27、それぞれの星祭り
「さあて、諸君。シアン皇国の国民として、もちろん今日が何の日か知ってるよね?」
戦闘服に着替えたラゼ・オーファンが第五三七特攻大隊の先頭に立ち、声を上げる。
彼女のまとう覇気は軍の「代表」と呼ばれる者に相応しく、自分より倍以上体躯が良い男たちを前にしても存在感というものがあった。
「そう。昨日から三日間が星祭りのメイン。中日の今日は一番の盛り上がりを見せるというのに、私たちがいるのは魔物たちのパラダイス!」
いつも以上に気合いが入ったお言葉だなーと、小さな隊長を見つめる仲間たちだが、久々に彼女と一緒に仕事ができるので士気は上がっている。
「私はぁ! 先日までの任務で、軍に足りないものを見つけた! ボナールト大尉! 何だと思う?!」
「え?! せ、青春でありますか?」
いきなり振られたクロスは苦し紛れに答えた。
「……くさいこと言うねって、違う! むさ苦しい軍団に青春求めてどうする! 私たちに足りないのは、癒しだ!!」
そう断言する彼女は、最近三時間睡眠しか取れていないので疲れが一周半くらいしてテンションが高かった。
「天使や女神に囲まれて、美味しいご飯を毎日食べるだけで、人とは強く生きることができる! そう言うわけで、今回の任務はノルマ制にします! 各自ノルマを達成した者からオルディアナに帰って、星祭りに参加するべし! 奥さんやお子さん、恋人に癒されて来い!! 彼女がいない奴は、これを機に当たって砕けろ! それ以外は祭りを楽しむこと! 〈月の滴亭〉にお金は出してあるから、好きなだけ飲んで食べちゃってください! 以上!」
「「おおーー!! 代表(隊長)ーー!!」」
羽振りの良い隊長に、男たちが吠える。
「さすが代表!」
「よっしゃあ。早く帰るぜ!」
「奢りとか、最高かよ!」
彼らは盛り上がった勢いのまま、ゴキゴキと関節を鳴らして戦闘態勢に入るが、パンパンと、ラゼが手を叩くと一瞬でその場は静まった。
「呉々も怪我をしないように!」
「「応!!」」
それを合図に、大隊はバルーダを駆け抜ける。
「やっぱり、代表はさすがだな!」
移動しながらハルルがクロスに話しかけた。
「そうだな。みんな生き生きしてる」
「それはお前も含めて、な?」
「ああ」
クロスは口角を上げると、炎の魔法で魔物を焼き払う。
「代表がいると、好き勝手やれるからな」
ハルルも楽しそうに笑った。
ラゼは自分の隊員たちに、マーキングを施しているので、危険を察知すればすぐに飛んできてくれるし、逆に安全地帯に送り返してくれる。
彼女のおかげで多少の無茶をしても、今まで生き延びてこれたのだ。
経験値も他の隊の倍のスピードで積むことができるため、ひとりひとりが中隊長レベルの実力を持っている。
「シアンの百鬼夜行」とは、まさしく彼らのことであった。
*
一方、フォリアとカーナは、シアンの首都で開かれる星祭りに参加していた。
沢山の屋台が並び、多くの人々で賑わう中、彼女たちも星祭り特有の衣装を着て祭りを楽しむ。
カーナの隣には変装したルベンがくっつき、フォリアに淡い恋を抱いた少年たちもどこか浮き足だって、祭りの空気に酔っている。
フォリアはというと、久しぶりに会ったゼール・イレ・モルディールからピンキーリングを贈ってもらって上機嫌。
友達と星祭りに行くと言ったら、「男か?」など色々尋ねられてなかなか許可が出なかったのだが、ゼールに沢山話しかけてもらって嬉しい。というピュアな思考回路でこちらも鈍感である。
「ん〜! おいひい!」
屋台の料理に舌鼓を打っては買い物をして、一行は祭りを満喫していた。
「フォリア、あれ見て」
「わぁ。可愛いですね!」
可愛らしいキーホルダーを見つけて目を輝かせる。
「三つ買ってお揃いにしない?」
「いいですね! あ、さっきラゼちゃんに似合いそうなお洋服も見つけたんですよ!」
「わたくしもバッグと靴を見つけたわ。今度買いにこようと思って」
ここにはいないもうひとりの大事な友を思い浮かべて、ふたりの話は盛り上がった。
「そういえば、ラゼちゃんの誕生日っていつなんでしょう?」
「わたくしも知らないわ。学校が始まったら聞いてみましょう」
「うん!」
ラゼにあまりいいイメージがない男子たちは、彼女を思ってはしゃいでいるフォリアとカーナを見て、顔を見合わせる。
「グラノーリって、どんな奴?」
ルカはフォリアに尋ねた。
「えっ。ラゼちゃんはね、凄く頭が良くて、周りがよく見えていて、いつも頼りになる凄くカッコいい友達だよ!」
