40、怒涛の休日
定期考査恒例のマリーvsノーマンの対決は今年度もノーマン一位でスタートを切った。
ラゼはというと、
「すごい。また一位なんだね、ラゼちゃんとアディス様!」
フォリアに言われて、彼女は顔を青くする。
(思い出させないで欲しい……。彼の独壇場にしてしまうと、後で閣下に何を言われるか分かったもんじゃないんだから……)
直々に息子さんについて語られているので、そこは意を汲んで対応しなくてはならない。
ウェルラインとしてはアディスに学園で頑張って欲しいようだし、何より自分自身が負けたくはなかった。
生まれも、育ちも、顔も、肉体も、頭脳も、剣術も、魔法も優れているとは。
天は二物を与えずとは、二物ではなくそれ以上与えちゃいますよという意味なのではないだろうか?
バトルフェスタについてラゼは手の内を明かすことはできないので、定期考査で負ける気は少しも無かった。
「二人とも学園祭の仕事があるのにすごいね。わたしは点数が落ちちゃったよ」
しょぼんとしてしまったフォリアを見てラゼは慌てる。
「まだ次があるから大丈夫だよ。元気出して! 甘いものでも食べに行こう?」
「うん。そうだよね! とりあえず今はバトルフェスタを目標に頑張るよ!」
こういうポジティブさがヒロインに相応しいと思いながら、彼女も次に待ち受ける課題を脳裏に浮かべた。
二週間の休みで、学園祭の打ち合わせで集まる日が三日。
オフシーズンの冬ならば、それくらい簡単に時間を取れるのだが、残念なことに日が高い季節は忙しい。
自分にしか出来ない仕事があるので、下手すれば二週間以上かかる仕事量が降ってくる。
「私も頑張る」
人とはまた違うバトルがすぐそこに迫っていた。
*
「ボナールト大尉、おはよう。お疲れ様。そしてこれからよろしくお願いします」
帰省して真っ先に自分の執務室に転移したラゼ。戦いは既に始まっている。
「私、どうしてもこの日は学生に戻らないといけないから、把握しておいて欲しい」
「は、はい」
戻って来て早々、慌ただしく作業を始めるラゼに呆気に取れながら、クロスは彼女が戻って来たことに喜びを感じていた。
「あの、代表。学校は——」
土産話も楽しみにしていたクロスなのだが、報告書に高速で目を通す彼女からは、少し殺気に似たようなものが漏れており、口をつぐむ。
ふと目線を下げるとラゼから受け取った紙には「死んでもこの日は仕事をしない!!」と大きな文字が。
「え。三日間もですか?!」
三つ並んだ曜日に、クロスは思わず声を上げる。
副官を勤めている彼だからこそ、この二週間の帰省がどれだけ貴重な時間なのか彼は知っている。
何せ、ラゼ・オーファンはこの国のエースオブエース。生きる伝説なのだ。
与えられる任務は危険度も難易度も馬鹿にならない。
「学園祭の打ち合わせがあるんだ。メンバーはフルVIP。行くって言っちゃったからには、天地が翻っても行くしかない」
「代表……」
覚悟を決めたラゼは、戦士の目をしていた。
彼女は次に、自分の任務報告のために参謀本部に向かう。いつもなら乗り気がしなくて、直ぐに行けないのだが、この時のラゼは違った。
「早いな。さっき終業式が終わったばかりだと思ったんだが?」
「ハッ。時間には限りがありますので、一分一秒たりとも無駄にはできません」
「それもそうだね」
果敢に死神閣下と対峙する。
さっさと本題に入って、さっさとお暇させてもらう。
報告を終え、ラゼはウェルラインの言葉を待つ。
「これが休み中にやっておいて欲しいことだ。まだゾーン15については未開な部分が多過ぎる。こちらを優先し、フェデリック教授と研究を進めてくれ。あと開発部からも色々と打診があった。意見が聞きたいようだから、そちらにも顔を出して欲しい」
「かしこまりました」
そうと決まれば、後は片っ端から終わらせるのみ。
彼女は自分のデスクに戻ると、早速スケジュールを立てて行く。
「よしっ。じゃあ、だいたいこれで動くから。後は頼んだ!」
「ハイ」
ラゼはまた別の部屋に移ると、戦闘服に着替える。
初っ端からバルーダに行くのも、本当ならやりたがらないことなのだが、目の前に佇む障害はとにかく排除するのみ!
ゾーン15に転送されたラゼは、学園で動き足りなかった分を取り返すかのように、新種だろうがなんだろうが倒しては魔石を回収し、回収したら調査書を書き、書き終えたら必要そうなサンプルをバルーダにあるシアンの拠点に転移させる。
それを繰り返すこと数日、数十回。
「家に帰りたい。美味しいご飯が食べたい。ふかふかなベッドで寝たい。湯船に浸かりたい……」
オルディアナからバルーダに来るには、必ず国の転移装置を通って来なければならないため、彼女はロスを省くためにバルーダの拠点で寝泊りしている。
休みのはずなのに、休めない。
だが、これは楽しい学園生活を得た代償。
学生らしく友人と休日に会って、楽しく青春したいんだ! とラゼは歯を食いしばる。
「魔物のくせに罠とか張ってるんじゃない!!」
遠征最終日。
オルディアナとは全く異なる生態系にもそろそろ慣れたと思っていたのだが、まだまだバルーダの奥は深い。
彼女は剣と銃を振り回しながら不満を糧に調査を進めていた。
学園で楽しくお勉強していたラゼ・グラノーリはそこにはいない。トレードマークになりつつあった前髪の編み込みなどせず、戦闘の邪魔にならないようにオールバックでひとつに髪を束ねるのみ。
いつだったか、フォリアに髪を伸ばした姿が見たいと言われたが、長いと乾かすのにも時間がかかるし、傷みやすいので、結べる程度までしか伸ばさないのだ。
彼女は倒した魔物の額から、小さく輝く石を取り出して魔法で拠点に送る。
魔物は人間を食べることで知恵を得るはずなのだが、奥に進めば進むほど、どうにも頭を使って生息している個体が増えている気がしてならない。
(今それをヨル教授に言ったら、絶対帰してもらえない……)
ラゼは彼女が気がつくまで、まだ黙っておこうと心に決める。
きりが良いところまで調査を終えて、ラゼは拠点に移動した。
「お疲れ様です。代表殿」
「お疲れ様です……」
これでやっとオルディアナに帰ることができる。
彼女はシャワーを浴びてから、転移装置に乗って人が住むべき大陸へと帰還した。




