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爺ちゃんの形見は世界の鍵でした。  作者: 柚木
二章 十纏
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21話 鬼の逆鱗

 霊山くんが入院して三日が過ぎた。

 いまだに面会謝絶の状態が続いているが、毎日お見舞いに向かっている。

 学校も終わり今日もこれからお見舞いに向かう。


「悪いんだが、少し校門のところで待っててくれ」


「日直ですか?」


「ああ、すぐ終わらせて向かうよ」


「わかりました」


 付き添ってくれる焔さんと一度別れ、校門に向かうと、校門の前にガラの悪い男が一人立っていた。


 一体誰を探してるんだろう、焔さんにやられた人の仕返しとか? 揖斐川くんの可能性もあるけど、もう先に帰ってるしなぁ……。

 これじゃあ、校門で待ってられないし、焔さんに連絡しとこう。


「おい、そこのお前」


「はい……」


 スマホを取り出すと、男に呼び止められた。

 警察に連絡するって思われた?

 大股で近づいて来た男は、唐突に僕の匂いを嗅いだ。


「えっと、何か御用ですか?」


「やっぱりお前臭うな、鬼の臭いだ、糞みてぇな門番共の臭いだ」


 鬼、門番って焔さん達の事か……、この人三毒の仲間?


「ここが臭ぇと思ってたんだ、やっぱりここに居やがるのか」


 こいつはヤバい。

 見た目とかじゃなくて、雰囲気が危険すぎる。


「おい、門番はどこにいるんだ?」


「門番なんて知りませんよ。失礼します」


 去ろうとすると、領分に入ってしまった。


「嘘はダメだぜ。お前のその反応は、領分を知ってるんだろ? その上、お前から臭うその臭いは関係者じゃないとつかない程だ。そんな臭いじゃ騙せるもんでもねえぞ」


 どうすればいい?

 領分に入ったら、連絡を取る方法がない。

 戦う? いや、僕なんか相手にすらならない。


「今度はだんまりか、やっぱりこっちの方が早いか」


 考えるより先に体が反応した。

 カバンを盾にしたおかげで、わずかに攻撃がズレ、避けることができた。


「少しはかじってるのか」


 僕の身を守ってくれた鞄は、紙切れの様に引き裂かれた。

 やっぱり僕が勝てる相手じゃない。


「でも、今ので力の差はわかったろ? さっさと門番の場所を教えろよ」


「言うと思ってるのか?」


「どっちでもいい。お前が言えば楽だぜ、でも言わなくてもお前をボコれば門番は俺を探すだろ? どっちにしても変わらない」


 次の瞬間、腹部にとんでもない重力が加わり、僕の体は校門を破壊し吹き飛んでいた。


「がはっ……」


「殺しはしねぇよ、お前には門番に俺の居場所を教える役割もあるからな」


 今の一撃で、僕の体は動かなくなった。

 立ち上がろうにも足は震え、力が入らない。


「だがよ、門番が俺の所に来るくらいには、血だらけになってもらうぜ」



 秋良から遅れること五分、焔が校門に着くと人だかりができていた。


「鬼石さん、神流くんが」


 クラスメイトに声をかけられ、焔は人垣を割り秋良に近づいた。

 そこにいたのは、血だらけになり地面に倒れていた秋良だった。


「秋良?」


「ほむら、さん……、すいません、かぎ、とられちゃい……、ました……」


 腫れあがった瞼がわずかに動き、それだけを告げ秋良は気を失った。


「誰か、こうなった現場を見た奴はいるか?」


 この場にいた全員は無言のまま首を横に振る。

 言葉を発したら殺される。

 そう全員に思わせるほどの殺意を焔は発していた。


 誰がやった? そいつだけは必ず殺してやる。

 救急車が到着したのは、人だかりが焔の殺意で散った後だった。

 病院に運ばれすぐに手術になった。

 数時間の手術が終わると、医者は親族を病室に連れて行った。


「氷美湖、秋良の事頼んだぞ」


「どこに行くつもりなの?」


「これ、秋良が握ってた」


 血の滲む紙に書いていたのは、名前と住所、それと十纏という文字だった。


「この御嶽(みたけ)天馬(てんま)ってのが、犯人ってこと? これって罠じゃないの? あいつの文字と違うし」


「その時はそいつに居場所を吐かせる。秋良をあんなにした奴にたどり着くまで繰り返す」


「それってあいつは喜ぶの?」


「氷美湖に何がわかる!?」


「わかんないから、冷静でいられるの」


 壁に押さえつけられ、殺意を向けられている中、氷美湖は冷静に言葉を返す。


「お姉ちゃん、熱くなり過ぎなのわかってる?」


「氷美湖は秋良の姿を見てないからそんな風に言えるんだ! あたしが一緒にいなかったばっかりに、こんなことに――」


 パンと氷美湖が焔の頬を叩いた。


「いきなり何するんだ!」


「落ち着いて。ここで、お姉ちゃんがそんな方法に出たら、あいつはきっと自分を一生許さない。あいつがそういう奴だって、私でもわかるよ。だから、冷静に考えて。この紙は誰が書いて、何の目的で置いて行ったのか」


「秋良をあんなにした奴じゃないとしたら、それを置いて行った奴は、あたしと秋良を仲たがいさせようとしてるってことか?」


「これは、十中八九あいつをボコボコにした奴だよ」


「じゃあ、あたしが合ってるじゃないか」


「うん。でも、お姉ちゃんはなんであいつが狙われたのかわかる?」


「鍵を持っていたからじゃないか? 現に秋良は鍵を持っていかれてるんだし」


「違うと思う。あいつが狙われたのはたぶん偶然、鍵はこの紙を握らせるときに気付いたんだと思う」


 すらすらと自分の考えを述べる氷美湖に、段々と焔の頭は冷静さを取り戻しつつあった。


「なんで、そんなことがわかるんだ?」


「そうじゃないと、あいつが生きてる理由が説明つかないから」


 それを聞いてようやく、焔も答えにたどり着いた。


「あいつの狙いはあたし、これは果たし状ってところか」


「そういうこと。そうじゃないと、あいつを殺さずに校門に置いて行く理由がないからね」


「ありがとう。少し落ち着いてきた」


「それで、どうするの? 私も一緒に行こうか?」


「間違ってるのはわかってる。だけど、これはあたしが自分の手でなんとかしたい」


「わかった。でも、危なくなったら絶対に逃げてね」


「わかってるよ」


 病院を氷美湖に任せ、焔は紙に書かれている場所に向かう。

 町から少し離れた雑居ビルの三階が、呼び出された場所だった。

 無愧組(むきぐみ)と表札が書かれたドアを蹴破ると、中には男が一人、鍵を殴り続けていた。


「表札でビビらないってことは、お前が門番でいいのか? 発育はいいみたいだけど、まだガキじゃねぇか」


「お前が御嶽天馬だな?」


「その通り、俺が十纏の一人、御嶽天馬だ。その様子だと、俺の手紙は気に入ってくれたみたいだな」


「そのお礼に来てやったよ」


「門番は二人って、聞いてたけどお前一人なのか?」


「そっちこそ、折角呼び出したのに仲間はいないのか?」


「いらねぇよ。他の連中がいても邪魔なだけだ。何せ、俺は十纏最強だからな」


 天馬は鍵をポケットにしまい、領分を開いた。

 それを受け、焔も戦闘装束に変身する。


「変身できるのか、カッコいいな。そっちの準備もできたみたいだし、始めてもいいか?」


「いつでもかかって来いよ。秋良の受けた痛みを万倍にして返してやる」

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