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爺ちゃんの形見は世界の鍵でした。  作者: 柚木
三章 恋の始まり
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29話 変わり続ける人間関係

「私の能力はこれだよ」


 レイラさんの手に現れたのは、抱えないと持てない程に大きな卵。

 今まで出会った三毒や十纏のと比べると、危険な感じがない。


「これは欲望の卵、最初はお店で売ってるくらいの大きさだったけど、周囲の煩悩を吸収して大きくなった」


「大きくなってどうなるんだ? 大量のコベットとかカルマが出てくるのか?」


「出てくるのは一体だけ。どんな姿のが出てくるかはわからないけど、強さは大きさに比例するよ。私の秘密兵器かな」


 普通サイズの卵がここまで大きくなったなら、この卵から出てくるのはとんでもない化け物になるんじゃ……。


「その卵、壊させてもらうぞ」


「それはダメ」


 焔さんの刀が触れる前に卵は消えた。


「ダメってことは、私達と戦うつもりがあるってことよね」


 二人が戦闘態勢に入る中、レイラさんは困った顔で僕を見た。


「何か理由があるんですか?」


「生まれてくる生物は私の言うことを聞かないんだよ。そいつの攻撃は私には効かないから関係ないんだけど、私には二人が勝てるとは思えないから」


「なんなら一度やり合ってみるか?」


「私達は強いわよ」


「やらないよ。だから、ここで私は約束するね。この卵は絶対に割らない。それでよしとしてくれないかな、秋良くん」


「わかりました」


「おい、秋良」「あんた何言ってんのよ」


「大丈夫です。レイラさんは約束を守ってくれます。それにもしその卵が孵っても、二人なら勝つって信じてますから」


 僕が断言すると、二人は渋々ながら納得してくれた。


「秋良くんありがとう」


 両手が塞がってるからと油断してたけど、その拘束もあっさり破って僕に抱き付いて来た。

 焔さんや氷美湖さんとは違う女子の匂いに、心臓が激しく動いた。


「離れろ、さもないとここで真っ二つに切り捨てる」


 このドキドキは照れじゃなくて恐怖なのかもしれない……。


「もしかして焔嫉妬?  でも嫉妬するならこのくらいからじゃない?」


 頬に熱くて柔らかい物が触れた。


「お前はこのまま切り殺す」


「それじゃあ、またね」


 切れた焔さんを置いてレイラさんはあっさりとその場を離脱していった。



 面白い人たちだったなぁ。

 あれが、鍵の持ち主と門番か。


 レイラは誰もいない廊下を鼻歌交じりに歩く。

 彼女はさっき本心を言っていた。

 容姿や性格にも自信があるからこそ、その生涯を謳歌したい。

 それを達成するに敵である門番と接触した。

 その目論見は見事に成功し、門番二人と和平を結べたが、レイラが不満に思っている所もある。


 ちょっとショックだったかな。

 私よりもあの二人の方がいいんだ。

 神流(かんな)秋良くんか、今まで遊んだ男の子達と真逆のタイプだったけど、顔も悪くないしたまにはいいかもね。

 少し、本気で彼を落としてみようかな。


 そう考えたレイラはどう動くかを放課後までにシミュレーションすることに決めた。



 放課後になると、焔さんはぐったりとしたまま教室に入って来た。

 理由は聞くまでも無く、肩を組んで入って来たレイラさんのせいだろう。


「ヤッホー、秋良くんに氷美湖帰ろうよ」


 実はあの人、焔さんの天敵なんじゃないだろうか。

 僕は対照的な二人を見てそう思った。


 そのままほぼ会話の主導権をレイラさんが持った状態で下校していると、レイラさんがふと思い出したように話を振って来た。


「そういえば、さっきのお礼まだしてなかったよね?」


「さっきの?」


「朝のこと、私の話を信じてくれたでしょ。そのお礼、何でも言うこと聞いちゃうよ」


「それなら、一つ聞きたいことがあります。調(しらべ)って誰の事かわかりますか」


「知ってるよ。私と同じ十纏の一人だよ。吾平(あいら)調って女の子。保護者は吾平(りつ)って人で、その人も同じく十纏。能力までは知らないし、住所もこの町だって聞いたけど、詳しい場所はわかんないかな」


