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【web版完結】軍人少女、皇立魔法学園に潜入することになりました。〜乙女ゲーム? そんなの聞いてませんけど?〜  作者: 冬瀬
軍人少女、皇立魔法学園に潜入することになりました。〜乙女ゲーム? そんなの聞いてませんけど?〜
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24、勉強会



星祭りを前にして待っているのは定期考査。

この学園では全ての教科の合計点が高い上位十名は、大廊下に張り出されることになっている。

ラゼは特待生として、十位以内を目指すことにし、日々勉強に精を出していた。


「ふぅ」


自室で勉強していた彼女はペンを置いて、一息つくと手を組んで縦に伸びる。

カーナを標的とした殺気についてはまだ犯人が分かっていないし、星祭りの長期休みで軍に戻ったらやることがてんこ盛り。


(帰ったら、お休みあげたいんだよな。大切なのは癒しだと身をもって学園で学んだんだから、部下にもフィードバックしないと)


自分のために部下たちが暴れたことを知らないラゼ。血気盛んな彼らは、そんなに力が有り余っているならとバルーダに送られて逞しく成長している。

彼らひとりひとりが強く、五三七特攻大隊を育てあげたラゼはまた評価されていたりするのだが、他にも彼女が評価されることは沢山あるので今更驚かれる事もない。


「ラゼちゃん! ご飯食べに行こう!」

「うん、わかった」


今日は土曜日。部下の予想通り、シャツにズボン姿のラゼはフォリアに呼ばれて食堂に向かう。


「テスト、心配だなぁ……」


リゾットを食べながらフォリアが不安そうに呟く。


「公式とか基本を押さえておけば何とかなるよ」

「それがたくさんあって大変なんだよ〜」


嘆くフォリアに、ラゼは肩を竦める。

こればかりは自分で頑張って理解し覚えてもらうしかない。


「うぅ。ラゼちゃん、お勉強教えて〜! わからないところがあり過ぎて、このままだと大変なことになっちゃいそうだよ〜!」


天使の悩みを見逃す訳にも行かず、また乙女ゲーのフラグが立ったことに気が付いたラゼはいいよと返事をする。


「あ、そうだ!」

「ん?」

「勉強会しようよ! カーナ様も誘って!」


こうなることは分かっていた。


「いいね。後でお願いしてみようか」

「うん!」


本来ならフォリアと攻略者数人で行われる勉強会だが、ここはカーナ様にも登場願わねば。


「いいわね! 他にも誘ってみんなで勉強しましょう。テストに出そうなところを共有するの!」


カーナに声を掛ければ、すぐに了承してくれる。

もちろん、彼女もこれがイベントだと分かっているので、殿下とのフラグを折りに行っているのである。


勉強会に参加したのは、彼女たち女子三人に加えてルベン、クロード、ルカ、イアン、アディスの五人。

ラゼは自分が場違いすぎて、辞退させていただこうかと悩んだが、カーナが調理場を借りてお菓子を作って来てくれるそうなので出席することに。

日曜日に寮のフリースペースに集まり、座席は二かける四でカーナ、ルベン、ルカ、フォリアと並んだ前にラゼ、アディス、イアン、クロードという配置である。

ルベンはカーナにぴったりだし、フォリアの周りはがっつり埋まっている。

ラゼの前ではルベンとカーナのいちゃいちゃが繰り広げられることは明白であり、隣には閣下の顔があるので心休まらず。


(心頭滅却……)


鋼の精神で自分の勉学に励むことに。

お菓子目当てで勉強会に参加しているラゼは、ひとり黙々と手を動かしていた。

それまでフォリアとカーナに夢中だった攻略者たちも、静かに勉強する彼女のオーラに本来の目的を思い出した様子である。


「必死だね〜、特待生。勉強なんてしなくても出来るんじゃないの?」


横から槍が降ってくるが、彼女にそれをいちいち相手している余裕は無い。


「成績上位に入れないと、退学なので」


さらりと言い流したが、その場は静まり返る。

ラゼ・グラノーリは特待生。全ての費用を学園側に支給されているため、特待生で無くなれば学園を辞めなければならない。

その後も淡々と勉強するラゼに、一同真剣に勉強することに。


「休憩にしませんか」


カーナの提案でひと休憩するまで、ラゼは一言も発さずノートを文字で埋め尽くした。

机の上を一度片付けていると、どこからか戻って来たカーナに「ラゼ」と呼ばれる。


「はい? むぐ」


振り返ると、彼女から口にクッキーを押し込まれ、ラゼはそれを頬張る。


「お疲れ様。美味しい?」


どうやら気を遣わせてしまったようだ。ラゼは咀嚼しながらこくこく頷く。

その様子を「リスみたいで可愛い」とカーナに思われているとは知らず、彼女はもぐもぐ口を動かした。

が、舌に痺れを覚える。


(毒?!)


