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【web版完結】軍人少女、皇立魔法学園に潜入することになりました。〜乙女ゲーム? そんなの聞いてませんけど?〜  作者: 冬瀬
軍人少女、皇立魔法学園に潜入することになりました。〜乙女ゲーム? そんなの聞いてませんけど?〜
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11、ダンスのお時間




しばらくすると会場を流れていた曲が変わり、ダンスの時間がやってくる。


「ふたりは踊れますの?」


カーナの問いに、フォリアが困った顔をする。


「わ、わたし、一応練習はしてきたんですが、上手には踊れなくて……」

「大丈夫よ。お相手がしっかりリードしてくれるわ。ラゼさんは?」

「踊れはしますが、私には相手がいないので」


見るからに庶民の自分に声をかけてくる男子などいないだろう。


「わたしもいないから大丈夫だよ」

「え、そうなの?」


カーナの言い方から、フォリアには既に相手がいるのだと思っていたのでラゼは首を傾げた。

しかし、フォリアにならば直ぐに申し込みがありそうなので、自分の心配をした方がいい。


「カーナ嬢」


凛と落ち着きのある声がカーナを呼ぶ。

彼女の背後に、婚約者殿が現れた。


「で、殿下っ」


カーナは慌てて振り向くと、正装したキラッキラのルベン殿下に息を飲む。

すぐに耳が赤くなって、わかりやすい人だ。


「友人か?」

「ええ。同じクラスのフォリア・クレシアスさんとラゼ・グラノーリさんですわ」


カーナは髪を耳にかけながら、平静を装ってふたりを紹介する。

ラゼは慌てて頭を下げ、フォリアも後に続く。


「楽にしてくれて構わない。今は同じ生徒だ。これから、わたしの婚約者のことを頼むよ」


殿下は自然とカーナを抱き寄せる。

おいおい、あっつあつだな? とラゼは内心ツッコミを入れるが、そうなるとカーナ様が呟いていた言葉が益々謎を極める。


「カーナ嬢。わたしと踊ってくれるか?」

「え、ええ」


こくこくと頷いている彼女は、その様子を見て殿下が微笑んでいることに気がつかない。

ふたりが去った後、ラゼはフォリアと顔を見合わせる。


「甘過ぎて、砂糖吐きそうだわ」

「うん。とってもお似合いだよね。いいなぁ、わたしも……」


そこでハッと、フォリアが両手で口を塞ぐ。

それはまるで今まで自覚していなかった感情が、口から漏れてしまったのを止める行動に見えた。


「おっとぉ? もしかして、フォリアにも想い人が〜?」


すかさずラゼは切り込んだ。


「えぅ、そ、そんなんじゃないよ! こ、これは恋とかじゃなくて!! その、尊敬とか、憧れって感じで!!」

「うん、うん。よ〜くわかったよ」


生温かい目をしたラゼにフォリアが「違うのー!」と必死に否定を繰り返すが、ラゼは相手にしなかった。これは確実に黒である。

相手は、彼女にぴったりなドレスを何着と用意したモルディール卿と見た。

彼は確か今年で二十六歳。十歳差くらい可愛いものだ。


「応援してるよ。フォリアは可愛いんだから、学園にいる間、他の男に困ったら私に言うんだよ。すぐに何とかしてあげるから」

「う、うん……。って、違うんだよ〜!」


この学園にはやけに顔が整った生徒が多いので、押しに弱そうなフォリアが心配だ。


「あ、あの。もし、よろしければ僕と一曲どうですか?」

「えっ、」


そう思っていれば、ほら来た——。

ひとりが誘えば、「俺も俺も」とフォリアに男子生徒が集まってくる。


「わっ、えっと!」


あたふたしているフォリアは可愛いが、さすがに寄ってくる人数が多い。

助け舟を出してあげたいところだが、今はラゼも身分が無い身なので、「フォリア、ごめん」と謝罪だけ入れておく。

するとその輪の中に、誰かが割り込んで行く。


「彼女はオレと踊るんだ。悪い」


そう言ってフォリアを救出したのは、前騎士団長の孫イアン・マッセ・ドルーア。赤髪がトレードマークだ。

「ナイトじゃ〜ん」と、観察していたラゼは心の中で彼に拍手を送る。

確かに彼なら、フォリアをちゃんとリードして踊れそうだ。


(ん?)


何かが引っかかり、ラゼは眉を寄せる。


(カーナ様は、フォリアがイアン様と踊ることをわかっていた……?)


