、普通に挨拶して終わってしまった。
しかし「魔法はだいたいの種類について、既にある程度極めました」なんて言ったら何を学びに来た?と思われるだろうし、そんな庶民は疑われるだけなので、彼女は必要な事実のみ伝えるしかない。
自分が軍人で、皇帝の息がかかった者だと言うことは、学園では理事長しか知らないので、悪目立ちはできないのだ。
「あー。お前か、特待生。オーケーオーケー。把握した。これで自己紹介は終わりだな」
ラゼが席についた後、ヒューガン先生の大きな独り言が教室に広がる。
彼女を特に特徴のない庶民だと適当に認識して前を向いたはずのクラスメイトが、一斉に首を回してラゼを見た。
どうやら、彼らのお友達ストライクゾーンに掠ってくれたらしい。
(勉強できるキャラか……。まあ、馬鹿にされないように頑張るつもりではいたけれど)
特待生というラベリングを受け、ラゼは自分がどういうキャラクターで行くのか方向性が一気に固まった。
前方から「すごーい!!」と熱い視線を送ってくれるフォリアもいる。
庶民で入学したからには成績も良くないと、貴族サマに相手をしてもらえないので、ハブられない程度に頑張るつもりではいたが、これは期待に答えて上位を狙っていったほうが良さそうだ。
(目立つことは極力減らしたかったな。……なかなかうまくいかないなぁ)
慣れない任務に戸惑うものの、ラゼは貴族サマたちに目をつけられないように頑張ることを決めるのだった。




