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爺ちゃんの形見は世界の鍵でした。  作者: 柚木
五章 鍵の行方
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48話 ヴァクダの力

 お盆の三日前、三毒のライアンとミアは船に乗っていた。

 船上で日光浴をするミアに対して、ライアンはマリアナ海溝の底を目指し潜っていた。


 あれがヴァクダの神殿か。


 人類が到達できていない海底には岩を重ねただけの小さな祠があった。

 その祠に近づくと、海の底にも関わらず明るく酸素もあった。

 祠の中にはミイラが一体だけ。


「何か用か? 瞋恚(しんい)ライアン・ジャック」


 その声にライアンは身が竦んだ。

 ミイラが言葉を発したことではなく、その言葉の強さが何よりも恐ろしかった。

 神ヴァクダの力の残りカスにも関わらず、これがその気になれば指一本で自分が消えてなくなる。

 ここまで消耗していてもそれができるという圧倒的な力量差。


 これほどか……。

 だけど、この力があれば俺の目標は達成される。


「私にあなたの力を預けてくれませんか? そうすれば必ず鍵を奪って見せます」


「それはお前がこの私を取り込むということか。それでお前は何をするつもりだ?」


 目とは呼べない程に乾燥したその目がライアンに向けられる。


「ヴァクダ様の意思を叶えるためです」


 思わず、この世界を統べる存在になりたい。

 そんな邪心を持ったことへの謝罪をしそうになりながらも彼は嘘を吐いた。


 おそらく嘘はバレている。

 それでも、ここを抜けられれば俺の勝ちだ。


 当然ヴァクダの化身はその嘘に気付き、ライアンが何をしようとしているのかもわかっていた。

 しかし、本体から力の供給を得られず、絞りカスとなっている今の化身には時間が残されていない。


 これが最後のチャンスか。

 本体の、私自身の理想に進むためのラストチャンス。

 これでメリヨル側に止められれば結局後はない。

 全て後は成り行き任せも一興か。


「いいだろう。この力使いこなせるなら使うがいい」


「感謝します。我らが主神」


 ヴァクダの化身が伸ばした手に触れ、残っている全ての力がライアンに移動する。

 力を失った化身の体は砂の様に崩れ、今居る祠もすぐに崩れ、周囲にあった酸素は海水に飲み込まれた。

 さっきまで呼吸を止めないと存在できなかったはずの海中で呼吸ができた。


 これが神の力。

 もう何も恐れるものはない。


 海底の砂を一度蹴るとわずか数秒で海上にたどり着いた。


「もう少し静かに出て来れないの?」


 新鮮な空気も海中の水も全てが清々しい。神の力を宿し全能感を得たライアンは、海水がかかり不機嫌なミアに近づく。


「ちょっと聞いてる――」


「傅け。神の御前だぞ」


 さっきまでの不機嫌さどころか、感情さえなくなったミアはライアンの言う通りに傅いた。

 三毒も十纏もヴァクダの命令には逆らえない。

 つまり、ヴァクダの力を受け継いだライアンの命令にも逆らうことができなくなった。


「喜門町に向かうぞ。十纏共にも合わないといけないな。門番共を始末するのはその後だ」


 ミアに船を操縦させ、ライアンは船旅を楽しむことにした。



 お盆初日の帰宅ラッシュがようやく終わり、一休みしていたら二日目も夜を迎えた。

 ここから明後日の最終日までは休みになるらしい。


「秋良まだいたのか。でも、丁度いいな。少しあたし達に付き合え」


「いいですけど、こんな時間にどこ行くんですか?」


 さっきまでパジャマだったはずなのに、二人は出かける格好に着替えていた。

 僕を送ってくれるのかと思ったけど、何か用があったらしい。


「レイラの所よ」


「まだ返信がないんですね」


 昨日は時間も微妙だったから見てないだけかと思ったけど、一日経ってるのに返信がないのはおかしいな。


「あいつは十纏だから気にする必要はないかもしれないが、友達としては気になってしまってな」


「そう言うことなら僕も行きます」


 レイラさんの住んでいるアパートは焔さん達の家からバス停を三つ移動したところにあり、そこの三階奥から二つ目の部屋に住んでいる。


「留守みたいだな」


「こんな時間にですか?」


「十纏の集会にでも顔出してるんじゃないの? あれ、鍵開いてるわ」


 氷美湖さんがドアノブを回すとあっさり扉は開いた。

 勝手に入るのは悪いと思いながらも、僕達は部屋に入ることにした。


「あいつちゃんと部屋の掃除してないのね」


「月に二回人を雇って掃除させてるらしいぞ」


「そういえばお金持ちでしたね」


 自分でも言ってたしな。

 この部屋も一人暮らしのはずなのに2LDKだし。


 そのまま部屋を全て見たがレイラさんはいなかった。


「やっぱりいませんね。氷美湖さんの言う通り集会みたいですね」


「そうじゃないみたいだぞ。これを見てみろ」


「レイラさんのスマホですよね? 持ってくの忘れたんですかね?」


 レイラさんはスマホは絶対に手放さないとは言ってたけど、うっかりもあるだろうし、忘れたくらいで何かあるわけじゃない。


「そうじゃない。画面だ」


 ただ一言『ごめん』そう書かれていた。


「手伝いに来れなくてってことじゃないんですか?」


 急いでいて電話にも出れなくて書いたけど送信し忘れたんじゃないかな?


「ヴァクダの呪縛が発動したからってことね?」


「ああ、前に決めてたんだ。どれくらい抗えるかわからないけど、敵になる時は連絡するねってな。その時にはあたしと氷美湖に連絡をするってさ」


 確かにグループには焔さんだけじゃなくて氷美湖さんも一緒に入れられている。

 だから焔さんには一目でわかったのか。


「レイラが強制されているってことは向こうも最後の戦いを挑んでくるってわけだ」


 ポンと突然レイラさんのスマホにメッセージが届いた。


「『八月十五日の夕方、お前達の学校で待つ』か、どうやらあたし達が来ることを知っていたみたいだな」


「行きましょう。絶対に負けられません」

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