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爺ちゃんの形見は世界の鍵でした。  作者: 柚木
四章 十纏との決戦
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45話 怪物

「神流秋良くん、いい加減鍵を渡してくれるかな?」


「まだ私達が生きてるのに、秋良くんに行くのは早いんじゃない?」


 戦闘が始まると勝負は一方的だった。

 吾平調は裃さんと篠雪さん二人がかりでも勝てない程に圧倒的で、今も立っているのは蘇葉さんの持っている薬のおかげだ。

 吾平調の纏う闇は二人の鎌を防ぐ防具にも、二人を倒すための武器にもなった。


「この二人はやるみたいだけど、君はどうする? 君が鍵をくれるならあの赤髪以外のこの三人あとは白い髪の子には手を出さないよ」


「裃さん、篠雪さん、蘇葉さんまだ戦えますか?」


「もちろんだよ」


「あの二人が来る前に倒す」


「いざとなれば私も戦うから」


「わかりました。それならこの鍵は絶対に渡さない」


 三人の目がまだ死んでない。

 それなら僕だけが諦めるわけにはいかない。


「情けないね、戦闘は他の人に任せて自分は後ろで震えるだけ。なんて情けないんだろうね」


「僕も正直言うと怖い。三人が戦いたくないって言うなら、僕もこの鍵をすぐに渡すよ。でも、三人がまだ戦うって言ってくれてるんだ、それなら僕もこの鍵を手渡すつもりはない」


「前線に立っているならそれもカッコいいのかもしれない。けどね、そんな後ろで怯えている君が言ってもカッコよくはないね。君の判断が間違ったせいでこの三人は死ぬよ」


 吾平調はわざとらしくため息を吐いて頭を抱えて見せた。

 その動きで僕は確信を得た。


「そうやって挑発するってことはさ、早く終わらせたい理由があるんだろ?」


 ピクリと吾平調が反応した。


「普通に考えて早く終わらせたいよね。こんなの面倒なだけだし」


「それってタイムリミットもあるよな?」


 吾平調は闇を従え疲れが残っている裃さんに向かったが、僕の言葉にその足が止まった。


「あはははは! なんでわかったのかな? まさか当てずっぽうとは言わないよね」


「最初に会った時、なんで変身してないのか考えただけだ。時間制限が一番しっくりきた」


「いい推理だ。その通りだ。こいつ等が鍵の交換材料にならないなら、早く殺してしまおうかな」


「それともう一つ、その変身は人を殺しても解ける」


 ピタリと吾平調の動きが止まった。

 驚いた表情でこちらを向いた吾平調に僕は続ける。


「そんなに驚くなよ。僕が気づいたのは、お前が異常なほど僕に鍵を渡せと言って来たからだ。この鍵が欲しいなら裃さん達を早く殺して僕から奪えばいい。それくらいできる実力差があるのにしないのは、殺したらその変身が解けるからくらいじゃないか?」


「全部正解だよ。そこまでバレてるならもう構わないよね」


 吾平調は一番近くにいた裃さんに刃を向ける。

 でも、それも知っている。

 タイムリミットに人を殺せない制限がバレたら、生かしておいても邪魔になるだけ。

 それなら近くの誰かを殺す方が次につながる。

 それを知っているから僕は吾平調よりも先に動ける。


 刃物を模った闇の前に滑り込み、腕を差し出す。

 闇と篭手がぶつかり、乾いた音と一緒に激しく火花が散る。

 偶然発生したその閃光は僕と吾平調の目を焼いた。


「なんで……」


「ざまあみろ。僕だってただ端で震えてたわけじゃないんだよ」


 冷静な振りを続けられなくなった吾平調は残りの闇を僕に向けた。

 僕には決して防げない攻撃だが、僕以外なら防げる。


「秋良、助かったよ」


 篠雪さんに闇は切り取られ光に溶ける。


「くそっ!」


 纏っていた闇を一気に噴出し視界が奪われるが、すぐに元に戻った。


「神流秋良せめてお前だけは殺してあげるよ」


 その手にはいくつかの果物が握られていた。


「あれを食べさせたらまたさっきみたいになります!」


 僕の声に反応した三人は風の様に動くが、それよりも早く吾平調は果物を飲み込んだ。


「効果が出る前に一気に決着を――」


 裃さんが最初に視界から消えた。


「姉さん! なっ――」


 次に篠雪さん。


「逃げて――!」


 最後に僕に駆け寄ってくれた蘇葉さんがその場から消えた。


 さっきまで弱点を突いて優勢だったはずなのに、たった数秒で逆転された。


 三人を吹き飛ばしたであろう両腕はだらんと垂れ、鞭の様に長く大木ほど太い。

 巨岩の様に膨らんだ両足、四足獣の様に首が太くなり、乱杭の牙が口の中で所狭しと並ぶ。


 吾平調という名の化物の前に、僕は死を覚悟した。

 蘇葉さん達も消え、僕だけが怪物の前に立っている。


「その怪物は一体なんだ? まだあのガキの人形が動いてるのか?」


「あんた、こんな怪物と戦ってたの? 良く生きてたわね」


「焔さん、氷美湖さん」


 よかった。二人とも無事だった。


「おにし、ほむら?」


 吾平調は焔さんの名前に反応し目を向ける。

 そうか、こいつは吾平律の敵を倒すために戦ってたのか。


「この化物、あたしの事知ってるみたいだな。でも、あたしはこんなやつ知らないぞ」


「吾平調です。それが変身したんです」


「あの時の卑怯な奴か。それなら遠慮はいらないよな」


 焔さんが切り込むと、怪物は刀を掴む。

 一瞬で刀に炎が伝わり、手を燃やしいつもの通りに焼き切るはずだったのに、腕は切り落とせず炎だけが怪物の手に燃え移る。

 何があったのかはわからないが、押していたはずの焔さんは刀を手放し怪物から距離を取った。


「今、何があったんですか?」


「こいつあたしの炎を奪った」


「奪ったってこいつの能力って炎を操るの?」


「さっきは闇っぽいの使ってましたよ? さっき食べてた果物が原因かも」


 一個目の果物が闇を使うための実で、今度のは炎? でも、さっきは何個か一気に食べてた。

 じゃあ、こいつは複数属性持ちってこと?


 こっちが話し合いをしている間に、怪物は動き出す。

 叫び声をあげると左手から腕を模った闇が生え出した。


「あれはあたしに任せろ。槐を拾っってあの腕は落とす」


 僕達から離れるために駆けだす焔さんを闇の腕が追っていった。


「それなら、私はあいつの動きを止めればいいのね。これから精密なことをしないといけないからあんたはそこから動かないでよね」


 氷美湖さんは僕の前に立ち、薙刀を地面に刺した。


「鬼石流氷術 氷結界・茨」


 一気に周囲の気温が下がっていき、道路が結界のように白く凍っていく。

 こちらの動きに気がついた闇の腕の何本かが結界に入ると、凍った地面から氷の茨が生え腕に絡みつきへし折った。


「まずはお姉ちゃんの刀を取り返すところから始めましょうか」

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