「そうね。そこら辺にいる男性より、よっぽど頼りになる女の子。甘いものが大好きで、美味しそうにご飯を頬張るのはリスみたいで可愛いの」
「あ! それ、わかります〜! お土産、何を買っても喜んでくれそうだなぁ〜」
どうしてだか、敗北感を覚えた攻略対象者の方々。
後期が始まったら、もう少し彼女の評価を変えていく必要がありそうだ。
一足先にラゼに敵対心を向けていた死神閣下の息子、すなわちアディスは「女の子たちと星祭りに行く」と口では言っていたものの、実際には星祭り当日、自宅にいた。
「さあ。アディス。まだ行けるわよね?」
豪邸の庭に膝を着く彼は、目の前に立ちはだかる女性を鋭い目で見上げる。
「女の子に負けてちゃ、男としての威厳ってものがねぇ? 立ちなさいな」
アディスの身体は既にボロボロだったが、とある庶民の娘に本気を出して負けたことを思い出して立ち上がった。
「お願いします」
「よろしい」
剣を構えた息子に、彼女の唇が弧を描く。
彼女こそアリアンヌ王国の姫様で、「難攻不落の戦乙女」と恐れられたバネッサ・ラグ・ザース、その人である。
夫から息子の学園生活について聞き出していたバネッサは、潜入中の軍人少女にアディスが負かされていたことを知っていた。
自分に似て負けず嫌いなことは知っていたが、夫に似て無駄な争いを嫌うアディスはなかなか力を発揮しようとしなかったので、これはいい経験をしたのではないかと思っている。
まさか、自ら稽古をつけてくれと頼んでくれる日が来てくれるとは。
バネッサは息子の成長が嬉しくて、ついつい剣に力がこもる。
「アディスは、その女の子のことが好きなの?」
「っ! 違います!」
一体何を言い出すんだ、とアディスは剣を捌きながら反論する。
「え。そうなの? お母さん、強い女の子は歓迎するわよ?」
それはご自分が、乙女とは言えないほどお強いからですか?
アディスは言葉をぐっと飲み込む。
おしゃべりしながら余裕で剣を振るう母は、まだまだ現役で戦えそうだ。
「俺はっ。次当たった時に、またあいつに負けたくないだけですっ」
「そうなの〜? それじゃあ、お母さんを倒せるくらい強くなったほうがいいわ! そうしたら大抵の敵には勝てるから!」
「クッ!」
アディスは何とかバネッサの攻撃を受け止める。
言ってることは無茶苦茶な気がするが、事実なので何も言い返せない。
次に、横から水の弾丸が襲ってきて、アディスは辛うじてそれを避ける。
「そんなんじゃ、騎士団に入っても苦労するわよ〜」
バネッサのスパルタ稽古は、始業式ぎりぎりまで続くのであった。
*
「隊長、お先に失礼します!」
「うん。お疲れ様です! 楽しんで!」
「はい!」
ひとり、またひとりとノルマをクリアして帰宅する中、ラゼは全員が任務を終えるまで彼らを見守っていた。
それが終わったら、今度はひとりでゾーン15まで行き、どんな地形でどんな魔物が生息しているかを調査する。
それは今のところ、ラゼだけが許された仕事であり、彼女のおかげで安全に魔物討伐が行われていると言っても過言ではなかった。
「代表。終わりました!」
「よし。お疲れ。怪我はしてないね?」
「はい」
「じゃあ、ちゃんとシャワー浴びてからデートに行くように」
「おっす!」
最後のひとりを送り出し、彼女は自分の仕事に取り掛かる。
「今日はゾーン14から3キロまでを調べるか。早く終わらせて、今日は寝たい」
ラゼも自分にノルマを設けて、ゾーン14まで一気に移動した。
ここにはオルディアナにはいない、馬鹿みたいに強い魔物がうじゃうじゃいるのだが、彼女はそれをまるで肉を捌くようなノリで倒して前に進んでいく。
新種らしきものは、研究所にテレポートさせて、未知の地域は地図を作成する。
他の国もバルーダに進出しているが、ここまで中に入っているのは彼女くらい。人に会うはずもなく、移動のプロなので正体を知られることなく探索を進めることができている。
「んー。帰ったら地図を書き直さないと駄目だなー。いっつもアバウトで申し訳ないと思ってたんだけど、せっかくだから学園で地図の書き方覚えよう」
ラゼはだいたい作業を終えて、オルディアナに帰省した。
仕事を片付けて、自宅に帰ると彼女は倒れ込むようにしてベッドにダイブ。
まだバトルフェスタの警備について話せていないし、〈影の目〉のミッションが重なってしまったので、仕事が減らない。
「カーナ様たち、大丈夫か、な……」
ラゼはそのまま眠りに誘われていった。