——いや、そんな予知能力なんて希少魔法が使えたら、軍から知らされているはず。

考え過ぎだろ、と思ってラゼは首を振るのだが、どうにもモヤが晴れない。


(今度それとなく聞いてみるか)


ずっとモヤモヤするのは嫌なので、時を見てカーナに尋ねようと決める。


彼女の目の前ではフォリアが緊張でカチカチになってイアンと踊り始めた。

彼は閣下の息子と違い、幼い時から剣の道を志しているからか、誠実な好青年として育っている。人懐っこい笑顔は、フォリアの緊張も徐々にほぐしてくれたようだ。

少し離れたところでは、殿下とカーナが息ぴったりでターンをしている。


(一日目にしては、随分と濃密な時間が送れたなぁ)


特にフォリアとカーナと友達になれたことは大きい。

なんたって、初めてできた同じ歳の女の子の友人だ。任務抜きでも大切にしたい。


「三年か」


ラゼはポツンと、どこか夢見心地で会場を眺める。

ひとりくらいダンスの申し込みがあったっていいと思うのだが、次こそ壁の花と化していた。


(——ああ)


密偵時代の癖で、何もしていない時は、気配を当たり障りなくその場に紛れ込ませてしまうことを彼女は忘れていた。

ダンスが嫌いではないが、好きでもないのでこのままで良いかと、ラゼは静かに煌びやかなドレスたちが花のように咲くのを見守る。



「楽しんでいるかい?」


そこに声をかけたのは、グラスをふたつ持った理事長ことハーレンス・ロイ・ビレイン。

まさか自分に声をかけられるとは思ってみず、ラゼは慌ててドレスをつまみ礼をする。


「君は……。頭をあげなさい。ここではそんな礼は必要ない。私のことも気軽に理事長と呼んでくれ」


グラスを差し出され、ラゼは「ありがとうございます」と言ってからそれを受け取った。

周りはダンスと会話に夢中で、得意型が幻術であるハーレンスが人目を避ける魔法を使っていることがわかり、ラゼは少しだけ肩の力を抜く。


「入学おめでとう。君とは話してみたいと思っていたんだ」

「理事長先生にそう言っていただけるとは光栄です」


チリンとグラスを打ち合わせ乾杯すると、ハーレンスは想像していたより小さな女子生徒をじっくり見つめる。


「写真で顔は知っていたが、本当に十五歳だとはな」

「よく幼く見られます。小さい方が有利なこともあるので、気にしてはいません」

「……そうか。それにしても、君の解答には驚かされたよ。大人顔負けの論述だった。さすがと言っておこうか」

「とんでもないです。私にはまだ学ぶべきことがあると常々痛感しております。このような形ではありますが、入学のご縁を頂いたからには学園でより知識をつけていく所存でございます」


ラゼの言葉は、普通の女子生徒が言うものでは無かった。

ハーレンスは少しだけ目を細める。それはどこか切なさを帯びていた。


(ウェルラインの言う通りだな)


目の前にいる彼女は、生粋の軍人だ。

国に仕える者の目をしている。

上官の前では、自分の意志など押さえ込み、ただ従順に与えられた任務をこなす。そんな硬い目だ。

ましてやラゼ・オーファンは、実力だけなら将軍クラスの逸材だ。

彼女自身、己の力を鼻にかけることはせず、良く自負している。

もし「君の成績は優秀だから、セントリオール皇立魔法学園への入学を推薦する」と言っても、彼女は受け入れないだろう。

ラゼは優秀過ぎる軍人だ。バルーダでの討伐には終わりなど無いに等しく、彼女が抜ければ大きな穴になる。


——仲間を危険に晒して、自分は学園に通う。

そんな選択をオーファンが選ぶとは思えない。


ウェルラインはそう言っていた。

そこで、宰相は彼女に見守り役という役目を与え、任務の一環としてラゼを学園に送り込んだのだ。

そうすれば、彼女が断れないことを知っていて。


(彼女もここにいる生徒と変わらない歳だと言うのに……)


