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爺ちゃんの形見は世界の鍵でした。  作者: 柚木
二章 十纏
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20話 ありえない存在

「霊山はどこに行くと思う?」


「僕なら学校に行きますね」


「いじめてたやつの所じゃないのか?」


「憎くはありますけど、その憎しみと同じくらい怖いんです。だから、恨みを晴らすならまず学校です。あそこは僕や霊山くんには、監獄としか思えません。何かするなら学校から始めます」


「じゃあ、最初は学校からだな」


 焔さん、ごめんなさい。

 僕は嘘を吐きました。


 たぶん、霊山くんの狙いは僕だ。

 僕と戦うために、さっきのナイフを取りに学校へ行くはずだ。

 きっとそれを言ったら僕は置いていかれる。

 今回はそれじゃダメだ、霊山くんは僕の手で止めてあげたい。


 校舎裏に着くと、誰もいなかった。

 ナイフも僕が踏んだままの状態だ。


「ごめんなさい、僕の考えは間違っていたみたいです」


「いや、いるのはこっちじゃないな」


 ふと世界から音が消え領分(エリア)に入ると、丁度ナイフを掘り当てた霊山くんがいた。


「こっちにいるってことは、もうカルマがいるわけだな」


「神流か、丁度いいや。これからからお前を殺しに行くところだったんだよ」


 挨拶も無く襲い掛かる霊山くんを、焔さんは軽く受け止める。


「狙いは秋良か。何か隠してると思ってたら、こんなことを隠してたのか」


「すいません、置いていかれると思って……」


「まあ、いいよ。秋良が何をしたいのかは分かった。そのためにカルマをこいつから出さないとな。鬼石流炎技(おにしりゅうえんぎ) 牙炎(がえん)


 いつものように強烈な一撃が叩き込まれ、霊山くんが吹き飛ぶ。

 これで、カルマが外に出るはずだった。


「焔さん、あれってあり得るんですか?」


「いや、絶対にあり得ないはずなんだけどな」


 いつもならカルマだけが起き上がるはずなのに、立ち上がったのは、両方だった。

 霊山くんの体からは黒い靄が溢れ、黒い鎧の様にまとわりついている。


「痛い。なんで、お前だけなんだよ。なんで、なんで僕だけ痛い目に合うんだよ!」


 黒い靄は霊山くんの叫びに反応して、大きく広がり襲い掛かってくる。

 暗幕の様に広がる靄からは無数の触手が生え、僕を目掛けて襲ってくる。


鬼石流居合術おにしりゅういあいじゅつ 八炬火(はったい)


 焔さんの太刀筋は見えないが、納刀される時には触手は全て切られていた。


「悪いが、こいつとの戦いは待っていてくれ。ちょっと、厄介な状況だ」


「霊山くんの狙い場僕です。僕が囮になるので、焔さんはあいつを引っぺがしてください」


「いや、じいちゃんに知恵を貸してもらってくれ。あたしにはこいつからカルマを引きはがす方法がわからない。頼んだぞ」


 返事をするよりも先に、僕だけが領分からはじき出された。



「あたしも覚悟を決める時が来たかな」


 その時が来るのは覚悟していた。

 イレギュラーがあるかもと、想像はしていた。

 もっと前だったらよかったのにな、秋良を好きになる前だったら、霊山を殺すことにためらいもなかった。

 でも、こいつを殺したら、秋良はあたしを軽蔑するだろうな。

 それだけは嫌だな。

 それなら――


「神流をどこに隠したんだ?」


「あたしに勝てたら教えてやるよ」


 それなら、あたしも秋良を見習うしかないよな。

 無理だって諦めないで、こいつから意地でもカルマを引きはがしてやる。


 人間と融合しているカルマは、普段焔達が戦っているカルマよりは強くなっている。だが、百目木姉妹の様な三毒と比べると数段劣る。


「鬼石流炎技 炎星・七連(えんせい・しちれん)


 カルマの部分は鞭の様な触手に変わり、連続で攻撃を仕掛けてくるが、焔はそれらをかいくぐり、カルマ部分に攻撃を加える。

 それでも吹き飛ぶだけで乖離する様子はない。


「そんな攻撃、僕には効かない」


「だろうな」


 秋良が戻ってくるまで大体三十分か、それまでに引きはがせないなら、嫌われる覚悟はしないとな。


「今度はこっちから行くぞ」


 打撃がダメなら力ずくで引っぺがす。

 カルマ部分を掴み、一気に投げ捨てる。

 校舎の壁をぶち抜く程の力で投げてみたが、やっぱり離れることはない。


 こうなったら、カルマの部分だけを切り落としてみるか?

