54、酒は飲んでも飲まれるな
突っ込みどころ満載の、茶番回でございます。
温かい目でお読みください……
【今回出てくるキャラ紹介】(応急処置&おまけ)
・ジュリアス・ハーレイ…身体は男性、心は乙女。のラゼと同じくシアン皇国軍討伐部に所属するオネェさん。「ジュリア」と呼ばないと怒る。
・セルジオ・ハーバーマス…今回初登場。技術者。魔石を使った道具を作らせれば右に出るものはいない。「死神の玩具屋」ラゼには甘いらしい。
・ヨル・カートン・フェデリック…魔物や害獣を研究している生物学者。研究大好き。ラゼLOVE。「白衣を着た悪魔」※女性
・クロス・ボナールト…大尉。ラゼの副官。世話焼き。得意型は炎。(実はラゼが在学中に昇級しないかと声をかけられており、上司が年齢のせいで昇級できないのにそれを受け入れて良いのか悩み中)
・ハルル・ディカード…中尉。ラゼの部下。クロスとは同期。戦うの大好き。好き勝手に戦わせてくれるラゼも慕っている。
・ビクター…ラゼの部下。まだまだ下っ端。家は貴族。五三七特攻大隊に入隊してから日が浅い。ラゼ(牙狼)に憧れているらしい。
・フレイ・カンザック…ヨルのオカン、ごほん、助手。怒ると怖い。
・ラゼ・オーファン(グラノーリ)…一応この物語の主人公。友人のフォリアを天使、カーナを女神と慕っている。(最近、部下がよくお菓子やら服やらを差し入れてくれて、戸惑うが嬉しい。お返しを考え中)
「……目を覚ましなさいよっ…………。わたしと婚約するって約束したじゃない!!」
そこには安らかに目を閉じた少女が横たわっていた。
彼女の手を取り深刻な表情でそう呟いたのは、女性にしては骨張っていて、男性にしてはあまりにも綺麗なジュリアス・ハーレイ、その人である。
カノジョのその言葉に部屋は静まり返り、バタンと扉の閉まる音に皆ピクリと反応する。
そこには、愕然として目を見開く男女が。
まだ幼い顔に満足げな微笑を浮かべて眠るその少女を知る大人たちは、ジュリアスの言葉を聞き、揃って息を飲んで目を見開く。
そしてーー
「「「はぁ?!!」」」
その意味を飲み込んだ男たちーーつまりは、長椅子で寝ているラゼ・オーファンの仲間である軍人たちは、すっかり酔いも醒めて驚嘆した。
青天の霹靂とはまさしく、このことを指すのであろう。現れたばかりの男女ふたりは、言葉も出ずに、ただただ口をパクパクさせる。
「んん。……て、んし、が……」
渦中の少女は、そんな声にも目を覚ますことはなく、ぽつりと寝言を溢した。
「天使?! ダメよ、ラゼ! そっちにイっちゃ!!」
その言葉を聞き漏らさなかったジュリアスは、わざわざその瞳に涙まで溜めて演技を続けるが、彼らはそれを気にしているどころでは無い。
「「「こ、婚約ぅうう?!!」」」
部下や仲間たちは、声を揃えてミステリーワードを叫んだ。
来店したばかりの男女、セルジオ・ハーバーマスとヨル・カートン・フェデリックは、わなわなと震え出す。
「俺のラゼは誰にもやらん!!」
「貴様ぁ!! わたしのラゼを誑かしたな?! そして玩具屋、ラゼはお前のものじゃない!!」
貸し切られた夜の酒場は、いつになく騒がしかった。
*
「……面倒な人たちが来ちゃったぞ、大尉」
「言うな、ハルル。触らぬ神になんとやらだ」
ラゼの側で事態を見守っていたクロスは悟ったような顔つきで、褐色の肌に銀髪を無造作に結った三十代くらいの男「死神の玩具屋」と「白衣を着た悪魔」という二つ名に相応しく白衣を着た黒髪の女性が店の中に入ってくるのを見つめる。
ちなみに既にジュリアスの周りでは、尋問が行われていた。
「ジュリア少佐、嘘ですよね?」
「ぜってぇ、嘘だな」
「飲み過ぎたんじゃないか?」
「ジュリアス、その冗談は面白く無いぞ」
「あんた、付き合うなら男じゃ無かったのかよ」
「おい、コラ。今ジュリアスって呼んだやつ誰よ?」
ジュリアスの迫真の演技(茶番)が始まった舞台は、〈月の滴亭〉。
めでたく天使が想い人と結ばれた喜びを持ち帰ったラゼ・オーファンは、急遽、任務や訓練が終わり暇な仲間を集め、祝いの会を開いていた。
ラゼも、自分が然程酒に強くないことはわかっているはずなのだが、今日ばかりはと調子に乗って度数の高い酒を飲み過ぎた結果、この通りダウンしている。
「だ、代表って、酒強くないんですね。なんか意外です」
「ビクター。気になるのはそこなのかよ!」
寝ているラゼを見たビクターの感想に、ハルルは笑いながら突っ込んだ。
「代表は、一応今年成人したばっかりなんだぜ?」
「いや。まあ、そうですけど。訓練があるじゃないですか。それに、あの代表ですよ? 何でも強そうなイメージでした」
「まあ、それなりに訓練されるけれど、代表の場合、飲んだフリをして外に捨てれるから。酒は特には強くないみたいだね」
クロスの説明にビクターはなるほど、と納得する。得意型は一見パッとしない移動系にも関わらず、この国随一の実力者である上司の応用魔法起動は底が知れない。まだまだ若いし、そのうち「時間移動」なんて御伽話のような魔法まで使えるようになりそうだ。全く、いつになっても追いつけなさそうな人である。
