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爺ちゃんの形見は世界の鍵でした。  作者: 柚木
五章 鍵の行方
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最終話 願い事

「どうやってメイヴィスの能力から抜け出したんだ? その毛玉がやったのか?」


「その通り、おいらにかかればあそこから出るのは余裕だよ」


 さっきの雷はあいつが出したのか……。


「お前から生まれた悪魔の力か。出てきたのは驚いたが、その程度で何かが変わるとは思えないがな」


「いや、変わるよ。さっき言ったよな、邪魔が入らなければ僕は怖くない。それってさ、邪魔があったら僕が怖いってことだよな」


「黙れ!」


「揺さぶるのが上手になったわね」


 ライアンの攻撃を氷美湖さんが受け止めてくれた。

 それが更にライアンを激昂させる。


「舐めるのも大概にしろ。俺は神の力を得たんだぞ。お前達程度、すぐに殺してやるよ」


「やっぱりヴァクダ様の力を奪ったんだ。フルフル、あいつを貫いて!」


 雷光がライアンを貫くが、帯電しながらも僕達をにらみつける。


「もっと攻撃して来いよ。格の違いをみせてやる」


「鬼石流薙刀術 白魔」


 雷の攻撃に紛れ、氷美湖さんが攻撃を仕掛けた。

 鋭い氷を纏った攻撃はライアンの皮膚すら切れずに終わった。


「神にそんな攻撃が効くと思ってるのか?」


 パンと弾けるような音と一緒に、氷美湖さんが遠くに飛んでいく。


「フルフルもう一度! かはっ……」


 レイラさんが悪魔の名前を呼んだ時には、悪魔は地面に埋まり、レイラさんの体には深く拳がめり込んでいた。


「残り二人だ」


「秋良、よくあいつと戦って無事でいられたな?」


「鍵の力です。焔さん、一瞬でいいので隙を作ってください。僕があいつから神の力を奪います」


「今生の別れは済んだか? 行くぞ」


 鍵に思いを乗せる。

 最強の力、ライアンには負けない力を願う。

 防御だけじゃなくて、目も耳も鼻も、全部を最大限強化する。

 これが終わればどうなってもいい、だからこいつを倒すまでもうこの力は解かない。

 向かってくるライアンを正面から受け止める。

 こいつの攻撃が良く見える。

 蹴り上げて僕から距離を取って焔さんを狙っている。


「受け止められたのは驚いたが、いつまで持つんだ? さっきまで使わなかったのは時間制限か制約があるんだろ? 何分持つ? 五分か? それとも十分か?」


「お前を倒すまでさ」


「減らず口を」


 ライアンは僕に触れる時間を可能な限り減らして攻撃を続ける。

 そうだ僕だけを見てろ、一番弱い僕にお前はムカつくだろ? いつまでもお前の目の前にいる僕を殺したいだろ? それなら僕だけを見て攻撃してろ!

 少しでも油断したらお前の喉元に食らいつくぞ!