 いや、それだと霊山ごと切る可能性があるし、最後の手段に取っておくべきか。


「なんで、あいつだけなんだよ。僕とあいつは何が違うんだよ」


「全部だよ。秋良とお前だけじゃない、いじめてる奴も、何もしないクラスメイトも全員が違ってるんだよ」


「お前も嫌いだ。いじめられるのは、お前も僕が弱いからだって、他の奴らみたいに言うんだ!」


「ああ、お前は弱いんだよ。体も心もな」


「うわああぁぁああ!!」


 靄が空を覆い、雨のように攻撃が降り注ぐ。

 その全てを一刀で切り伏せる。


「ほらな、お前は弱いだろ」


「僕は弱くなんかないんだぁ!」


 殴りかかるその拳を受け止める。


「弱くないっていうなら、もっと本気でかかって来いよ」


 こいつの中にある煩悩を発散させれば、カルマの食料が無くなってこいつの中で存在できなくなるはずだ。

 時間もそんなにないし、煽りまくって行くしかない。

 こういうのは、氷美湖の専門なんだけどな。


「うおおぉぉおお!!」


 あたしが攻撃を受け止めると、霊山の体に傷がつく。

 こいつの手数も威力も上がって来てる。

 こいつの体がカルマの力に耐えきれていないのに、まだ抜け出せていない?


「おい、お前誰に何をされた?」


「うるさいうるさいうるさい! お前の言葉なんて聞くか!」


「調って奴か?」


「お前が調さんの事を口にするな!」


 その一撃は、大きく外れ地面を割った。

 だが、人間の体がその力に耐えられるはずはなく、その腕は傷だらけになってしまう。

 その調ってのが何かしたのか。

 あたし達に人間を殺させるために、カルマと無理に融合させやがったのか。


「悪かったな、無駄に苦しませた」


 あいつらがそれを目的にしてるなら、引きはがすのは無理だ。

 それならすぐ楽にしてやる。


 (えんじ)に触れ、居合の構えを取る。


「痛くないようにしてやるからな。鬼石流居合術 地裂き・炎月(ちさき・えんげつ)


 あたしは刀を抜いた。



「はぁ、はぁ、焔さん……?」


「相当急いで来たんだな」


 僕が氷美湖さんと戻ると、勝負は決していた。

 血だらけの霊山くんが地面に倒れ、焔さんは刀を握っていた。


「あんた、お姉ちゃんを責めないわよね」


「責めれるはずないです」


 師匠に相談しに行ったが、師匠でも助ける術を知らなかった。

 カルマと人間が混じり合うことはない、もしそうなったらもう殺すしかない。

 ここで焔さんを責めるのは、焔さんに死ねと言っているのと同じだと、師匠に怒られた。

 戻ってくるまでのほとんどの時間は、僕の気持ちが冷静になるまでかかった時間だ。


「死んでるんですよね?」


「いや、辛うじて生きてるよ」


「えっ?」


「生きてるよ、これから病院に連れて行くところだ。二人とも手伝ってくれ」


 えー……。

 生きてて嬉しいけど、僕の覚悟とかそういうのはどうすればいいの?


 それから病院に連れて行くと、霊山くんは即入院になった。

 外傷が酷く、何があったのかと聞かれたが、交通事故かもしれないと嘘を吐いた。

 警察の事情聴取は驚くほどあっさりと終わり、僕達は鬼石家に戻った。


「どうやってカルマを引きはがしたの?」


「勝手に離れたんだよ、あたしがやったわけじゃない。あたしも切る覚悟をしたんだけどな、抜く直前にあいつの体が倒れてカルマだけが立っていた。後はそのカルマを切ったタイミングで二人が来たんだ」


「よかったですけど、なんで突然はがれたんでしょうか?」


「それはわからないが、それを知ってるのは、調とかいう奴だろうな。そいつの名前を出したら激怒していたからな」


「その調って奴だけど、知ってる人はいなかったわ。卒業生や先生にも聞いたけど、知ってる人は無し。後はおじいちゃんに頼んだわ。来週には返事ができるらしいわ」


「師匠って人探しが得意なんですか?」


 師匠が人探しって意外な気もするけど、人脈もあるだろうし以外ではないのか。


「言ってなかったか? じいちゃんは警察に顔が利くぞ」


「そう言えば警察で教えてるって言ってましたね」


 そのつながりがあればそのくらいは手伝ってくれるのか?


「違うわよ。おじいちゃんというか、鬼石家は、代々コベットとかの事件を請け負ってるの。前に行ったクラブの件とかはそっち系」


「さっきの事情聴取があっさり終わったのは、鬼石家が絡んでるからだな。今回はひき逃げということで終わるはずだ」


 そう言えばそんな話、椿さんから聞いた気がする。

 あの時はヴァクダとかメリヨルとか神様が出てきて、混乱してたからぱっと思い出せなかった。


「後は、じいちゃんに任せよう」


 なんとも煮え切らないまま、今回の件は終わりを迎えた。

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