「仲間の情報は渡さないんじゃないのか?」


「何でも言うこと聞くって言ったから、今回は特別なの」


 吾平律ってこの前父さんにちょっかいかけた奴か。

 それなら父さんに聞けば家くらいはわかるか。


「でも、秋良くんは純朴だね。私みたいな可愛い子が何でもしてあげるって言ったのに、そんなことでいいの? 色々してあげたのに」


 最後は耳元でささやかれ、思考が一気に戻された。

 抱き付かれた腕、吐息がかかる近さ、可愛い女子。

 真面目な考えが一発で吹き飛ぶ程の状況になっていた。


「ちょっと、近すぎです!」


「私はもっと近づきたいと思うけど?」


「レイラ、それ以上近づくなら宣戦布告と受け取るぞ」


「いいよ。私も秋良くんは欲しいもん。可愛い系の男の子も結構いいよね」


 なんか、僕を取り合って喧嘩を始めてしまった。

 こんな取り合いに憧れはあったけど、この二人だと命の危険さえある。


「あんたのせいよ。仲裁頑張りなさい」


「いやいや、この状況を僕に任せるのは無理です」


「あんたがはっきりどっちかを拒絶すればいいのよ」


「レイラさんに悪いじゃないですか」


「あんた、少しは良くなったと思ったけど、そういう所ダメダメよね」


 スタスタとこっちを振り向くことなく、氷美湖さんは家に帰って行った。

 残された僕はどうすればいいんだろう……。



 焔さんとレイラさんの仲がより悪くなった翌日、学校も終わり道着に着替え道場に行くと、氷美湖さんに声をかけられた。


「あんたに渡す物があるの」


「手紙ですか? もしかして不幸の手紙ですか?」


 久しぶりに貰ったな、昔は良く貰ってたけど、スマホを持つようになってからはなくなったけど、まだあったんだな。


「あんたが私をどう思ってるのかよくわかったわ」


「えっ? 違いますよ。いじめられてた時に良く貰っただけですって」


「怒りにくいこと言わないでよ……。それはラブレターよ」


「らぶれたー……? もしかして恋文って奴ですか?」


「そうだけど、あんた今日どうしたのよ。いつにも増して変だけど」


「もう、あの二人に取り合われるって嬉しいんですけど辛いんですよね。昼とか、休み時間とか、一人じゃないのは嬉しいんですけど、二人はギスギスしてるし、クラスメイトは呪ってくるし……」


 タイプの違う美人二人だから、かなり広範囲の需要を満たしてるせいで、居心地が悪い。

 いじめられてた時とはまた違う種類の居心地の悪さだ。


「それはあんたが優柔不断だから自業自得よ。それじゃ、確かに渡したからね」


「これって誰から何ですか?」


 僕にラブレターをくれるなんて奇特な人に思い当たる節がない。


「同じクラスの(みやび)からよ、市居(いちい)雅」


「氷美湖さんとよく一緒にいる、メガネをかけたおとなしめの人ですよね」


 でも、あの人と接点ってあったっけ?


「そうよ。やめた方がいいっても言ったけど、気持ちは知ってもらいたいからって渡されたの。しっかり答えてあげなさいよ。それと、あの子の勇気を少しは見習いなさい」


 手紙を読まないまま稽古をこなし、自分の部屋でもらった手紙を開いた。

 そこには市居さんの想いが詰まっていた。

 今は嘘とはいえ、僕が焔さんと付き合っていることもしった上で僕が好きなこと、どこが好きでどれほど好きなのかが、そこには綴られていた。


「市居さんは凄いな」


 ここまではっきりと自分を伝えられる市居さんはきっと、凄く素敵な人なんだと思った。


「明日、ちゃんと断ろう」

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