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爺ちゃんの形見は世界の鍵でした。  作者: 柚木
三章 恋の始まり
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36話 勘違い

 焔さんに誘われて数分、一言も話さないまま時間だけが過ぎていた。

 何を話すのかもわからないせいで僕からも何も言えず、ただただ二人で並んで座っている。


「秋良、ずっと聞きたかったんだけど」


「何でしょうか?」


「市居雅って女子とどういう関係だ?」


 なんで市居さん? それにどういう関係かって改めて聞かれるとどういう関係だろう? 友達? クラスメイト?


「もしかして秋良は二股をかけてるのか?」


「…………えっ?」


「いや、氷美湖を入れれば三股か」


 何をどう勘違いすればそうなるんだろう。

 市居さんに告白されているって知ってるならその考えはわかりたくないけどわかる。

 でも、氷美湖さんが入るのがどうしても理解できない。

 氷美湖さんとそんなに仲よく見えるか?


「その沈黙はやっぱりそうだったか……」


「否定できなくて黙ってたんじゃないです。思考をどうやって飛躍すればそうなるのかを考えてました。市居さんとはクラスメイトで、氷美湖さんとは何もないです」


「あたしの思い込みだというなら、ならなんで雅をお姫様抱っこしていたんだ? それに氷美湖と一緒の部屋で寝てたのはなんでだ?」


 あれが原因か。

 流石にそれくらい状況でわかってくれてると思ってた。


「もしかして、部屋に引きこもってた理由ってそれですか?」


「ああ。女々しいと自分でも思ってるさ。それでも、あんな光景を見てしまえば誰でも同じように考える」


「あはは、それで出てこなかったんですか」


 つい笑いがこみあげてきた。

 焔さんがまさかそんなことで悩んでいるとは思っていなかった。


「なんで笑うんだ、あたしは真剣に悩んでいたんだぞ」


「ごめんなさい、馬鹿にしてるわけじゃないんです。安心して気が抜けちゃったんですよ」


「ふん、それなら全部説明してもらおうじゃないか。もしあたしを納得させれたらなんでも言うことを聞いてやるよ」


「なんでそんなに自分の勘違いに自信があるのかわかんないですけど、説明しますよ。最初の市居さんに関しては最初に言った通り、コベットから逃げてただけです。おんぶしてる暇もなかったんで抱きかかえたらああなったんです」


「辻褄はあってる気がするな」


 事実なのに辻褄が合うってどういうことだろうか。


「それと氷美湖さんの部屋で寝てたのは、朝に説明した通りレイラさんに部屋を取られたので氷美湖さんが部屋を譲ってくれたんですよ。自分は市居さんと寝るからって」


 そういったはずなのに、なんで氷美湖さんと一緒に寝たって勘違いしてたのか。


「氷美湖はあの女子と一緒に寝たのか?」


「そうですよ。そう言いましたよね?」


「言ってないぞ? レイラに部屋を奪われたから氷美湖の部屋で寝た。って言ってたぞ」


「……言いませんでしたか?」


「言ってないな」


「ごめんなさい」


 速攻で土下座した。

 勘違いの原因は僕のせいでした。

 そこで氷美湖さんと二股が浮かんで、それならあのお姫様抱っこももしかしてってなったのか……。

 それならわからないこともないかな。

 逆なら僕も勘違いしてただろうし。


「最近あたしが居ない所で二人が話してたりするし、てっきりそういう関係になったのかと思ってしまった。あたしに手を出してくれないし」


 氷美湖さんから焔さんの好みや苦手な物を聞いたりしてた時か。

 本人に聞かれたくないからこそこそしてたけど逆効果だったか。


「告白した時に言いましたけど、僕はずっと焔さんの事を好きでいるって決めてるんです。僕は同時に色々な女子を好きになれるほど器用じゃないですよ」


「レイラや氷美湖も好きだって言ってたじゃないか」


 それも繋がってくるのか……。

 友達としてって意味だと思ってたから好きって答えたけど、勘違いが前提にあったなら意味が大分変ってくるよな。


「わかりました、言いなおします。僕はこれからもずっと焔さんだけを愛し続けます」


 めっちゃ顔が熱いけど、今回みたいな勘違いが起きないようにはっきりと言いきる。


「あ、愛、えぅ?」


 愛してると言われて、僕よりも恥ずかしがってる。

 ゆでだこよりも真っ赤に染まってる。


「うゆぅわああ!」


 意味が分からない言葉を叫んで焔さんはその場から離脱して行った。

 たぶん誤解は解けたんだよね?



 別荘に帰りまた引きこもった焔さんに声をかけたが、顔がだらしなさ過ぎて会えない。と言われてしまい、仕方なく師匠にことの顛末を伝えた。


「なるほど、焔が鬼になれなくなったわけか。二人は喧嘩をしたのか?」


「喧嘩はしてません。ちょっと行き違いはありましたけど、それも解決しましたから」


 変身できなかったことを師匠に告げると、思いのほか反応は薄かった。


「それなら心配することはない。ワシもあいつとは何度も喧嘩してな、そのせいで鬼になれなかったことは何度もある。互いに頑固だったせいで、仲直りしないまま再契約なんてこともあったな」


「大変でしたね」


 再契約って爺ちゃんともう一度キスをしたのか……。


「それは大変でしたね」


「そうでもないぞ、大抵あいつは傷だらけだからな。体液の交換は難しくはなかった。あいつも下らん意地で命はすてなかったよ」


「えっ? 体液の交換ですか?」


「そうだぞ。血でも汗でも体液ならなんでもいい。君達もそうだったろ」


「……はい。詳しくは知らないまま契約したので、聞いてびっくりしただけです」


 よく考えたら唾液の交換っておかしいよな。

 男女だけじゃなくて男同士や女同士もあったわけだし、わざわざ唾液の交換って言わないで、キスとか接吻って言えばいいもんね。


「どうかしたか?」


「大丈夫です、何でもありません。これから焔さんに今の話を伝えてきます」


 僕は真実がバレる前にその場から逃げ出した。

 勘違いってどこにでもあるもんだなって初めて知った。


 後日、二人にそのことを説明したら焔さんは笑って、氷美湖さんには理不尽に殴られた。

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