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【web版完結】軍人少女、皇立魔法学園に潜入することになりました。〜乙女ゲーム? そんなの聞いてませんけど?〜  作者: 冬瀬
軍人少女、皇立魔法学園に潜入することになりました。〜乙女ゲーム? そんなの聞いてませんけど?〜
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33、ヒロイン昇格?



バトルフェスタは、三年A組の先輩が優勝して幕を閉じた。

ラゼの前に現れた怪しい女については、禁術が使えないと侵入が不可だったのか、その後動きはない。

通常授業が始まって、ラゼは程々に勉強を頑張りながら学園生活を送っている。

セントリオールにも大分慣れたので、ゲームのイベント以外は特に変わり映えしない普通の毎日。

授業が終わると、フォリアとカーナ、又はどちらかと図書館か寮に戻るのがお決まりだ。

ただ最近変わったことと言えば、


「ラゼちゃん。礼拝堂に行ってくるね」

「いってらっしゃーい」


フォリアが朝、手紙を書くことが無くなり、礼拝堂に足繁く通うようになったこと。

彼女の弾んだ足取りを見送って、ラゼは頬を緩める。

その理由は簡単で、フォリア大好きゼール・イレ・モルディールが、聖職者として礼拝堂に勤務することになったからだ。

まさかご自分が学園にいらっしゃるとは。

愛の力とは恐ろしいものである。

当たり前のように見目がよろしいモルディール卿なので、すでにファンクラブというものが出来上がっている。

フォリアも無自覚でやきもちを焼いている様子で。こんな風にして礼拝堂に通っているのだが、彼は確実にフォリアのためにここまで来てしまっているので心配いらないとラゼは思う。

カーナは殿下とラブラブデートなので、ひとりになったラゼは廊下を進みながら、ハァとひとつため息をついた。


「ああ。何も掴めてないんだよなあ……。今、平和なのが逆に怖い」


ラゼは、未だに自分を殺しに来た犯人たちについての手掛かりを掴めずにいた。

こんなに手をこまねく任務は滅多にない。

何しろ情報が少なすぎる。

禁術を使ってきたことから、帝国の手のものの可能性が高いのだが、それを立証することができない。

せっかく魔法なんてある世界なのに、誰か何とかしてくれ、と思うラゼであるが、理事長ハーレンスも動いてくれているので音を上げることは許されなかった。

ひとりで寮に向かいながら、チラチラと降る雪を見あげた。

そこでふと訓練場で剣を振っている男子生徒がひとり、視界に入る。


「あれは、イアン様? 雪降ってるのに感心だなあ」


イアンが素振りをしているところを見つけたラゼ。どこか差し迫った雰囲気を感じ、足を止めた。

あっという間に季節は冬。

一ヶ月後には、もう冬のトーナメント戦が控えている。イアンもきっとそれに向けて鍛えているところなのだろう。

楽しい学園生活も一年が終わろうとしていた。

少しそれが寂しくて、ラゼはしんみりしながら再び廊下を進む。



「ちょっと、あなた」

「はい?」


とぼとぼ歩いていたところを気の強そうな声に呼ばれてラゼは顔を上げる。

そこにいたのは、制服のカスタムを最大限にドレス風になさったキラキラお嬢様。後ろにも女子数名が控え、まるでどこかの悪役令嬢みたいだ。


(ん? 悪役令嬢?)


ラゼは嫌な予感がする。


「もう我慢できません。特待生だからって、庶民が調子に乗ってるんじゃないわよ? カーナ様が優しくして下さっているのは、彼女があなたを可哀想だと思って同情なさっているから。頭が良いのなら、それくらい分かったらどうなの?」


(…………ウワァオ)


彼女は目の前の出来事に、開いた口が塞がらない。

まさか自分がこういう事に巻き込まれるとは。漫画の中だけの話だと思っていた。

もしかして、私はヒロインポジションに昇格したのか?!と心の中でちょっと喜んでみたり。


「ここは貴族の学園、セントリオールなの。身の程を弁えるのもお勉強じゃない? 庶民さん」


ごめんなさい。隠してはいますが、名誉貴族です。という言葉は飲み込んで、ラゼは大人しく話を聞く。

これは果たして、乙女ゲームのしわ寄せなのだろうか——。


「聞いていますの?」

「……ハイ。確かに私は心のお広いモーテンス様に甘えていたのかもしれません。が、彼女が私を友人と認めてくださっている以上、関わらないことはできません」

「なっ! 生意気な!」


(これだから温室育ちのお嬢サマは苦手なんだよなぁ)