「……にしても、ここまで酔う代表は珍しいけどな……。きっと凄くいいことでもあったんだろ」
クロスは上着を脱ぐと、丸めてすやすや眠るラゼの頭の下に置いてやる。こうして見ると、やっぱり彼女は普通の少女だ。
ここ数日どこか元気が無かったので、いきなり「今日は祝いだ!」なんて大声を上げて登場したラゼを見たときは驚きはしたが、安心したものだ。
クロスの眼差しは、まるで家族を想うような優しいものである。
「ジュリア。わたしのラゼを狙おうなんていい度胸だね?」
「……お前のラゼじゃねぇだろ」
「はぁ?! さっきから、あんた調子乗り過ぎじゃない? ラゼにデレデレしやがって、この変態機械オタクが」
「あぁ?!」
すぐ側ではいい大人が口喧嘩をしているが、クロスの眼差しは変わらず優しいものである。
「ふふっ」
ヨルとセルジオが言い合う中、ジュリアスは余裕な笑みを浮かべる。
笑われたと分かったふたりはギロリとジュリアスを見たが、カノジョはにこにこしている。
「婚約を申し込んできたのはラゼよ?」
その証拠に、とブレスレットを見せるジュリアス。
「これ、ラゼからもらったの」
語尾にハートが付いているのが、目に見えるようである。
「婚約破棄イベントがあるなら、先にやってしまおうプロジェクト」を本気で実行中だったラゼ。その相手に選ばれたのが、ジュリアスな訳だ。
「う、嘘だ……」
「わたしだってラゼにプロポーズしたのにッ! なんでジュリアなの!?」
カノジョの前に、崩れ落ちるシアンの鬼才たち。
「え。フェデリック教授って、まさか男性だったんですか?」
「……」
「……違うぞ、ビクター」
ヨルの言葉を聞いたビクターが驚いた顔でハルルに問う。ハルルは目を丸くし、クロスが答える。ふたりは若干ビクターが心配になった。
「……ねぇ、ラゼ。嘘だと言ってっ!」
ヨルは寝ているラゼに涙目でしがみつく。
このシーンだけを見れば、それは少女の最期を看取る感動的なクライマックスだっただろう。
実際は、ただの茶番であるが……。
「わたしの何がいけなかったのッ。やっぱり、性別なのね?! そうなのね?! わたしの体が女なのがいけないのね?!
…………出直してくるわ……」
覚悟を決めたような真剣な声色。
「なあ、あの人、酒飲んでたっけ?」
「いや。来てから一滴も酒なんて飲んでないぞ」
ハルルは思わずクロスに尋ねたが、ヨル・カートン・フェデリックは素面である。
「出直してくるって。もしかして、性別を変える薬なんかがあるんですかね?」
ビクターの呟きに、ハルルとクロスがばっと彼を振り返った。
「お前、なんて恐ろしいことを?! そんなのあるわけ……」
ハルルの言葉はそこで一度止まる。
「おい。クロス。そんなのあるわけないよな……」
「……」
「なあ、クロス。頼むから否定してくれ」
そうこうしている間に、やる気に満ち溢れた白衣を着た悪魔が立ち上がる。
「待ってて、ラゼ。今、生まれ変わって、王子が助けに行くからね」
白衣をはためかせ、彼女は颯爽と踵を返す。
ーーが、
「……ラゼさんに誘われて酒場に行ったっていうから、心配して来てみたら……」
「フ、フレイ……」
そこには彼女のオカンこと助手のフレイ・カンザックが仁王立ちしていた。
「教授。僕、いつも言ってますよね? 冷静な判断と倫理を弁えてくださいって?」
心なしか、彼の背後には黒いオーラが漂っている。
「あ、はははハハ……」
苦笑いをしてその場を誤魔化そうとしたヨルであったが、その後フレイに連行されて帰宅した。
これで少しは落ち着いたか、と思ったクロス。
しかし、残念ながらまだ問題児は残っている。
今度は、それまで項垂れていたセルジオが徐に立ち上がる。
「よし」
意欲に溢れた眼光に、嫌な予感しかしない。
彼は懐から何か取り出したかと思えば、ジュリアスの前に立つ。
「お前、ちょっと測らせろ」
セルジオが手に持っていたのは、メジャー。
「なーに。わたしの体に惚れちゃった?」
「気持ち悪いこと言ってんじゃねぇよ。お前にラゼをやるくらいなら、俺が作る機械人形に嫁がせたほうが百倍マシだ」
「「「………」」」
シャッと、メジャーの紐が引き出される音が沈黙を支配する。
「少佐」
そこでポン、とジュリアスの肩に手が置かれた。
ジュリアスが振り返るとそこにいたのは、ラゼの副官であるクロスだった。
「聞きたいことは山々だけど、それは代表に聞くとして。
………とりあえず、ここから逃げてください」
「……うん。わたしもそうしたい……」
それを合図にジュリアスは店の出口を目指す。
「逃すか!!」
服に仕込んでいたらしい蛇のようにうねる鎖が、カノジョを狙う。
「させるかよ」
ハルルは水の刃を生成し、それらを弾く。
他の隊員たちは、店に被害を出さないようにする班と足止め係にすぐに別れる。
「どけ、お前ら」
蛇の鎖を生やすセルジオは、邪神のようだ。
「何としてでも、代表の未来を守るぞ!」
「「応!!」」
クロスの声かけに、男たちは応える。
「てんしとめがみ、ムニャムニャ……」
ラゼが寝言を言う隣で、攻防が始まる。
夜はまだこれからだったーー。
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