35話 共闘
「焔さん、大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃないな……。完敗だよ……」
戦闘装束が解けるくらいやられるなんて、あの人は見た目通り強いってことだよな。
レイラさん一人で勝てるのか?
「戦闘装束になれればよかったんだけどな」
「ならなかったんですか? もしかして不意打ちとかですか?」
「何でか変身できなかったんだ。そのせいもあって一撃でこのざまだよ」
そんな能力が向こうにはあるってことか?
それなら焔さん達が勝つのは難しいな。
「柔術か何か知らないけどさ、これなら防げないよな?」
地面が少し揺れたと思うと、ブリーレは近くにあった木を引っこ抜いた。
それだけでも驚いたが、ブリーレはその木をたたきつけ、外すと近くの木を引っこ抜く。
その単純なまでの力技をレイラさんは華麗に避け続ける。
「能力全開だね。重量を自由に変化させるんだっけか?」
「そうよ。知った所でもうどうしようもないでしょ? 今の状況ならね」
「へぇ、これが目的ってことか」
レイラさんの周りは大木で埋まり、今度の攻撃を避けられるスペースはほとんど残されていない。
ズドンと最後の大木が振り下ろされるが、レイラさんは間一髪わずかな隙間に体を滑り込ませていた。
「よく避けきったね」
「あんたみたいな体型じゃ思いつかないでしょ? 私可愛くてスタイルもいいから」
「それならもっと薄くしてあげるよ」
道を塞いでいた二本の木を使い圧殺しようとするが、レイラさんはするりと攻撃をかわし、衝突した木は二つに破砕した。
あんなの食らったらひとたまりもないだろ……。
「秋良。一つ聞いていいか?」
「そんなに改まれると怖いですけど……、何ですか?」
「このままあたしが戦えなかったら、秋良は幻滅するか?」
「しないですよ。どうなっても焔さんは焔さんなんですから」
「今まで助けてもらってますし、ただ役目が逆になるだけじゃないですか」
あまりに切羽詰まった顔されたから何を聞かれるのかと思った。
僕ってそのくらいで幻滅するくらい薄情に見えてるんだろうか……。
「秋良くん、避けて!」
「うおぉ!」
危なかった……、もう少し遅れてたら木に薙ぎ払われるところだった……。
カッコつけた直後に死ぬってカッコつかないよな。
「何があったかわかりませんけど、弱ってるなら弱音くらい言ってください。まだ全然弱いですけど、そのくらいなら僕にもできます」
「ありがとう。少し元気出たよ」
さっきまでの表情とはがらりと変わり、顔が引き締まった。
「秋良と話したいことはいっぱいある。でも、その前にあいつを倒さないとな」
「そうですね」
焔さんは戦闘装束に変身しないまま立ち上がり、ブリーレに向かって行った。
「鬼石流炎技 牙炎!」
「そんな攻撃が効くと思ってるのかい? うぐっ……!」
「よそ見なんて余裕だね」
焔さんの攻撃にレイラさんが合わせた。
二人ともさっきの一瞬で攻撃を合わせたのか。
ブリーレは不意打ちに苛立ち、二人を引き離すように腕を振りそのまま距離を取った。
「レイラ、お前は秋良のことが好きか?」
「好きじゃなきゃ落とそうなんて時間がかかることしないよ」
「それならあたし達は仲間だな」
「ライバルじゃないの?」
「どっちでも意味は変わらないさ。お前は好きに攻撃に動け、あたしが合わせる」
「今の焔について来れるならね」
二人はさっきと同じ様に挟み撃ちするように動いた。
「二度はないよ。お前の攻撃に気をつければいいんだろ?」
当然のようにレイラさんを捕まえ振り上げた。
「鬼石流炎技 爆牙」
焔さんの拳がブリーレの膝裏に当たり一瞬だけ輝き、小さな破裂音が鳴った。
「ちっ!」
戦闘装束じゃない一撃ではブリーレの脂肪を超えられないが、関節なら話は違ってくる。
小規模でも確かな衝撃が膝に伝わり、巨体はバランスを崩しそのタイミングでレイラさんが攻撃を加える。
「あんたら二人すりつぶして食ってやるよ」
「あたし達はあんたを倒して終わりにしてやるよ」
「食べたらお腹壊しそうだしね」
良いようにあしらわれているブリーレは激怒した。
手あたり次第の木を掴み二人に向かって投げつける。
そんな直線的な攻撃を二人がくらうはずがない。
それでもブリーレは何度も手当たり次第に投げつけ続ける。
自暴自棄ってことはないはずだ。
それならなんでこんなことをする?
そこに気がついた時、ピリッと何かを感じ全てが一つにつながった。
「あんたらを殺すよりもこっちを殺した方がいいよね」
やっぱり狙いは僕だ。
ブリーレが木を投げるよりもわずかに早く僕は動き、僕のいた場所を木が抉って行った。
「なんで、あんなガキが避けれる?」
「秋良を舐めるなよ十纏、秋良はいつかあたしを超える男だぞ」
僕なら避けられると信じてくれていた焔さんは、ブリーレの後ろに回り込み関節を攻撃する。
ぐらりと巨体が後ろに倒れかける瞬間、ブリーレの上にレイラさんが乗る。
「最高の一撃を食べさせてあげるよ」
同じ十纏のレイラさんが全体重を乗せた放った一撃を耐えきれるはずもなくブリーレの体が活動を止め、黒い靄へと変わって行った。
「さあ、終わったし帰ろうか」
氷美湖さん達に連絡を取り、現状の説明をして別荘に戻る途中、レイラさんが思い出しように聞いて来た。
「秋良くんさっきは良く避けれたね。実はものすごく強かったりするの?」
「全然ですよ。コベットにも勝てないくらいです。でも、あの時はピリッと来たので、体が動いただけです」
訓練はしてきたけど、そこまで精度は高くない。
昨日のコベットの時も、市居さんが教えてくれたから避けられただけだし。
「それならレイラさんこそ、よく焔さんに合わせましたね」
「焔が動かなかったからね。本当に危ないなら焔が動くはずだし、動かないなら対策があるんだろうなって思ってた。まさか秋良くんが避けるとは思ってなかったけどね」
なるほど、そういうことか。
「あのピリッとした感覚は焔さんだったんですね」
「まあな。言葉にすればバレるし、ブリーレの攻撃を見てからだと遅いしな」
だから僕でもあの攻撃がわかったわけだ。
結局焔さんに助けてもらったわけか。
「それはいいとして、焔はなんで出て行ったの?」
和やかな空気が空気が割れる幻聴が聞こえた。
「一人で考えたいときもあるだろ?」
「散歩に行くって言えば済んだよね?」
「窓から出てみたくなったんだよ」
「私はそんな時ってないけど、それってどんな時なの?」
弱点を見つけたらしく、レイラさんは焔さんをどんどん追い詰めていく。
「ここでは言いたくない」
「そっか。じゃあ、私は先に帰るね」
そういう意味じゃないんじゃないだろうか。
言いにくいことだから二人の時にって意味じゃないの?
「行っちゃいましたね、僕達も早く行きましょうか。言いにくいかもしれませんけど、レイラさんには教えてあげてくださいね」
「待ってくれ」
焔さんはギュッと、僕の服を掴んだ。
いつも歯切れのいい焔さんにしては、何かを言い淀んでいる。
「二人で少し話さないか?」