「鬼石流居合術 奥義――」


 ライアンは焔さんの攻撃に一瞬気が逸れた。

 僕が囮で本命はそっちかと一瞬でも考えた。

 僕が対等にライアンと戦えている力が焔さんに渡ったと刹那の間に考えた。

 僕はそのわずかな隙を待っていた。


「鬼石流柔術 落葉」


 ライアンが奪われた一瞬を取り戻す動きに僕は合わせた。

 そのまま体勢を崩し、地面に投げる。

 さっきレイラさんにやったみたいに、ライアンの体に触れ強く思いを乗せる。

 ライアンの体から何かが飛び出したあれが神ヴァクダの力だ。

 これで、さっきまで見たいな桁外れの力は使えない。


「お願いします」


「――鍔鳴り」


 倒れるようにライアンの体から離れた。

 キンと小さな音が聞こえ、脱力からの最速の一太刀がライアンの体を通り抜けた。


 ライアンが消えるのを確認して力を解除する。


「――!!」


「秋良大丈夫か!?」


「は、反動なので……、大丈夫、です……」


 さっきまでの力の反動が一気に体を襲う。

 声にならない程の激痛に地面を転げまわりはしたが、辛うじて生きているらしい。

 たぶん後一分でも戦っていたら体が持たなかった。


「情けないですけど、帰りはよろしくお願いします」


「情けなくないさ、秋良がいなかったら残りの全員を倒せなかったんだからな」


「全員じゃないでしょ。私がまだ残ってるから」


 フラフラとレイラさんが立ち上がった。


「お前を倒す必要はないだろ」


「倒さない意味もないでしょ? さっきので死ねればよかったんだけどね。結局生き残っちゃった」


「レイラさん……、いいじゃないですか、無理に戦わなくてもいいじゃないですか!」


 レイラさんは僕を見てほほ笑み、首を横に振った。


「十纏としてのけじめだよ。さあ、抵抗しないから私を殺して。それで本当に終わり。私達は負けてあなた達の勝ち」


「それなら、僕がまた指輪の力を使います! それで、レイラさんを十纏から外しますから」


「いいじゃない、殺してやれば。そいつがそれを望んでるんだし願いを聞くのも友達の役目でしょ」


「流石氷美湖はわかってるね」


 同じくボロボロの氷美湖さんは薙刀を持ち、レイラさんに近づいていく。


「焔さん……?」


 焔さんは僕から指輪を外した。


「悪いな、これはあたし達がやらないといけないことだ。秋良に邪魔はさせない」


「二人ともありがとう」


 二人が同時に武器を構えてしまう。


「やめてください……」


「最後に言い残したことはあるか?」


「いっぱいあるよ。日本の観光もしてないし、パパとママにも会いたかったし、アニメも最終話が見れてない……。折角氷美湖に友達って言ってもらえたし、三人ともっと遊びたかった……、もっと生きたかったなぁ……」


 レイラさんは空を見上げ、涙が一筋流れる。

 なんで、この人が死なないといけないんだよ……。

 なんで、二人がレイラさんを殺さないといけないんだよ……。


「そう言ってるが、あなたから何かないんですか? ヴァクダ様」


「えっ?」


 じゃりと地面を踏む音が聞こえた。

 音を出しているのは、ミイラの様に枯れ果てた一人の人間、いや神様だった。


 これが、ヴァクダ。

 さっきライアンの体から飛び出した力。

 なんでだろう、思っていたよりもずっと温かい。


掉挙(じょうこ)レイラ・ベネット。お前の気持ちはよくわかった」


 父親が幼い娘に触れるようにやせ細った手で頭を撫でた。


「もういい。私もこれ以上殺し合いを見ているのは辛い。私達の争いに巻き込んですまないな、もう十纏でなくていい。ただのレイラ・ベネットとして生きろ。今を持ってお前は十纏から除名だ。門番たちも、もう争わなくていい。これから先、私の配下が攻めてくることはない。外の世界にいるメリヨルの代わりに私から謝罪する」


 ヴァクダ神はそう言って深く頭を下げた。

 その姿は神とはかけ離れて見えた。


「少年、君にも迷惑をかけたな。謝罪の意味も込め、君の願いを可能な限り叶えさせてもらいたい」


 そう言われ、僕の頭に一つの願いが浮かんだ。



 僕の短くて長い戦いが終わってもう十五年の月日が流れた。


「秋良、そろそろ午後の生徒が来るぞ」


「うん。今行くよ」


「毎日見ていて良く飽きないな」


「初心は忘れちゃいけないからね」


 今僕は鬼石流道場の跡取りとしてここを任されている。

 師匠は流石というべきなのか、今でも全国の警察に出張している。

 椿さんはそんな師匠について行き、氷美湖さんはレイラさんと一緒に海外で就職することに決めた。


「あたしもたまには体を動かしたいな」


「ダメだよ。お腹に響くから、激しい運動は禁止だって言われてるだろ」


「あたしと秋良の子供なんだから、そのくらいなら平気なんじゃないか?」


「僕の遺伝子があるからこそ、やめてあげて。僕が強くなったのは経験と努力だから」


 昔の僕にとって信じられないことに、僕と焔の間に子供ができた。

 再来月が臨月なのでとても楽しみだ。


「そういえばレイラからヴァクダ派の同窓会をしたいって連絡があったぞ」


「無理でしょ。ヴァクダ派だった時の記憶なんてないんだし、全員が生き返ってないから」


 あの日、僕が願ったのは三毒と十纏を生き返らせて欲しいということだった。

 何人かはそのまま生き返らせると問題がありそうだったので、転生という形になったが、まともに社会で生活していた数名は生き返っている。

 そして驚いたのは、霊山くんは吾平調と結婚したと本人から連絡が来た。

 あんなことがあったのに、それでも結婚までこぎつけた霊山くんは凄いと思う。


「それでもやりたいから、もしもの時は手伝ってってさ」


「流石レイラさんとしか言えないな」


「先生おそいよー」


「ごめんごめん。急ぐから引っ張らないで」


 小さな生徒たちに引っ張られ、道場に引っ張られていく。

 すでに待っている十人の生徒が正座をして待っていた。


「遅れてごめん。それじゃあ、始めようか」


 昔師匠に教えてもらった稽古を子供達に教え、一通りやると空が赤く染まり始める。


「今日はこれで終わりだ。また明日な」

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