耐性があるので、耐えられないことも無いが、これはかなり強い毒だ。手足が痺れ始める。

カーナが毒を盛るなど考えられなかったので、カーナを貶めようとするものがいると考えたラゼはすぐさま行動に移る。

カーナが持ってきたクッキーとパウンドケーキ、お茶に高等魔法をかけた。


(毒素を転移)


彼女の魔法に気づけた者はここにはいない。

寮の自室にあるボトルに毒を移したラゼは、お手洗いにと言って席を外す。

トイレに駆け込むと、今度は自分自身に同じ魔法を使うが、気持ち悪さはすぐに無くならない。


(一体、誰がこんなことを)


まさかこれが、シナリオの強制力というものなのか? もし毒入りのお菓子を出していれば、カーナの破滅への道は確実に進む。

ラゼはぞっとした。

カーナを悪役にしようとする何かがあるが、目に見えないものを相手するなど、勝算がない。


(そんなの駄目に決まってる。必ず犯人がいるはずだ。尻尾を掴んでやる)


いつも「ラゼ」と、優しい笑みで呼んでくれる友を失う訳にはいかない。

痺れが残る身体を動かして、ラゼはカーナたちのもとに戻る。

ルベンの隣で幸せそうなカーナを見て、ほっと息を漏らした。


毒抜きをしたカーナが焼いてくれたパウンドケーキとクッキーは格別だった。

ラゼはいろんな意味で勉強会に来て良かったとしみじみ思いながら、ドライフルーツたっぷりのパウンドケーキを食べる。


(これは流石に理事長に報告しないとな)


何としても金の卵たちを守らなければ。

カーナは、将来のお妃様。失うことは許されない。


「カーナ」

「んっ」


クッキーをカーナ様に食べさせる殿下。


「……」


ラゼの目の前でそれを見せつけてくるのは、わざとなのだろうか。

女にも嫉妬するとは。ルベン殿下、コワイ。

自分が〈皇の銃〉と知られれば、一体どうなることやら。


「そんなに見つめて君も食べさせて欲しいの?」

「もうカーナ様から頂いていますから、十分ですよ」


隣の女誑しも煩いし、勘弁して欲しい。







その日の晩。

ラゼは転移を使って理事長に会いに来ていた。

時の塔の一番上の階が、ハーレンスの部屋。

彼女は扉を叩く。


「オーファンです。夜分にすみません。お話が」


ガチャリと鍵が開いて、ガウン姿のハーレンスがラゼを迎えた。


「入りなさい」


彼女の姿を見てハーレンスは中に通す。


「次からは玄関に転移するといい」

「はい」


勝手に中に入るのは失礼だと思ったので、扉の前に転移したのだが、万が一にも姿を見られてはまずいので中に入れてもらえることに。

広い部屋に圧倒されながらも、ラゼは本題に移る。


「今日、殿下、モーテンス嬢を含む数名と勉強会を行った際に、モーテンス嬢が焼いたお菓子に毒が盛られました」

「なに」

「幸い、私が一番にそれを口にしたので殿下方が毒を摂ることはありませんでした。調べたところ、カーナ嬢が使用した砂糖に毒が混じったものがゴミ箱に廃棄されていたのを回収しました」


机に回収してきた毒物をおく。

ハーレンスは厳しい顔つきに変わる。


「恐れていた事が起こってしまったな」


今年は特に最大の注意を払って安全を確保していたのに、このような事態が起こってしまった。


(まさか本当に彼女の出番が来てしまうとは)


ラゼには学生として学園生活を楽しんで欲しかったのに、どうやらそれは難しそうである。

彼女を心配していたハーレンスは溜息を吐く。


「確証はありませんが、恐らくモーテンス嬢に罪を着せようとしている者がいます。先日殿下と彼女が仲睦まじいところに殺気を感じました」


「君が言うんだ。きっとその可能性が高いんだろう。目星が着くまで、この件はわたしと君で探る。負担を掛けるが頼むよ」


「ハッ」


姿勢を正して返事をするラゼを見て、ハーレンスは目を細める。

影では「不滅の亡霊」なんて通り名まで持つラゼ・オーファン。彼女は手足が無くなっても、物ともせずに戦い抜く戦士だ。

かつて病棟でラゼの損傷を見たことがあるハーレンスは、死を恐れないで戦う彼女に畏怖を抱いた。


身体の傷は治っても、精神的な傷は癒される訳では無いのに。


あの時からハーレンスは彼女をセントリオールに入学させようと決めていた。

そのままでは人格に問題が出てくるのでは無いかと不安に思っていたのだ。


しかし実際、彼女が入学してみれば、優等生で心配するところが何もない。

友人関係もうまくいっているし、しっかり任務もこなしている。

まるで彼女は小さな大人だ。

ここまで頼りになる人材はそういない。


ハーレンスはそう考えてハッとする。


(やめろ。彼女はわたしの生徒だ。道具なんかじゃない)


彼はじっと目の前にいる小さな少女を見た。

一体どうして、彼女がこの国最強の軍人だとわかるだろうか。

まだ十六年しか生きていない若い卵だ。

自分が気が付かないところで、彼女も苦労をして来ているに違いない。


「困ったら、すぐに相談するように」

「はい。ありがとうございます、理事長先生」


ハーレンスは照れたように笑って転移して行ったラゼを、複雑な心境で見送った。





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