53、フォリアとゼール
お待たせいたしました(汗)
フォリアとゼールがついに!、な回です。
お納めくださいませ!
フォリアが次に目を覚ましたのは、月光差し込むベッドの上。
「あ、れ?」
どうして自分がそこにいるのかすぐに思い出せず、彼女は呆然と起き上がろうとして、左手に温かいものを感じる。
なんだろう、とそちらを見てみて、フォリアは危うく声を上げるところだった。
(ゼ、ゼール様!?)
そこには自分の手を握ったまま、ベッドに伏せて寝ているゼールの姿があった。
彼がこんな風にして無防備に寝ているのを初めて見たので、そのかんばせに心臓がどきりと音を立てる。
早まる鼓動を押さえながら、彼女はあれだけ危ない状態にあったゼールの無事を確認して安堵した。
彼に握られた左手に、無意識に力がこもる。
そして、それに反応するように、ゼールの手がぴくりと動いた。はっと目を覚ましたゼールは、新緑の瞳を見開く彼女を見つけるや否や抱きしめる。
「フォリア!」
「ふぇ!?」
まさかの出来事にフォリアは目を白黒させた。
普段、感情をあまり表に出さない彼のことだ。抱きしめられるなんて想定外。神官にしては鍛えられた男の体つきに、みるみるうちに顔が赤くなる。
「心配した……」
ゼールの呟きをすぐそこに拾って、彼女の胸はぎゅっと締め付けられた。彼の声はあまりにも切なく、自分を想ってくれているものだと分かってしまった。
「ゼール様。お体は? もう平気なんですか?」
無理をして魔石の起動をした自分と違って、彼は明らかに重症だったのだ。冷静になって、フォリアはまずそれを尋ねる。
しかし、その問いを聞いたゼールはフォリアから体を離し、それから険しい顔で彼女に言った。
「人のことより、自分のことを心配しろ。四日も目を覚さなかったんだぞ?」
「えっ?」
フォリアは驚いた。自分がつい数時間前だと思っていた出来事は、どうやら四日前の話らしい。周囲を見渡してみれば、今いる場所は教会でもなく、彼女は目を瞬かせる。
「わたし、そんなに寝てたんですか?」
「ああ。力を無理やり使った反動だそうだ。起きるのを待つことしかできなくて、本当に心配した」
好きだと自覚した彼の真摯な瞳に見つめられ、フォリアは言葉が出てこない。頭の中でぐるぐると思考を巡らせ、やっと出てきたことは、気を失う前に聞いた声の主のこと。
「あ、あの。もしかして、わたしが気を失っている間、ラゼちゃんが来ませんでしたか?」
「ラゼ……? ……ラゼ・グラノーリか。そんな報告は受けていないが?」
「そ、そうなんですか? 気のせい、だったのかな……」
だが、確かに誰かに抱き留められるような感覚があったはず。フォリアは少し考えたが、答えは出なかった。
どこかぎこちない沈黙が、ふたりの間に流れる。
「……その、」
口火を切ったのはフォリアだった。
「ゼール様がご無事で、本当に良かったです。心配してくださり、ありがとうございました。
……わたしは、いっつも助けてもらってばっかりです」
苦笑した彼女の表情は、儚げで。
月の光に照らされたフォリアを見て、ゼールはグッと拳を握った。
「そんなことはない。俺は、フォリアの力がなければ今頃死んでいた」
彼は視線を落とす。
そう。ゼールはあの時、本気で死を悟った。
体は全く言うことをきかなくなり、次第に呼吸は困難に。そして意識は夢とうつつが分からなくなった。いや、あれは夢現という話ではなく、あの世とこの世の狭間にいたのだろう。
向こうに足を持って行かれそうになって、見たものは、自分が望んだものは、今目の前にいる彼女。
——俺のいない世界で、幸せにならないでくれ。
それが、彼が腹の奥に隠していた本音だった。
彼女を学校に通わせる手伝いをしたのは自分なのに、自分の知らない話を楽しそうに話すフォリアが気になって仕方なかった。
バトルフェスタなんてものに彼女が出ることは当たり前だと分かっていながら心配で仕事は手につかず、また、そこで見た彼女がまるで別人のようだったから、心は焦った。
どんどん、自分の元から離れていってしまう。
それも困ったことに、フォリアへの愛しさは膨れ上がるばかりなのだ。
自分でもどうかしてると思うが、いてもたってもいられず、結局のところ学園に乗り込んでしまった。
彼女の近くにいられることは嬉しかったが、周りにいるのは金の卵たち。同級生たちと学園生活を送るフォリアは、あまりにも眩しすぎた。
一体何度、自分も学生として彼女の側にいられたらと考えたことか……。
それでも。
今の自分だからこそ、出来ることもある。
フォリアが笑って暮らしていてくれれば、それ以上にゼールが求めることは無かった。
