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爺ちゃんの形見は世界の鍵でした。  作者: 柚木
一章 門番との出会い
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5話 怪しい影

 適当に夕食を食べ、部屋でごろごろしている所に婆ちゃんがお茶を持って入ってきた。


「どうかしたの?」


「今朝爺さんの話をするって言っただろ?」


 そう言えばそんな約束してたっけか、色々ありすぎて忘れてた。


「どこから話せばいいんだい?」


「爺ちゃんが話してくれたって話だけでいいよ」


「そうかい。私も詳しくは覚えていないけどね、爺さんは秋良と同じくらいの時に、世界を救うため、用心棒二人と悪党を成敗していたんだってさ。真黒な敵の組織といっつも戦ってたんだって、いつも言ってたよ。今世界が平和なのは俺のおかげだって自慢げだったよ」


 用心棒と真黒な悪党の成敗か、やっぱり爺ちゃんも僕と同じだったんだ。


「その用心棒ってどんな人だって言ってた?」


「牛と馬だって言ってたよ。凄い強い牛と馬で、悪党のボス三人も簡単にやっつけたって言ってたね」


「悪党のボス三人ってどんなの?」


「親子みたいだって言ってたのは覚えてるけど、それ以外は覚えてないね」


 親子みたいってことは、大人と子供の三人組か。


「他にはどんな話をしてたの?」


「忘れちゃったよ」


「このくらいの話なら今朝でも良かったじゃんか」


 結局僕と同じ境遇だったってことだけか。


「私ももう少し覚えていると思ってたんだけどね。思い出せるのは爺さんの笑顔だけだったよ。辛かった、大変だったって口では言ってたけど、いつも笑ってたよ」


「そうだったんだ」


 情報はなかったけど、聞けてよかった。

 爺ちゃんは笑って話せてたってことは、これが終わったころには、全部が笑い話になるってことだから。


「初めてあの人の話ができたよ」


「父さんは聞いてくれなかったの?」


「くだらない話だっていつも聞いてはいなかったよ」


 父さんならそういうだろうな。

 あの人にとって、こんな話は創作でくだらない話だろう。


「それにしても、なんで爺さんの話を聞こうと思ったんだい?」


 この鍵を持ってた爺ちゃんなら何か知ってるかもと思って。なんて言えるわけもないよな。


「ええっと、これを褒めてくれた人がいて、それで、なんとなく気になっただけ」


「そういうことなら、また何か思い出したら教えてあげるよ」


「うん。よろしく」


 婆ちゃんが部屋を出た後、つい握りしめていた鍵を見つめる。


「爺ちゃんも同じだったんだな。爺ちゃんは僕と違って元気だったし、僕よりもっと楽だったのかな」


 小さい頃はよく遊んでもらっていたらしい。

 物心がつく前だったけど、楽しかったってことだけはなんとなく覚えてる。

 僕も全部が終わったら同じ気持ちになれるかな。



「この学校で間違いないね。(うつろ)の言うことはやっぱりあってるね。倒されたのはこの周辺にいた奴らだけで、同じ町内にいた奴らは全部生きてる」


(うつつ)よりもお姉ちゃんだからね」


 学校の屋上にいた二人の少女は対照的だった。


 現と呼ばれた元気な少女は制服を腰に巻き、ブラウスの裾をめくり髪を全部上げ、幼いながらも整った顔を全て晒している。


 反対に虚と呼ばれた少女はどこか暗く、制服の上からパーカーを羽織り、フードを目深に被り同じ整った自分の顔を隠している。


「後は週明けの全校集会だ」


「そこで仕掛けるの?」


「目立つのは嫌い」


「そっか、じゃあ放課後だね。誰もいなくなった後に、鍵を手に入れよう。あの二人悔しがるかな?」


「悔しがるよ。だって負けるんだもん」


「君達何をしてるんだ? 全く何年何組だ、担任の先生に――」


「ねえ、なんで説教してるのさ」


 話し声に気付きやって来た見回りに、現は脅すように問いかける。


「先生だからに決まってるだろ。それで早くどこのクラスか言いなさい」


「五月蠅いね、五月蠅いのは殺さないと」


 虚の言葉で屋上が領分に包まれ、現世から隔離される。


顕現装束(けんげんしょうぞく) 鉄槌(てっつい)


 現が腰に巻いていた制服は形を変え、彼女の身の丈を超えるハンマーに変化する。


「そんなものどこから出したんだ? そんな手品でビビると思ってるのか?」


「ビビらなくてもいいよ。ってかどっちでもいいや」


 振り下ろされた先に残ったのは、赤く染まった屋上の(ひび)と、教師だったもの。


「流石現だね。私よりも強い」


「でしょ。週が明けるのが楽しみだな。門番ってこれよりも遊び甲斐があるんだよね」


「現からしたらどれも一緒だよ」


 領分が消えると屋上には何も残っていない。

 争った形跡も教師が来た痕跡も領分と共に姿を消えた。



 二日間の濃い時間を過ごした翌日。

 今日は土曜日で休みだ。

 すでに十時を過ぎていて、仕事に出ている両親がいないリビングでテレビをつけ、朝食を取る。


『昨日の夕方、喜門町(きもんちょう)で同一犯と思われる事件が起きました。被害者は――』


「近所じゃん」


 ニュースでは犯人の目途は立っておらず、目撃者もなしで通り魔の犯行だと言っていた。


 ピンポーン


 何も頼んでなかったはずだけど、そう思いながら玄関を開けると焔さんと焔さん達がいた。


「どうかしましたか?」


「買い物に行くんだが、一緒にどうかと思って来たんだが、もしかして今起きたのか?」


「恥ずかしながら、その通りです」


「だらしないわね。人間なら規則正しい生活が基本よ」


「返す言葉もありません」


「それじゃあ、準備してきてくれ。その間にあたし達はご両親に挨拶していよう」


「僕が行くのは確定なんだ。それじゃあ、準備してきますけど、親はもう出てるんで、リビングで待っててください」


 来るなら来るで連絡してほしいな。

 いや、無理だった、そう言えば連絡先の交換してなかった。


「お待たせしました」


 リビングに下りると婆ちゃんと二人が仲良さげに話をしていた。


「秋良の恋人なのかい?」


「はい。先日からお付き合いさせてもらっています。誠実で優しく、いつも助けてもらっています」


「よかったよ。あの子はあの見た目だからね。いじめられることが多かったんだけどね、こんな素敵な恋人ができているなら安心だね」


 なんかもう死にたい……。

 なんでそんな嘘を婆ちゃんに伝えているんだろう……。


「あら、早かったのね」


「男の準備なんて時間かかりませんから。それよりもなんでこんなことになってるんですか?」


「お姉ちゃんがあんたの食べた後始末してたらお婆さんが来たの。とてもいい人ね」


「それは否定しませんけど、僕は早くここから去りたいです」


 それから十分ほど話が弾み、妙な居心地の悪さを感じていた。

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