理事長であるハーレンスは、任務としてラゼの入学を受け入れることについて反対していた。

それでは、真に生徒として学園生活を送ることができないと。

だが、今日実際に彼女を目の前にして、ウェルラインの言っていたことは正しかったと彼は思う。


「ちゃんと楽しむことを忘れてはいけないよ」

「はい。嬉しいことに、私にもさっそく友人が出来ました。三年間ではありますが、ちゃんと友人として彼女たちと仲良くしたいです」


ラゼはそう言って笑い、踊っている生徒たちの方に視線を飛ばす。


「……君は大人だな」


——物分かりが良すぎて、心配になるくらい。


そんなことはありませんよ、と謙遜するラゼを見てハーレンスは何も言わなかった。

主従の関係がある以上、自分にできることは少ない。そう思った。


「今度、またゆっくり話そう」

「是非。今日はお声をかけてくださり、ありがとうございました」

「いや。教師として当然のことをしたまで。君も一曲踊って行くといいよ」


では、とハーレンスはその場を去って行く。

どうやら一人ぼっちの生徒を気を遣って、話しかけてくれたらしいと、ラゼは気がつく。

辺りをよく見ると、先生たちはさりげなく会場に混ざって、生徒たちのフォローに回っていた。


この世界では、女性からダンスを誘うことは何ら珍しいことではないが、あまりにもこの空間が眩しくてラゼは一歩を踏み出せない。

任務であれば、我先にと魔物を切り裂いて進むのに、おかしな話だ。


踊れなくても、もう少しこの世界に浸っていたくて、彼女が理事長にもらったグラスをじっと見つめていると、



「飲まないの?」



ふと目の前に現れたのは、青い髪をセットして、閣下と同じ顔がよく見えるアディス・ラグ・ザース。


(!)


条件反射で背筋が伸びる。


「今はお腹が一杯で」


先ほど食べ過ぎたのか、腹が膨れているラゼは事実を伝えた。


「なら、貰っても? 踊り過ぎて喉が渇いてたんだ」

「え」


ハーレンスと乾杯してすでに一口飲んでしまったそれを、アディスが遠慮なく攫っていく。

「踊り過ぎて」とはやはり女の子たちを侍らせていたようだが、今は隠密の魔法を使っており他に誰も付いていない。


「ありがとう。なかなかお誘いが途切れなくて、やっと隙を見て抜けて来たんだ。ところで君は誰かと踊ったの? 特待生さん」


わざとらしい呼び方に、ラゼは内心イラッとする。

どう捉えても、挑発されているとしか思えない。


「いえ。あまりダンスは得意じゃなくて」


ハハ、と笑い返せば、


「ああ。相手がいなかったのか」


アディスはさらりと失礼な発言をかましてくる。


(おお、神よ。この子にしてあの親ありとは……。この家族は私に何か因縁でも??)


ラゼの拳に力が籠った。

——正直に言おう。腹が立つ。

が。彼女はぐっと溜飲を下げた。

庶民の自分が彼に楯突こうとは、この先が思いやられる。


「はい。お恥ずかしながら」


ラゼは言い返すことはしなかった。

「ふ〜ん」と返事をして、アディスはラゼの隣で壁に背を任せる。

きっと女の子たちを相手していて疲れているのだろう。

休憩スペース(壁際)に邪魔ものがいたから、こんなことを言われているのだと彼女は勝手に自己解釈する。


「何かお菓子でもお持ちしましょうか?」


お偉いさんのご機嫌取りには慣れている。

ラゼはアディスに尋ねると、彼は意外な顔をした。気を遣われるとは思っていなかったのだ。


「いらない。さっき十分貰ったから」

「そうでしたか」


もう最後の曲が流れ始めている。歓迎会はお終いだ。

常に視界に入れていたカーナとフォリアは、殿下たちと楽しそうに話しており心配は無さそうで一安心。立ち上がりは大切だ。


「あのさ」


ずい、とアディスの顔が近づき、ラゼは身構える。


「俺たち何処かで会ったことでもある?」

「何故?」

「いや。気のせいならいいんだ。次の機会にはダンスの相手がいるといいね」


最後に余計な一言を残し、アディスは再び人混みの中へと戻っていく。

ラゼはそれを見届けてから、ふぅと息を吐いた。


(あなたにではなく、お父様となら何度も顔を合わせてますよ)


彼の顔に畏ってしまうのが、アディスにも伝わってしまったのかもしれない。

直したいところだが、ラゼにとって「死神閣下」のかんばせは畏怖と尊敬の対象だ。

慣れるのには時間がかかりそうである。

いや、もしかすると一生このままかも……。


(あの顔に慣れろとか、無理だぁ………)


ラゼは美麗な顔を思い浮かべて、再び小さくため息を吐くのであった。






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― 新着の感想 ―
[気になる点] 『まぁ、実際ラゼは今年で十六歳を迎える姿ふつーうの娘だ。髪と目の色もどこにでも見かける茶色。』 というのが1話にあるのですが11話にて 『ハーレンスは想像していたより小さな女子生徒をじ…
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