彼女は毎日のように礼拝堂を訪れ、微笑みかけてくれる。その笑顔を見られれば、それまで考えていた雑念なんて簡単に吹っ飛んだ。
これからも、ずっとこうしていられればいいと、彼はそう思っていたのだ。
おのれの死を前にするまで。
「……フォリア」
「はい」
「俺を助けてくれたのは、間違いなくフォリアだ。そして、もう気がついていると思うが、その力は〈浄化〉の力。使用者は滅多に現れず、まだ解明されていないことが多い魔法だ。
……狙われてもおかしくない……」
「……そう、ですよね。で、でも。わたし、この力を使えるようになったこと、ぜんぜん後悔してませんよ! やっとゼール様を助けることができたから」
フォリアの屈託のない純粋な笑みが、ゼールに突き刺さる。
彼はもう迷わなかった。
彼女の手を、優しく、そして強く握った。
「フォリア。君のことを俺に守らせてくれ。
これから、ずっと。何があっても側にいたい」
懇願するように見上げられ、フォリアは息を飲む。
「……っ。そ、それは……。わたしが弱いから、ですか?」
そう答えたあとに、なんて自分は可愛げのない子なんだろうとフォリアは思ったが、そう問わずにはいられなかった。
もう、守られるだけの少女では居たくない。
同情で優しくされたくなんてなかった。
昔は、ひと目見れるだけで嬉しかったのに、いつからこんなに欲張りになったのかは自分でも分からない。
ただ、フォリアは望んでしまったのだ。
彼の隣に立って、彼に認められるような女性になりたいと。
不安そうなフォリアに、ゼールは首を横に振る。
「強いも弱いも関係ない。そんなものは捉え方次第だ」
彼の低い声は、静まり返った寝室に染み込んでいく。
一呼吸おき、ゼールは言った。
「弱いから守りたいんじゃない。フォリアだから。君が好きだから、守りたいんだ」
その言葉を理解するのと一緒に、フォリアの瞳から涙が溢れる。
泣かれるとは思っていなかったゼールは目を見張るが、言わずもがな、嬉し泣きだ。
フォリアは驚きで自分の手から離れていくゼールの手を、繋ぎ止める。
「わ、わたしも。わたしもゼール様が好きです。だから、あなたを守りたい。まだ、力不足かもしれないけれど、これからもっと頑張るから……こんなわたしでも、あなたの側にいてもいいですか?」
「っ。勿論だ。嫌って言っても離さないからな」
「それは、わたしもですよ?」
反対の手で涙を拭いながらそう言ったフォリアには、不敵な笑みが浮かんでいた。
***
「グスッ」
モルディールの屋敷で、鼻をすするような音がぽつり。
光を吸収する特殊な黒いマントを羽織った娘がひとり、フォリアとゼールがいる部屋の前から屋根の上へと移動しながら、感動に溢れる涙を拭っていた。
はらりとフードが外れて中から覗くのは、長い前髪をオールバックに結んだ茶髪茶目の軍人少女。
「ううっ。フォリアっ。良かったねぇっ」
そう呟いて涙腺を崩壊させたのは、ラゼ・オーファンである。
念のためもう一度言わせてもらうが、セントリオール皇立魔法学園に潜入していた、あの軍人、ラゼ・グラノーリもといラゼ・オーファンである。
彼女、フォリアを聖女と慕っているだけあって、意識が戻らないと聞いてから、実は毎日のようにフォリアの元に通っていた。
浄化の力を狙われては危険なので護衛しているというのは、今の彼女を見てしまえば、残念なことに言い訳と見做されるだろう。
「尊すぎるよ。何なんだ、あれ! これはリアルなのか? 二次元なのか?! 青春かよっ?!」
誰にも見られていないことをいいことに、ラゼは屋上で悶えだす。
彼女もそれなりの理由があって、軍人という命をかける仕事を選び、任務をこなしているわけで、こうした出来事は彼女にとっては最早、崇拝に値する。
(カーナとルベンもアツアツな青春はしていらっしゃるが、これとはまたお話が別である)
「なんだよ、枢機卿。ただのフォリア馬鹿だと思ってたのに、いいこと言うじゃん。あ、フォリア馬鹿だから言えたのか? ……いや、まあ、それはどうでもいいや。とりあえず、フォリアおめでとう。今日はお祝いだな!」
彼女は高まる鼓動に足取りも弾ませながら、月が見守る夜を飛ぶのであった。
ゆっくり更新になってしまいますが、これからもお付き合いくださると嬉しいです!
ちょっとだけ、今考えている今後の展開を述べさせていただきますと……。
フォリア(ヒロイン)がゼールと結ばれたということは、くっつけなかった方がいらっしゃいましたね……。ゴニョゴニョ……。という感じです!笑
今回もお読みくださり、ありがとうございました!




