40話 襲撃
裃さん達が来た翌日、焔さんと二人で裃さん達二人の生活用品を買いにモールにやって来た。
二人でとは言ったけど、氷美湖さんは用事で遅れてるだけなんだけど。
「買い出しは良いですけど、僕がいるってわかってるのに下着を買いに行かせますか?」
「信頼されてるってことだ、気にする必要はないだろ」
昨日の今日だし、もう少し気にしてもらいたい。
「それに買い物をするのは氷美湖が来てからだし、今はデートを楽しもうじゃないか」
「それもそうですね」
ここ最近はお盆の影響であんまり遊べてなかったし、短い時間だけど楽しもう。
そう決め、ウィンドウショッピングをしたり、ゲーセンで遊んだりしながらデートを楽しんでいたが、焔さんは周りを気にしていた。
最初は友達でも見つけたかと思っていたが、そんな人は周りにいない。
「さっきからどうかしましたか? どこか行きたいところがあったりします?」
「いや、さっきからあの子がずっといるんだよ」
「どの子ですか?」
「あの子だよ。あそこのフリルの服着てる子」
焔さんが示した方向には、ロリータ服を着た少女がベンチに座っていた。
遠くにいるから顔までは見えないけど、小学生くらいかな?
「ずっとって、いつからですか?」
「最初の服屋からだな。そこから全部ってわけじゃないけどな」
「カルマですか?」
「こう人が多いと判断はできないが、可能性はあるかもしれない。一人かわからないし、動くなら氷美湖が来てからだな」
「氷美湖さんが狙われてるってことはないですか?」
あの子が監視だとしたら本命は氷美湖さんで、氷美湖さんと鍵の交換を要求してくる。
そういう可能性もありえなくはない。
「無くはないな。じいちゃんから聞いた話だと、あいつらは単独で行動を起こすことの方が多い。でも、今回襲って来てるヴァクダ派は今まで聞いていた連中とは違っている気がする」
「なら急いで氷美湖さんと合流しましょう。無駄足なら笑い話で済みます」
僕らがモールを出ると、少女も僕らの後をついてくる。
これはやっぱり僕らを監視していたのか。
学校行きのバスに乗り相談している風を装いながら氷美湖さんにメッセージを送るが、既読も付かない。
「あの子動きませんね」
「バスの中で行動は起こしにくいからな。それでも行動を起こす奴もいたから気休め程度だけどな」
少女の姿に百目木姉妹が重なる。
生徒を巻き込んで大暴れした双子の姉妹、あれと同じなら関係なく襲ってくる。
もしあの姉妹と同じならどこで攻めてくる?
夏休みだし学校に着けば人も少なくなるけど、そこで襲ってくるか?
「焔さんはどう思います――えっ?」
焔さんの座っていた場所には誰もいなかった。
荷物だけを残しその場から消えた。
急いで少女の方を向くが焔さんと同じで、姿は消えていた。
やられた!
狙いは焔さんだったのか……。
そうだ、氷美湖さんに連絡しないと。
電話を掛けるが電話口から聞こえるのは繋がらないことを伝える電子音だけだった。
このタイミングで繋がらないってことは、氷美湖さんも領分の中だ。
ってことは、狙われてるのは僕か……。
急いでここから離れた方がいいのか? それとも、このまま乗り続けるか?
ここからどうするのが正解なんだ?
僕は降車のボタンを押し、次のバス停で下りることにした。
師匠達と連絡を取ろう。
それで、この場所を教えて迎えに来てもらう。
相手がバスの中でも平気で仕掛けてくるならバスの中だと逃げ道がない。
バス停に着き、急いで電話をかけながらバスを急いで下りる。
「師匠、今喜門町四丁目のバス停にいます」
「わかった。すぐに向かう」
師匠に連絡はついたし、後は迎えが来るまで耐えるだけだ。
キィコキィコ
錆びた歯車を無理に動かすような音と共に、一人の女性がバス停に向かって来た。
女性はそのままバス停の前で止まる。
その女性は髪も肌も白く、細い身体には必要な肉も無いように見える。
僕が触れても崩れてしまいそうな虚弱さは城の砂を想像させる。
「初めまして」
変な挨拶だな。
初対面で待ち合わせしてるとかそんな感じの言い方だな。
僕がじろじろ見ちゃったせいかも。
「じろじろ見ちゃってごめんなさい」
「気にしないでいいよ。見られるのは慣れてる。それと君には借りもあるあるから」
「どこかで会ったことありますか?」
「ないよ。さっき初めましてって言っただろ。でも私は君を知ってるよ神流秋良くん」
僕の名前を知ってる?
こんなインパクトのある人を忘れるわけじゃないよな。
そうわかっているはずなのに、彼女を見ていると心がざわついた。
「君のおかげで実がなったんだよ。立派な実だよ」
この人は何を言ってる? 実? 一体何のことだ?
「そういえば名前を教えていなかったね。私は吾平調って言うんだ」
その名前を聞いた瞬間、脳が考えるよりも早く吾平調を殴っていた。
「私は車いすで生活している病人だよ? 守られるべき立場の人間なのに、君は平気で殴るんだね」
確かな手ごたえはあったのに、吾平調の顔の向きを変えることさえできなかった。
「それじゃあ、君の持っている鍵を貰おうか」