標的が自分以外に向かないよう、ラゼはわざと挑発ぎみな言葉を返す。

これがもし、本来ならフォリアに起こるイベントであったのならば、自分が肩代わりする義務があった。

虐められるのは趣味じゃないが、こんな形なので軍にいるときも色々言われてきたから、ある程度のことには慣れている。


「身分の差というものを教えてあげるわ!」


令嬢はその言葉を残して退散していく。寒いのにわざわざ待っていたなんてご苦労なことだ。


これを機に一年C組のシフォン・ティム・ロトムを筆頭に、ラゼは嫌がらせを受けることになるのだが、どれも笑ってしまうような可愛い手ばかり。

定番の持ち物を傷つける系の嫌がらせは、転移魔法で荷物を持ち歩かないのでできないし、ぶつかって倒そうとしても軍人相手なのでびくともしない。


「なんなのよ! もう! 平民風情が!」


今日も今日とてラゼが嫌がらせスルーをしていると、後ろにシフォンの嘆きが聞こえた。

頑張っているのに、何だか不憫である。


「特待生」


歩いていると、ラゼを見つけたアディスが声をかけてきた。彼女のことを「特待生」と呼ぶのは彼くらいだ。


「なんでしょうか」

「殿下が探してた。またシナリオについて聞きたいみたい」

「わかりました。わざわざ連絡ありがとうございます」


殿下と和解し、ラゼは情報を提供するようになった。彼は得た情報を利用してカーナ様とイチャイチャする悪なので、カーナも(嬉しい)苦労をしていることだろう。


「で、彼女たちは?」


アディスは彼女の後ろに見えたシフォンを目で指した。


「ああ。私に身分社会について教えてくださっている御令嬢方です。とても勉強になっているので、お気になさらず」


ラゼは笑顔でアディスに答える。

彼女は特に彼が何かをしてくれるとも思っていなかった。

そんな態度にアディスも慣れてきたところだが、先日の大会で初戦負けしたラゼがどうしても気に食わない。


「特待生なんだから実力を見せれば、彼女たちも黙るんじゃない?」

「身分に実力は関係ないみたいですよ」


軍にいても、彼女が狼牙の称号を持つ者だと知りながら、張り合ってくる貴族の皆さんはいらっしゃる。現場を知らない者は特にその傾向が強い。

「では」とラゼはその場を後にすると、アディスは物言いたげな顔をしていた。








(やっぱり可愛くないよな。あいつ)


本人は「身分社会について教えてくださっている御令嬢方です。とても勉強になっているので、お気になさらず」なんて言っているが、つまり訳すと嫌がらせを受けているということだ。

最近、ラゼの周りをC組の女子がうろうろしていると思えば、そういうことだったらしい。

アディスはつい先ほどの会話を耳にするまで、ラゼが嫌がらせを受けている可能性すら気がつかなかった。

彼女の言い回しからすると、もっと前から気分がいいとは言えない言葉を浴びせられてきたのかもしれない。もしかすると、それ以上のことも……。


一番の問題は、ラゼが決して強がりで気にするなと言っていないことだ。

きっと彼女はなんでもない顔をして、知らないうちになんとかしてしまうのだろう。

アディスにはそれがわかる。

だから、可愛くない。面白くない。


——じゃあ、自分はどうする?


気にするなと言った、どこか食えない彼女を思い浮かべてアディスは考える。

それは一目置いているラゼに対してのちょっとした対抗心から来るものだったと思う。

嫌がらせを受けていることを気付かせない彼女も嫌だが、それに気が付けなかった自分はもっと嫌だった。



彼は踵を返すと、シフォンたちが消えたのと同じ方向に歩き出したのだった——。






(おまけ)アディスその後……


「ねぇ、君たち」

「ア、アディス様!」


シフォンは一体どうすればあの特待生の飛び出た鼻をへし折ってやれるか考えていたところ、アディスに声をかけられ、顔をぱっと輝かせる。


「どうなさったんですの?」


超優良物件を目の前に、シフォンの沈んでいた気分は上がった。

手が届きそうで届かない、そう表現するのが一番相応しいアディスから声をかけられたのだ。

嬉しく無いはずもない。

髪を耳にかけながら、少し上目に彼を見る。

アディスは笑った。


「————特待生が羨ましいからって、身分を盾にいじめるのってさ、恥ずかしいよね?」


ピシリ。

彼から放たれた言葉に、シフォンとその取り巻きが動きを止める。


「ね?」


もう一度語尾を強めたアディスの顔は笑っているが、銀の瞳は全くもって笑ってなどいなかった。

令嬢たちは真っ青になって、無言でコクコク頭を縦に振る。


「わかってるならいいんだ。統治学の勉強、頑張ってね」


アディスは黒さの滲む笑顔のまま、彼女たちを通り過ぎていく。

取り残されたシフォンたちは、ぶるりと身体を震わせた。それが寒さのせいではない事くらい、彼女たちにもわかる。

普段温厚な彼からは想像もしなかった、足のすくむような圧。

超優良物件のアディスが、この国をまとめる宰相の息子だということを今更ながらにシフォンたちは恐れを抱いた。

と同時に、自分たちが何をしていたか自覚し、「勉強、頑張って」などと言われたことが、どれだけ恥じるべきことなのかを徐々に理解していく。


「……も、戻りましょう」

「「はい……」」


傷心した彼女たちはその後、統治学の分厚い教科書と向き合ったそうだ。







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